DebtNet通信 (番外編)  
「ジャカルタ会議の報告」

プレスレリース
2006年6月12日
北沢洋子
アジア太平洋資料センター(PARC)
途上国の債務と貧困ネットワーク(DebtNet)

 



 5月末、プレス・レリースでお知らせしましたように、5月27〜9日の3日間、ジャカルタで、「不当な債務の帳消しについての国際会議」が開催されました。ここには、インドネシアの「債務と開発BGOフォーラム(INFID)」の加盟団体をはじめ、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、ラテンアメリカ15カ国から、約150人が参加しました。
 ここでは、低開発国に限らず、中所得国の不当な債務の帳消しをとりあげていくことが決まりました。インドネシアで開かれたというところから、増す最初に不当な債務のなかでも特に独裁政権時代の債務の帳消しをかちとっていくことに合意しました。
 フィリピンのマルコス、インドネシアのスハルト、チリのピノチェト、コンゴ民主のモブツ、ニカラグアのソモサ、ハイチのデュバリエなど悪名高い独裁政権時代に生じた債務であり、かつ独裁者が簒奪した債務を、民主主義を回復した人びとがなぜ支払わねばならないのか、ということはこれまで長い間、議論されてきたところです。
 しかし、債権者にとって見れば、これを帳消しすることは、独裁政権に融資し、直接支えてきたという犯罪行為を認めることをいみするので、ガンとして、反対してきました。
 最近、この問題に燭光が見えてきました。というのは、アルゼンチン(75%)、イラク(80%)、ナイジェリア(60%)の債務が帳消しになり、これが、すべて独裁政権による債務であったのです。勿論、それぞれ、国際政治上、地政学上、さまざまな理由がありますが、ともかく、独裁政権時代に生じた債務の帳消しが行われたことは、一歩前進です。
 今回のジャカルタ会議では、主として先進国の市民社会のイニシアティブとして始まったこれまでのジュビリー・キャンペーンとは異なり、インドネシア、フィリピンなど、債務国の市民社会からのイニシアティブによって、帳消しキャンペーンが提起されたことが、
特徴的です。
以下は、ジャカルタ会議の声明です。
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声明

不法な債務の帳消し国際会議
2006年5月27〜9日
ジャカルタ、インドネシア

独裁者の債務を帳消しにせよ
不当な債務を帳消しにせよ

 不当な債務の帳消し国際会議は、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ15カ国の社会運動、市民社会組織を代表する150人が参加した。同時に債務奴隷のくびきと闘っている人びとに共鳴している国会議員や政府官僚たちも参加した。
 この会議はアジア・太平洋のリアリティ・オブ・エイド、IBON財団、インドネシア海は圧NGOフォーラム(INFID)、アジア太平洋資料センターが主催した。そして、ノルウエー・チャーチ・エイド(NCA)、ヨーロッパ債務と開発ネットワーク(EURODAD)、アフリカ債務と開発ネットワーク(AFRODAD)、アジアキリスト教会協議会(CCA)、カイロス・カナダなどが共催した。

 会議の目的は、不当な(Illegitimate)、汚い(Odious)、独裁者(Dictator)の債務が南の国ぐにの貧しい人びとに及ぼしている影響していることをより深く理解することにあった。これらの債務の帳消しの戦いの中で得たそれぞれの運動と組織が得た経験を持ち寄った。そして、それぞれの国内、国際キャンペーンに見られた断固たる決意に勇気づけられた。債務に反対するグローバルな闘いは多くのものを獲得しており、この闘いを続け、強化していくことを確認した。

 南の人びとは、過去数十年にわたり債務と債務の返済に何兆ドルも奪われてきた。これは経済的低発展性と社会的後進性の最大の原因となっている。毎年、何十億ドルも世界で最も豊かな国ぐにの銀行や国家に返済しているにもかかわらず、債務は減らないどころか、より増えている。2004年には2.6兆ドルに達した。南の政府の中には、国家予算の半分が債務返済に使われた例もある。これはアジア、アフリカ、ラテンアメリカの人びとを何代にもわたって苦しめてきた飢餓、貧困、惨めさの原因である。

 貪欲なパリクラブ政府、銀行、国際金融機関などはこれらのことに無関心である。彼らが関心を持つのは、どのような社会的、文化的、また環境面でも主権を破壊するかではなく、ただ返済されるかにある。重債務貧困国イニシアティブ(HIPCs)、や多国間債務救済イニシアティブ(MDRI)といったいわゆる債務問題のイニシアティブさえも不幸にも単なる飾り物、あるいは不十分なものに過ぎない。同時、ノルウエー政府の「不当な債務の存在を認める」といった積極的な行動はあまりにも少ない。

