原子力規制委員会は再稼働推進委員会! その209 2019年10月8日 「新規制基準」に不備があり適合性審査がずさんで「基準」すら満たしていない〜 石橋克彦さん「内陸地震に対する原子力発電所の安全性は確保されていない」 |
岩波科学2019年8月号の特集「新たな安全神話を生まないために」 は、5サイト9基の原発が稼働している状況でタイムリーな企画。 特に、石橋克彦さんの「内陸地震にたいする原子力発電所の安全性と 理学・工学問題」(9頁)が興味深いので紹介する。 最近「原発と地震」問題への関心が薄れているように感じている 石橋さんは、次のように原子力規制委員会を痛烈に批判している。 <原子力規制委員会の「新規制基準」に不備があり、しかも原発再 稼働のための新規制基準適合性審査が杜撰(電力会社の言いなり)で 「基準」すら満たしておらず、日本の原発の内陸地震にたいする安全 性は確保されていない> 以下では、長論文からその一部をピックアップして紹介する。 なお、内陸地震(陸側のプレート内で起こる地震)が原発に影響を 与える要因(地震動、地表付近の断層のズレ、地震時の地震後の地殻 変動、津波、大余震)の中から、ここでは地殻変動と大余震と最大地震 に話を限っている。 ◎新規制基準適合性審査において、地震時地殻変動が十分に吟味されて いない。 <・2007年3月の能登半島地震(M6.9)で北陸電力志賀原発の北方の 海岸が約40cm隆起した。 ・7月の新潟県中越沖地震(M6.8)では東京電力柏崎刈羽原発の敷地が 10cm程度隆起して、そのためかどうかは未詳だが、全7基の原子炉 建屋とタービン建屋で建屋ごとに相異なる微量な傾斜変動が生じた。 ・関西電力大飯原発について、渡辺満久は、FO−B〜FO−A〜熊川 断層の3連動断層の左横ずれ逆断層運動が大飯原発側を(約1.5m〜 5m)隆起させてきたと判断している。> ◎新規制基準の耐震安全性で、余震にたいする考慮はまったく含まれて いない。新規制基準に余震の考慮を明記すべきである。 <・2004年10月23日17時56分の新潟県中越地震(M6.8、最大震度7) は余震活動が活発で、同日18時03分(M6.3、最大震度5強)、同日18時 11分(M6.0、最大震度6強)、同日18時34分(M6.5,最大震度6強: 最大余震)にM6.0以上の余震が発生した(その後もM6前後の 余震あり)。 川口町役場で観測された東西方向の最大加速度(単位cm/s2)は、 本震で1676、最大余震で2036であった。 ・2007年7月16日10時13分に東京電力柏崎原発を直撃して全7基に被害 を与えた新潟県中越沖地震(M6.8)は、不幸中の幸いなことに余震活動 が不活発で、最大余震は同日15時37分のM5.8の地震だった。 ・もし2007年中越沖地震の余震活動が2004年中越地震のようだったとし たら、最悪の場合には柏崎刈羽原発で過酷事故が起きていたかもしれ ない。> ◎柏崎刈羽原発において、考慮すべき「最大地震」を想定できていな い。東京電力と規制委は、原子力安全・保安院時代の古い審査をなぞっ ただけで誤魔化している。 <・東京電力は、柏崎刈羽原発に最も影響を与えるのはF−B断層で 発生する断層長36kmの地震だとして、基準地震動の最大加速度を1〜 4号機で2300cm/s2、5〜7号機で1203cm/s2と策定し、審査書 はこれを新規制基準に適合していると認めた。 ・しかし驚くべきことに、この結果は、同原発が2007年新潟県中越沖 地震で大被害を受けて全機停止し、その再稼働を当時の原子力安全・ 保安院に申請して、保安院と安全委が認めたものとまったく変わらない。 ・柏崎刈羽原発の最大地震としては、その全長に沿う断層長50〜60km 程度、M7.5程度の地震を想定すべきである。 ・東日本大震災と福島原発事故は、それまで政府の地震本部がM7〜8 程度の地震が6領域ぐらいで別々に起こると予測していた広大な範囲で、 M9.0の超巨大地震が一挙に発生したために生じた。よって、地震の想定 は最大限にしておかなければいけないというのが東日本大震災の最重要 な教訓の一つである。> ◎原発は社会にとって必要不可欠な施設というわけではない。原発の リスク・ガバナンスのなかには、リスク回避(原発をなくす)という 選択肢が、理学・工学に関係なく、入っていて当然だ。 <・科学技術文明における人間活動が飽和状態に近づき、「脱成長」 を真剣に考えるべき時代においては、モノ造りの抑制も考えるような 工学が重要になるのではないだろうか。 ・日本の原発に関して根本的に重要なのは、…「国策民営」で推進され てきたことであろう。民営だから、東京電力が福島第一原発の津波対策 を蔑ろにしたようにコスト削減圧力が強い一方で、国策を背景に経営的 にも技術的にも謙虚さ・誠実さといった姿勢が不足がちである。安全性 確保の科学技術に関しても、中央政府が莫大な組織的・財政的・人的 資源を投じてバックアップしている。 ・(残念ながら)国策遂行を妨げるような批判をする(サイエンスに 忠実であろうとする)のはとんでもないことだと思っている理学者は、 実は決して少なくない。> 長文になってしまったが、地震学者石橋克彦さんが、原子力規制委員 会や協力する学者たちへの怒りとともに、私たちがずっと訴え続けてい る「新規制基準」の不備と適合性審査の杜撰(電力会社の言いなり)を、 科学的に分かりやすく説明してくれている。 石橋さんが、川内原発の適合性審査に対して「行政不服審査法」に 基づき審査が「違法」であると規制委に厳しく意見陳述されたことを 思い出した。よろしければ原文をどうぞ。 |