世界の底流  
イラン核攻撃が最終段階に
2006年1月9日


 以前から反戦派の間で米国がイランに対する核戦争を準備しているという議論が飛び交っていたが、このほどトロント大学グローバル・リサーチ研究所のミッシェル・ショスドウスキイ教授が「米国、イスラエル、トルコの3カ国が、イランを核弾頭でもって戦争を仕掛けるという計画が最終段階に入った」という分析を発表した。
 2005年初頭から、さまざまな準備が見られた。たとえば、ワシントン、テルアビブ、アンカラ、それにNATO本部があるブルッセルの間にシャトル外交が展開された。一方イラン側も12月には米国の攻撃に備えて、ペルシア湾での大規模な軍事演習を行った。
 最近では、ポーター・ゴスCIA長官がアンカラを訪問し、トルコのエルドガン首相に対して、イランの核および軍事施設に対する空爆するに当たって、政治的、軍事的支援、とくにトルコ諜報機関の作戦支援を要請した。
 イスラエルの高官によれば、シャロン首相は、昨年末、06年3月にイラン攻撃を行うことをイスラエル軍に許可した、という。この3月という予想は、IAEAのイラン核開発報告書が国連に提出される時期と一致する。イスラエル側はこれが報告書に影響を与えると信じているようだ。つまり、安保理のイラン制裁があれば、イスラエルの軍事行動を正当化することを可能にすることが出来ると判断したようだ。
 NATOの関与についてはまだ明らかではないが、NATOはすでに米国のイラン攻撃を追認したと見られる。

1.「衝撃と驚愕(Shock and Awe)」作戦

 イラク戦争の作戦名であったこの作戦の本部は、ネブラスカ州のOffutt空軍基地にあるペンタゴンと米戦略司令部に置かれた。
しかし、米軍筋によると、イランに対しては空爆が中心となり、その規模は対イラク戦争の時のShock and Awe作戦に匹敵するものだという。今回は、B−2型ステルス爆撃機が、カタールからのF−117ステルス戦闘機部隊の支援を受けて、ディエゴガルシア、あるいは米国本土から直接イラン国内の20数ヵ所の各施設を核爆撃する。
 昨年11月、米戦略司令部は「Global Lightening」作戦を行い、攻撃準備が整ったことを宣言した。これについては、アジアのマスメディアは、ターゲットは北朝鮮だと報道したが、作戦の時期から見て、むしろイランをターゲットとした作戦であった。
 
2.NATOとアラブ諸国の合意

 この攻撃についてEU内では目だった反対はない。現在ワシントン、パリ、ベルリン間で交渉が続けられているが、イラク侵攻時のようなフランスとドイツの外交面での反対はないようだ。一方、アラブ諸国は米・イスラエルの軍事作戦に非公式の協力を約束している。2004年11月には、イスラエル軍の将軍が、NATO司令部で、エジプト、ヨルダン、チュニジア、モロッコ、アルジェリア、モーリタニアなどの地中海諸国の将軍たちと会合した。またNATO・イスラエル議定書が署名された。
 その後、シリア海岸沖で、米、イスラエル、トルコの3軍が共同作戦を行った。翌年2月、イスラエルはいくつかのアラブ諸国とともに、「反テロ作戦」を行った。
 国際メディアはイランが世界平和の敵であると報道している。
 反戦派はこのメディア戦争に飲み込まれてしまった。少なくとも反戦運動のテーマになっていない。この「外科的爆撃」は戦争ではなくて、「平和維持の軍事作戦」であり、「イランの核施設を直接攻撃する」のであって、あたかもイランの核兵器開発を止める有力な手段であるという世論を作ることに成功している。

3.ミニ核兵器は市民を救う?

