世界の底流  
米国はエネルギー戦略で中国とロシアに挟み撃ちに
2006年9月1日


 米国は、ペルシャ湾岸、中央アジアのカスピ海、アフリカなどの石油などのエネルギー資源戦略において中国とロシアに包囲されている。
 米国はブッシュ流の“民主主義”の名の下に高価なイラクの政権交代を強行したがその背景にはグローバルなエネルギー戦略があるといわれる。
 ブッシュ大統領は、さる5月28日、ウエスト・ポイント陸軍士官学校の卒業式で「米国の安全は特に中東において民主主義の積極的推進にかかっている。このメッセージはダマスカスとテヘランにも伝わっているはずだ」と述べた。
 しかし、最近起こっていることは、必ずしもブッシュ・スタイルの民主主義の推進にあるのではなく、むしろ、エネルギー資源で中国とロシアの攻勢に対抗することに重点が置かれていることを示している。米国が、最近、グルジア、ウクライナ、ウズベクスタン、ベラルーシ、キルギスタンなどで起こっているさまざまな“色”の革命を支持していることの背景には、エネルギー戦略がある。西アフリカのギニア湾諸国とスーダンに対する米国のさまざまな介入も、その背景に石油資源支配の意図がある。ちなみに中国の石油輸入の7%はスーダンからの輸入している。勿論、ベネズエラのチャベス大統領、ボリビアのモラレス大統領に対する米国の態度も背後に石油問題があることはいうまでもない。
 しかし、最近、この米国のグローバルなエネルギー資源支配戦略は、最優先戦略だが、危険な兆候か出てきた。それは、米国に対する“反”有志連合が台頭してきたことである。
 米国はニクソン政権時代のキッシンジャー国務長官以来の対中外交の伝統をかなぐり捨てたようだ。今年4月、胡主席が訪米した際、ホワイトハウスでの記者会見に○○派の記者を呼んで、主席を侮辱した。
 同時にチェイニー副大統領は、バルト海の元ソ連領リトアニアを訪問した際、ロシアのプーチン大統領の人権問題やエネルギー政策を非難した。とくにロシアのエネルギー政策が「脅迫」の道具になっていると非難した。これはプーチンに対する直接の侮辱であった。
 その数日後、今度はライス国務長官がロシアには民主的改革が必要である」といい、さらに中国については、3月、東南アジア訪問中、「アジアのネガティブな勢力」と呼んだ。
 米国は中国の石油政策について、「ルールに沿っていない」としつこく非難している。しかし、過去100年間米国のエネルギー政策はまさしくルール破りに徹してきたのであった。
 現在、中国は、米国政府の赤字国債の最大の投資国である。ロシアは米国に次ぐ第2の核保有国である。にもかかわらず、この両国に対する非難は、米国のエネルギー戦略が、ブッシュ政権が意図したように進まないことを示している。

中ロのSCO構想

 今年6月15日、上海で開かれた中ロ主導の上海協力機構(SCO)は、オブザーバーであったイランを正式のメンバーにした。これは、イランをユーラシアのエネルギー協力構想に取り込もうというものであった。
 SCOは、2001年、中国、ロシア、カザクスタン、キルギスタン、タジキスタン、ウズベクスタンによって設立された。これは、公式には、政治、経済、貿易、科学技術、文化、教育、エネルギー、運輸、観光、環境保護の分野で協力していくことが謳われている。しかし、最近では、SCOは、米国の軸に対抗する、中央アジアにおけるエネルギーと金融ブロック化の様相を強めている。
 そして、最近では、メンバーの中には米国へのエネルギー・金融の依存度を弱めようとするものが出てきた。

ロシアのエネルギー地政学

 プーチン大統領は、今年の年頭教書において、今年中にルーブルをユーロなど主要な通貨と兌換可能にし、これを石油やガスの輸出の決済に使う計画だと発表した。しかし、はやくも7月1日、つまり計画されたものより半年早く、ルーブルの兌換制度が可能になった。また、ロシアは現在保有している多額のドル外貨を減らす計画であり、そのうちの400億ドルを金の購入に充てる計画であることを発表した。
 ロシアの天然ガス運輸の国営企業Transneft社は、ロシアの天然ガス運輸を独占している。そしてロシアは、現在までのところ天然ガスの埋蔵では世界一である。そして、第2位はイランである。イランがSCOに加盟したことにより、SCOは世界の天然ガスの埋蔵では、世界の大半を握ることになる。言うまでもないことだが、石油についても同じようなことが言える。また、イランがSCOに加盟したことによって、日本や西側諸国への石油タンカーの通り道であるホルムズ海峡を制覇するという潜在的可能性も否定できない。
 5月末、ヨーロッパへの最大の天然ガス供給国であるロシアとアルジェリアは、エネルギー協力を強めることに同意した。アルジェリアはロシアの会社にアルジェリアのガスと石油の油田への独占的なアクセスを認め、さらにロシアのGSZPROM社とアルジェリアのSonatrach社はフランスへの天然ガスの供給で協力することに同意した。ロシアはアルジェリアのロシアに対する47億ドルの債務を帳消しにした。その見返りにアルジェリアはロシアから最新のジェット戦闘機、航空防衛システム、その他の武器総額75億ドルを購入することになった。
 5月26日、イワノフ国防相は、ロシアがイランに最新式のTor-M1型対空ミサイルをはじめ多くの最新兵器を供給すると発表した。
 エネルギー分野でのロシアの驚くべき地政学は、国営のGAZPROM社がひそかにイスラエルのオルマート首相の金持ちの友人Benny Steinmetzと、トルコ・イスラエル間の海底パイプラインを通じて、イスラエルに天然ガスを供給する交渉を行っている、という事実である。
 イスラエルの『Yediot Ahronot』 紙によると、オルマート首相官邸筋はイスラエルがGAZPROMの提案を受け入れるという。ここ数年間、イスラエルの天然ガス不足の恐れがあると言われてきた。たとえばTethys海底ガス油田は、数年で枯渇するといわれる。エジプトのシナイ半島からの天然ガスを購入してきた。イスラエルは英国ガス社とガザのガス油田開発について交渉をしてきたが、掘削権をめぐってもめていた。しかし、エジプトとガザからの天然ガスの供給があっても、イスラエルが他に供給源を見つけない限り、2010年に枯渇するだろう。
GAZPROM社から供給されれば、それは、2年前、トルコに影響力を持とうとしてロシアが建設したが、現在、あまり使われていないロシア・トルコ間のBluestreamパイプラインを通って運ばれることになる。ロシアは、これまで米国が独占していたイスラエルに対する影響力を持とうとしている。

