伊方原発3号機が稼働した8月12日に、世耕経産大臣が談話を発表、「伊方原発が、原子力規制委員会によって世界最高水準の新規制基準に適合すると認められ、地元の理解を得て、原子炉の起動に至ったことは、……」と語った。「地元の理解」も得ていないのだが、「世界最高水準の新規制基準」が未だにのさばっていることにあきれる。
新規制基準策定の検討チームのメンバーであった勝田忠広さん(明治大学)が、「福島事故5年後の原子力安全規制:現状と将来の課題」(岩波「科学7月号」)を述べ、新規制基準が「世界最高水準」でないことを例証している。既出の指摘も多いが、新規制基準と審査の欠陥を基準策定参加者が語っているので紹介する。 1 新規制基準の問題と安全目標の欠如
○新規制基準の策定は公開の場で議論されたが、最終判断は原子力規制委員会が担うものであり、各メンバーの意見がすべて反映されてはおらず、委員会が独自に方向性を決めたものも少なくない。
○加圧水型(PWR)の格納容器フィルターベントシステムは施行後5年までの設置でよいという猶予期間が設けられた。PWR特有の再循環ポンプの危険性など、十分な議論はされなかった。
○原子炉立地審査指針(立地基準)に立ち返らなかった。炉心溶融燃料の流出を止めるコアキャッチャーなどは規制要求されていない。
○根本的な安全規制の欠陥として、安全目標がいまだ不明瞭である。
例えば米国では事故時の発電所近傍の個人の急性死亡リスクは、他の事故との合計の0.1%を超えないことが示されている。旧原子力安全委員会は施設付近の公衆の平均急性死亡リスクは年あたり100万分の1程度を超えないことを目標とする案を作成していた。現在の原子力規制委員会の安全目標は、性能目標に相当し、視点が事業者を向いており、一般公衆は考慮されていない。
2 審査会合の問題と規制能力の欠如
○現在行われている審査会合において、適合性の条件が軽視されている。
・九電川内原発で、再稼働後の同年12月になって突然、予定していた新設の免震重要棟を撤回した。
・関電高浜1,2号機では、難燃性ケーブルを導入する新しい規制要求に対し、全長1300kmに及ぶケーブルの4割を防火シートで覆うという方針が認められた。
○新規制基準が仕様規定でなく性能規定で要求しているためであるが、背景には規制能力が追いついていないという重大な問題がある。
○東電柏崎刈羽原発をBWRの中で優先的に審査する方針を明らかにしたが、その意思決定過程は不明瞭である。
3 確実な規制に向けて
○原子力の危険性の明示化:安全目標の決定と費用便益分析の活用
○包括的な安全規制の強化:炉安審・然安審等の活用
原子力規制委員会は、施設が人命に及ぼす危険性や、安全性よりも経済性を選択していると思われる事業者への対応については踏み込んでおらず、福島事故以前と違いはない。
以上
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