イラク自衛隊派兵違憲訴訟  
『イラク派兵違憲訴訟で不当な判決』
 
 私はこれまで世界の抑圧された人びとの側に立って、評論活動を行なってきた。米国のイラク戦争は、国際法違反だと言ってきた。日本の自衛隊が参戦することになったとき、もはや、評論するだけでなく、行動をしなければならない、と思った。その時、憲法学者の尾形憲さんから東京地裁に100人が個人訴訟をするという話を聞き、喜んで参加した。
 驚いたことに、日本には政府の憲法違反行為を訴える裁判所がない。これは先進国では考えられないことだ。そこで、「自衛隊が憲法に違反してイラクに派兵された」ことによって、「私個人が被害を受けたので、政府に対して派兵を差止め、賠償金を支払え」という訴えを地裁民事部に提訴した。前段は、自衛隊の派兵が違憲であるかないか、後段では、私が被害を受けているかを、地裁民事部が判断することになる。
 訴状を提出したのは2004年3月30日であった。その前に、「靖国訴訟」で福岡地裁が、「首相の靖国参拝は違憲」、だが「賠償金請求は却下」という判決が出ていた。政府が勝訴したことで、上告が出来ず、判決が確定した。原告側は「違憲」という判決を獲得した。そこで、私の訴訟も、これに類似した判決を得ることが目的だった。
 私は、第1に自衛隊の派兵は憲法に違反している、第2にイラク特措法に違反している、第3にイラク戦争は国際法に違反している、ことを訴状に書いた。
自衛隊が海外に派兵されたのはイラクが初めてでなく、すでに14カ国に派兵されている。しかしそれらは、ともかく国連による停戦があり、国連のPKOであった。しかし、イラクの場合は米軍への参戦である。
 イラク特措法は、それ自体憲法違反だが、一歩譲って国会で採択された国内法だとしても、戦闘地域には派兵されないことになっている。私は、イラク全土でイラク人が米軍に対して抵抗闘争を繰り広げていることを詳細に陳述し続けた。同時に、イラク戦争が国連憲章に違反しているという事実を述べてきた。裁判官に提出した訴状、準備書面、陳述書は膨大な量になった。
裁判はだらだらと2年余にわたって続き、今年5月15日に判決が下りた。裁判官は、私が主張した、イラク戦争の国際法違反、自衛隊の派兵の憲法違反、特措法違反には単に原告北沢の主張として列挙しただけで、「私には賠償金を請求する資格はないので訴えを却下する」という判決文であった。
 なぜ、原告には資格がないのか。それは、憲法前文には「平和的生存権」が謳われているが、これは理想であって、条文ではない。憲法9条違反という訴えは、民事裁判所の管轄ではない。それは、「民衆訴訟」の範疇に入り、現実にはその機関は日本にはない、と判決文に書いてある。これを、私なりに解釈すれば、裁判所は政府の憲法違反を審議する気はなく、政府は選挙で選ばれたのだから「お前の責任だよ」と言っている。
 私のささやかな抵抗は挫折した。ここから学んだことは、裁判は、あくまでも草の根の抵抗運動の補助にしか過ぎないということであった。民衆が大きな声を上げ、行動することが基本である。
イラクの陸上自衛隊は撤退した。これまで保護してくれていた英国軍が撤退するので、大慌てに撤退したのが理由である。しかし、安全な航空自衛隊は残っている。イスラエルのパレスチナ攻撃、レバノン戦争、イラン攻撃の可能性など、中東の紛争は拡大する一方である。ヨーロッパや米国のように、街頭に出て反戦のうねりをつくることだ。