中国のエネルギー地政学

 中国もまた、エネルギー資源の確保に動き出した。年率9%の成長を記録している中国経済は大量の天然資源を必要とする。1993年、エネルギー資源については輸入国となった。2045年には、中国はエネルギーの45%を輸入に依存することになるだろう。
 5月26日、新しく建設したAtasu油田から中国の新彊省のAlataw峠を越える1,000キロの石油パイプラインの建設が完成し、カザクスタンの原油が中国に供給された。カザクスタンもまたSCOのメンバーだが、ソ連邦崩壊後は、米国の勢力圏と見なされており、ライス米国務長官の昔の石油会社であったChevron Texacoが主要な石油開発業者である。
 2011年には、中国がパイプラインを、2008年までに国内最大の石油精製所建設を予定しているDusahnziまでの3,000キロを延長建設する。中国は7億ドルのパイプライン建設を全額負担した。2005年、中国のCNPCの国営石油会社CNPC社は42億ドルでPetroKazakhstan社を買収した。これをもって、カザクスタンの油田の開発費用に充てる。
 中国はまた、ロシアとシベリア石油を中国の北東部にパイプラインで運ぶ交渉をしている。それは2008年に完成するよていである。また、ロシアの天然ガスを中国の北東部のHeilongjianにパイプラインでは瘤計画もある。中国は、日本を追い抜いて、米国に次ぐ世界第2に石油輸入国になった。中国とロシアは、電力の共同化を図っている。さる5月、中国の国営Grid Corpは、2010までにロシアからの電力の輸入を5倍にすると発表した。
 このように中国は、石油資源の確保に躍起となっている。そこで、伝統的に米、英、仏の石油資源市場であったアフリカに、手を伸ばしている。たとえば、7%の石油を輸入しているスーダンのパイプライン建設の最大デベロッパーとなっている。また、西アフリカで活動している。そこはギニア湾岸地域で、硫黄分の少ない高価な石油の埋蔵がある。
 2000年、中国・アフリカ・フォーラムが結成された。以来、中国は最貧国28カ国からの190品目の輸入品の関税を撤廃した。また12億ドルの債務を帳消しにした。
 最近、中国の輸出入銀行がアンゴラに20億ドルのソフト(無利子)ローンを供与した。見返りに、アンゴラは中国に沿岸の浅瀬での石油探索の権利を与えた。
 これと対照的に、米国はアンゴラに興味を示してはいるが、最近まで、EssonMobilがシェル石油とともに利権をもっていた飛び地のカビンダ地域に限定されている。これは、アンゴラでは明らかに中国シフトが起こっていることを示している。
 中国は、アンゴラで鉄道、道路、光通信ネットワーク、学校、病院、オフイスビル、それに5,000軒の住宅などのインフラ建設を手がけている。首都ルワンダと北京を直接に結ぶ新しい空港建設もおこなっている。
 間接的にだがスーダン政府の支持を受けて、中国は、隣国チャドのきわめて危険な政変を目論んでいる。チャドは石油の埋蔵国である。今年はじめ、ウォフオウィツ世銀総裁は、チャド政府から石油輸出を停止するという脅迫を受けて、世銀の融資を止めるという計画をあきらめた。現在、チャドでは、ExxonMobil石油が最大の利権を持っている。しかし、スーダンがチャドの反政府ゲリラを支援している。チャドのIdriss Deby政権は、腐敗で悪名高いが、1,550人のフランス軍によってかろうじて守られている。米国は、フランスに同調して、Deby政権を支援している。
 スーダンは国内の石油探索については西側の石油会社より、中国を信頼している。それは、1997年の米国のスーダン制裁法に由来する。これによって、多国籍企業はスーダンとビジネスが出来なくなった。また、チャドにスーダン寄りの政権が樹立されれば、現在進行中のチャド・カメルーン石油パイプライン計画は反故になるだろう。中国はこれに付け入って、チャドの石油をスーダン経由で中国に向かわせるだろう。
 胡主席は米国訪問の後で、アフリカのナイジェリアを訪問した。同国は、長い間、米国の石油勢力圏と見なされてきた。
 アフリカ最大の石油産出国であるナイジェリア訪問では、胡主席は、40億ドルのインフラ建設の融資の約束と引き換えに、ナイジェリアで4ヵ所の石油探索の利権を得た。
 さらに中国は、日産11万バレルの生産能力を持つKaduna製油所の支配権を持つ株主となり、鉄道と発電所を建設し、開発中のOML-130沿岸石油・ガス油田の45%の株を取得する。中国の国営CNOOF社の会長によれば、中国は世界最大の石油とガスの湾岸地域に巨大な利権を持つことになる。
 現在までのところ、ナイジェリアの石油生産は西側の多国籍企業にほとんど握られている。しかし、ここでも中国シフトが起こり始めている。
 同じようなことが、ガボン、象牙海岸、リベリア、赤道ギニアでも起こっている。