世界の底流  
G8がアフリカを支援する理由
20058月15日

     7月にスコットランドのグレンイーグルスで開かれたG8サミットでは、別名「アフリカ・サミット」と呼ばれた。これはアフリカの貧困の根絶を訴えるロックスター、ハリウッドの俳優などのセレブをはじめとして、ビル・ゲイツ、ジョージ・ソロスなどの億万長者、そして、OXFAMなどの巨大NGO、ICFTUなどの巨大労組などの「Make Poverty History(MPH)」キャンペーンにG8主催国のブレア首相、ブラウン蔵相が応えたのであった。
     そして、貧困根絶のための手段として、債務帳消し、ODAの倍増、貿易拡大のための市場開放が主要な議題となった。
     先進国での突然のアフリカ・フィーバーに対して、当事者であるアフリカ人はどのように受け止めているのだろうか?たしかにMPHキャンペーンは先進国主導で行われた。アフリカ人は、7月2日のロンドンで開催された「ライブ・エイド・コンサート」に招待され、ロック歌手のマドンナの抱擁を受けたエチオピアの女性ぐらいであった。彼女は20年前のライブ・エイドのきっかけとなった、飢えた母親の乳にすがるやせ衰えた赤ん坊であった。彼女はライブ・エイドのコンサートの収益で救われ、美しい女性に成長していたのであった。
     グレンイーグルス・サミットでG8は、債務帳消しについては、わずか18カ国、そのうち、アフリカは14カ国が対象国にとどまった。ODAはそれぞれ倍増することを公約したが、その実行には多くの疑問が残っている。そして、最後の貿易の拡大については、掛け声だけにとどまり、具体的な約束をしていない。貿易こそが最大の問題である。
     アフリカの主要な輸出農産物の1つである綿花を例にとってみよう。これは2003年9月のカンクンでのWTO閣僚会議で、ブリキナファッソ、マリ、チャド、ベニンの綿花生産国が共同して米国に対して、綿花の輸出補助金の撤廃を要求した。それは、米国の補助金漬けの安い綿花が世界市場のダンピングされた結果、アフリカの農民は破産に追い込まれているからであった。
     なぜ米国の綿花は安いのか?25,000万の米国の綿花生産者は年間40億ドルの輸出補助金を政府から受けている。たとえば、アーカンサス州の生産者は年間600万ドルの輸出補助金を受けている。この額は、マリの25,000万人の綿花生産農民の年間収入に等しい。
     米国政府が毎年支払っている綿花輸出補助金は、いくつものアフリカの国のGNPを上回っている。またそれは米国が出している貧しいアフリカの5億人へのODAの3倍である。
     しかし、米国の個々の農民がこのような巨額の輸出補助金を受け取っているわけではない。ジャマイカの酪農人は英国からの安いミルクの輸入で困っている。米国の農民は中国からの安いりんごの輸入に困っている、などなど。このように、農民たちが、世界貿易のなかで困窮化していく一方で、巨大アグリビジネスの独占化が容易になっていくのである。
     農産物の世界貿易はたった10の巨大アギリビジネスによって握られている。その中で、最大はカーギル社である。カーギルは世界の穀物取引の60%を独占している。農産物の輸出補助金を受けている大ものの中には、メロン財閥のTed Turnerや David Rockefellerがいる。
     これら巨大アグリブジネスは途上国の農民を破産させているばかりでなく、先進国の小農民をも破産に追い込んでいる。米国では、2002年には90万人いた農民の数が、2004年には70万人に減少した。
    EUには700万人の農民がいるが、1日あたり3人の割合で農民の数が減っていて、その農地は大規模なアグリブジネスに買収されている。アフリカの貧困に大きな関心が集まっている英国では、55,000ヘクタールの農地を所有するウエストミンスター公は年間300,000ポンド(約6,600万円)を農地に対する補助金として受け取っており、さらに、1,200頭の乳牛に年間350,000ポンド(7,700万円)を受け取っている。
     さらにこれら巨大なアグリビジネスは、世界最大の企業であるウォールマートのような流通資本を通じて、世界市場に供給している。一方、農民たちのマーケティングのチャネルはますます狭められている。
    アフリカの農産物輸出は減少の一途をたどっている。たとえば2001年のウガンダの農産物輸出額は1億1,000万ドルであったが、これは5年前に比べると、なんと5分の1に減少したのであった。
    先進国は、アフリカの食糧不足は、アフリカ自身に原因がある、と言っている。EUと米国の国際開発局は、エチオピアに対して、エチオピアの飢えはエチオピア自身の責任である、と警告した。
    しかし、飢えの原因がEUや米国の政策にあることは自明の理である。2004年、EUは、農業補助金の支出を可能にしている「共通農業政策(CAP)」の改革を公約したが、その内容は、EUの農民が完全に保護されるためには2013年まで維持されるという。  
    たとえば、EUは域内の需要量を200%も上回るミルクを生産している。
    これらの余剰農産物はどこへいくのだろうか?そのマーケットはアフリカである。アフリカはEUと米国の農産物の最も有望な市場である。いくらかの債務帳消しやODA増額も、アフリカに安い農産物をダンピングするための方策であるといっても過言ではないだろう。先進国はこの巨額な輸出農産物への補助金を撤廃しなければならない。アフリカの開発は農業の回復なくしては、達成できないからであす。