 戦術核兵器による先制攻撃は2002年以来、ブッシュ政権の戦争ドクトリンである。イランを核攻撃することは破壊的な結果をもたらす、という点については、マスメディアは沈黙している。この「外科的爆撃」では通常兵器と核兵器を同時に使用することは明白である。2003年の米上院の決議には、新世代の戦術核兵器、つまり広島の6倍の威力を持った「低度な?」「ミニ核兵器」は地下で爆発するので、「市民に安全である」と見なされている。
 “権威ある”科学者を動員した宣伝で、ミニ核兵器は戦争ではなく平和の道具に仕立て上げられている。「低度の」核兵器は戦場で使用可能となっており、通常兵器とともに、イランや北朝鮮などならず者国家に対する米国の反テロ戦争で使用される。なぜなら、現行の核兵器は全面核戦争に使用され、あまりにも破壊的である。しかし、低度の核兵器はそんなに破壊的ではない。したがって、使用可能であり、それだけ、抑止力をもつ。
 ペンタゴンによれば、5,000トンの威力を持つミニ核兵器は、地下深く爆発するので市民には安全であるという。長崎の原子爆弾の威力は21,000トン、広島は15,000トンであった。つまり、ミニ核兵器1個の威力は広島の3分の1ということになる。
 しかし、この“低度の”核兵器であるB61-11が地中に潜る精度は非常に低い。これまでの実験では40,000フィートの上空から落とした時、爆発する前に地下20フィートしか潜ることができなかった。しかも地上で爆破する時と比較して、はるかの多くの核エネルギーを地上にもたらすことがわかった。

5.USYTTCOMとは

 戦術核兵器での先制核攻撃作戦はネブラスカの米戦略司令部のもとに置かれており、ペルシ湾、ディエゴガルシア基地、イスラエル、そしてトルコなどの米国連合司令部隊に連携している。これはUSSTRTCOMと呼ばれ、通常兵器と核兵器を含む「グローバル攻撃計画」の任務を与えられている。
 そして、2005年1月以来、USSTRTCOMはイラン攻撃の準備のために、新たに「Joint Functional Component Command Space and Global Strike (JFCCGS)」という部隊が創設された。議会でも承認されたブッシュ政権の2002年先制攻撃戦略にしたがって核攻撃を開始する権限を与えられた。

5.コンセプト・プラン8022とは

 JFCCGSはイランまたは北朝鮮に対する核攻撃を開始する準備が整ったことを示しており、その作戦はコンセプト・プラン(CONPLAN)8022と名づけられている。このプランは海軍と空軍が潜水艦と爆撃機をともなった「核攻撃パケージ」を作るための実践計画である。JFCCSGSはCONPL8022、つまりイランに対する核戦争、を実行する任務を持っている。そして、CONPLANの発動を命令するのは、軍の最高司令官であるブッシュ大統領である。CONPLANはこれまでのように地上部隊を派遣しない。またこれまでの戦争計画とは違い、小規模の戦闘にとどまる。

6.イスラエルの役割

 2004年半ば以降、イスラエルは、イランを目標にした米国製の通常・核兵器の拡大に努めてきた。これは米国の軍事援助によるもので、2005年5月に完了した。
 イスラエルは、米国の軍事援助で、500個の「Bunker−Buster爆弾」を含む数千個のスマート爆弾を購入した。これは戦術核兵器である。
 これはロシアのプーチン大統領のイスラエル訪問と同時期にペンタゴンの国防治安協力庁が発表したもので、ロッキード社製造のBunker−Buster爆弾100個をイスラエルに売却した。メディアによれば、それはイスラエルの核の野望に対する警告であると報じた。
 また米国はより性能の良いGBU−28システムを売却した。これは地下深く建設された司令部を破壊することが出来る。これは2003年イラク戦争において、最も威力のある通常兵器であり、1発で数千人の市民を殺すことが出来るものである。イスラエル空軍はF15爆撃機にGBU−28爆弾を搭載している。
 B61−11は通常兵器BLUE113の核兵器バージョンであるが、これBunker−Buster爆弾と同じである。

7.戦争の拡大

 CNNは2005年2月8日、「イラン政府は、攻撃されれば、イスラエルに対して核ミサイル攻撃で持って報復する」と報じた。これにはイラクとペルシア湾岸諸国の米軍事施設も含まれるだろう。これは大規模戦争の拡大シナリオである。
 現在、アフガニスタン、イラク、パレスチナの3地域に戦争の脅威がある。イランに対する核空爆は中東と中央アジアの大規模な戦争に拡大する可能性がある。
 またシリア軍が撤退した後のレバノンにイスラエル軍が侵入する危険も出てくる。昨年のトルコ・イスラエル協定により、トルコが米・イスラエル作戦に参加する可能性も高い。
 イランは最近ロシアから29Tor M−対ミサイルシステムを購入した。10月には、ロシアの協力により、イランはスパイ衛星、Sinah−1をロシア製ロケットで大気中に発射した。続いて同様の対ミサイルが大気中に送られることになっている。
 これまで、米国のイスラエルのスパイ衛星がイランのイスラム導師のひげまで追跡できていた。英紙『サンデイ・タイムズ』はロシアとイランの間で10億ドルの最新防御システムの売買が成立したことを報じている。