 債務の返済には、南の人びとの搾取、彼らの社会公共サービスへの権利を奪い、農業、林業、鉱物資源の略奪を伴う。債務はまたネオ・リベラルなグローバリゼーションの破壊的な一方的な政策を押し付けるのに使われている。このグロテスクな状況を終わらせるべきである。さもなければ、世界の大多数の貧しい人びとがさらに貧しくなる。北の政府はミレニアム開発ゴール(MDGs)や開発のための金融イニシアティブなどをレトリックから実行に移すことが求められている。

1.  南の債務の多くは、明らかに重債務であり、腐敗にまみれており、債権者に強制されたものであり、人びとと環境に害となるが、北の掲載政策に利益となるプロジェクトにために使われたため、債務を返済するためにまた借りているのである。人びとはこのような不当な債務の返済を拒否している。
我々はこのような債務を100%、無条件で帳消しすることを呼びかける。

2.  とくに我々は、マルコス、スハルト、ピノチェト、デュバリエ、モブツなどの独裁者、アパルトヘイト政権、軍事政権といった世界でも最悪の独裁に北の債権者が喜んで貸した債務にぞっとしている。この債務は1950〜1996年間で4、510億ドルにのぼっている。これは単に独裁者と北の共犯者を富ましただけで、一方では、何十万人もの殺害、行方不明、拷問、人権侵害を生み出した。
我々は、南の人びとに課せられた汚い債務である独裁者の債務を直ちに帳消しすることを呼びかける。

3.  南の人びとは長い間債務を返済してきた。しかし、これは不当であり、汚い債務であったので返済すべきでなかった。このような長い間の不正義はわすれさるべきではなく、正されるべきである。
我々は、これら不当、かつ独裁者の債務の返済分の返還を求める。

4.  南の債務と返済はあまりにも大きくなっており、さまざまな形態をとっているのでその全貌を知るのは困難になっている。北の債権者は自己の犯罪と与えた災害の大きさを隠すために使っている。
   我々は、不当な、独裁者の債務の帳消しキャンペーンを支持するために南の債務の透明な公的監査を即時行うことを呼びかける。

5. 我々は、この歴史的な重い、不正義の債務にたいする闘いが社会運動や市民社会組織の力の結集によるものであり、また進歩的な国会議員や政府官僚と協力した賜物であることを認める。我々は南と北において現在進行中のキャンペーンやイニシアティブに貢献する。すべての不当な、独裁者の債務の帳消しに向かって、以下のことを行う;

a. 南の国に与えた債務の重圧とその影響を理解するために;
○ 債務についての市民の監査を行う。その債務が生じた状況、その影響など
○ 不当な、独裁者の債務の中でもっとも明らかな例についてのケース・スタディを行う。問題を明確にし、キャンペーンに利するため

b. 債務問題についてのキャンペーン活動家の能力の向上
○ 基本的な情報、ハンドブック、研修
○ これまで成功したナイジェリアやアルゼンチンのケース・スタディ

c. 広範な、持続した草の根の教育キャンペーンを展開する
○ 判りやすく、具体的な地元の問題を扱う。文化的な活動などを利用する
○ コミュニティや学校で行う

d. 広範な大衆に届くようメディア・キャンペーンを行う

e. 我々の債務を帳消しする努力を強めるため議会のイニシアティブを促進し、支持する
○これには債務帳消し、債務の公的監査、債務政策の変更といった議会決議、法律の制定が含まれる

f. 社会運動、市民社会、議員、弁護士、評論家、公務員、学者、その他債務政策に反対する市民たちの間の協力とネットワークを強める

g. 社会運動、市民社会、議員たちの北と南、南と南の協力、ネットワークつくり、連帯を発展させる
○ そのためにコア・グループを設ける
○ 債務問題を政治問題化するためにグローバルな教育と大衆行動を行う

h.北の国ぐにで一般大衆に向けて、及び債権者政府、2国間援助機関、多国間機関に対してアドボカシイキャンペーンを行う。

 債務の重圧は現代の最も緊急な問題である。汚い、不当な債務の帳消しキャンペーンは南の債務と外国の支配を終わらせる闘いの第1歩である。しかし、南の人びとがこのように長い期間債務の重荷に苦しめられてきたばかりでなく、世界の一部の人びとが押し付けた貿易と投資の自由化、民営化、規制緩和といったネオ・リベラルな政策の結果でもあるのだ。
 債務の帳消しの闘いはより正義で人間的な社会を実現しようとする闘いの一部である。