テロ対策特別措置法案・自衛隊法改正案の問題点(2001.10.18/10.21改訂)

岡本篤尚(広島大学)


もくじ

I.米軍の報復攻撃の正当性
Q1.米軍の報復攻撃は許されるの?
Q2.武力行使はテロ対策として有効なの?
Q3.米国の報復攻撃は国際法上許されるの?
Q4.国連安保理決議1368号は、米国に武力行使を認めているの?

II.テロ対策特別措置法案の問題点
Q5.テロ対策特別措置法案・自衛隊法改正案が成立すれば、日本国憲法はどうなるの?
Q6.テロ対策特別措置法案は、今回の米軍の報復攻撃にだけ適用されるの?
Q7.2年間限りの時限立法なの?
Q8.自衛隊の支援活動はどの地域で行われるの?
Q9.自衛隊の支援活動は非戦闘地域に限定されるの?
Q10.自衛隊の支援活動は、武力行使にはならないの?
Q11.「武器・弾薬の提供」と、「武器・弾薬の輸送」はどう違うの?
Q12.武器・弾薬の輸送って、核兵器でも運べるの?
Q13.戦闘行為によって遭難した米軍兵等の捜索救助活動は、武力行使とは関係ないの?
Q14.国会の事前承認はなぜ必要ないの?
Q15.自衛隊の武器使用は、武力行使じゃないの?

III.自衛隊法改正案の問題点
Q16.警護出動と治安出動はどう違うの?
Q17.警護出動時の武器使用に危険性はないの?
Q18.治安出動下令前の情報収集活動ってなに?


I.米軍の報復攻撃の国際法上の問題点

Q1.米軍の報復攻撃は許されるの?
A1.
人道的・道義的観点からは、絶対に許されない。なぜなら、それは必然的に、「文明の衝突」に発展し、地球上の全人類を「果てしなき《恐怖》、限りなき《憎悪》、終わりなき《戦い》」の無間地獄に突き落とすことになるからである。
 9月11日に米国で起こったテロは、一瞬のうちに6,000人前後もの何の罪もない一般市民の命を奪った残虐極まりない犯罪であり、「人道に対する罪」として絶対に容認されてはならない。
 しかしながら、10月7日に始まった米国の報復攻撃も、わずかこの2週間で、ビンラディン氏らやタリバーンとは何のかかわりもない無辜のアフガニスタン人数百人を犠牲にした。それはまた、今後、新たに150万人以上の難民(すでに、アフガニスタン難民は370万人を超えているといわれている)を生み出し、600万人以上の無辜の人々を飢餓と感染症による死の危機に直面させることになる。
 9月11日の米国テロが「人道に対する罪」として許されないものであるならば、米軍による無辜のアフガニスタン市民の「虐殺」もまた、当然、「人道に対する罪」として許されてはならないものであるはずである。
 「米軍の報復行動を批判することはテロリストを支援するのと同じことだ」とか、「テロと、テロを防止するための軍事行動を同列に論じるべきでない」という議論は通用しないし、通用させてはならない。9月11日の米国テロは許されないが、米軍の報復攻撃はやむをえないとすることは、9月11日のテロによってニューヨークやペンタゴンで働き、あるいは、ハイジャックされた旅客機の乗客となっていて犠牲になった人々と、米軍の報復攻撃で犠牲になったアフガニスタンの人々の、ひとりひとりの命の価値に格差を認めることにほかならないからである。9月11日のテロは許されないが、米軍の報復攻撃はやむをえないとすることは、米国市民の命の重さとアフガニスタン市民の命の重さの間には比較にならないほどの違いがあるといっているのと同じことである。その根底には、もちろん人種差別が横たわっている。
 このようなダブル・スタンダードを認めてはならないし、このようなダブル・スタンダードのうえに《きたるべき国際秩序》をうち建てるようなまねをしてはならない。そのようなことをすれば、9月11日と10月7日は、文字通り、キリスト教文明圏とイスラム教文明圏との血で血を洗う「文明の衝突」=地球規模での宗教戦争が開始された日として、「人類滅亡史」に特記されることになろう。
 報復攻撃開始前の9月23日、イスラム穏健派でイスラム法の最高権威機関アズハル大学(エジプト)の総長タンタウィ師は、「罪なきムスリムに対して攻撃が行われるようなことになれば、それはジハード=聖戦の対象になる」との警告を発していた。サウジアラビアでは、サウジ王家がその守護者をもって任じているワッハーブ派の著名な宗教指導者(イスラム法学者)が、「ムスリム(イスラム教徒)に敵対する異教徒を支援する者は、ムスリムの資格がない」との宗教的見解を10月20日にインターネットで全世界に発した。無辜のイスラム教徒に対する米国の攻撃はジハードの対象となるという見解は、ビンラディン氏やタリバーンなどのイスラム原理主義過激派だけが唱えているわけではない。西はアフリカ西岸から東はインドネシアまで、世界12億のイスラム教徒によって共有されているのである。
 実際、2,000万人以上のパシュトゥーン族が住み200万人以上のアフガニスタン難民が避難してきているパキスタンでは、反米デモがいつ親米政策をとるパキスタン政府の打倒運動に転化してもおかしくない情勢となってきている。パキスタンのパシュトゥーン族がアフガニスタンの1,000万の同族と手を結び、民族国家パシュトゥニスタンの独立に突き進むようなことになれば、中東にまた新たな武力紛争の火種を残すことになる。米軍による報復攻撃開始後、ナイジェリアではイスラム教徒とキリスト教徒の間で武力衝突が始まった。従来から、イスラム教徒とキリスト教徒の間で武力衝突が繰り返されているインドネシアやマレーシアでも、米軍の報復攻撃が長期化すればイスラム過激派の不満が爆発する危険性を抱えている。
 ブッシュ米大統領は、19日、地上戦に突入した米軍の軍事行動について非常にうまく行っていると能天気な発言をしている。彼はおそらく、自らの手で「地獄のカマドの蓋」を開けてしまったことに気づいていないのであろう。しかし、日本が米軍の報復行動を支援するためのテロ対策特別措置法案や自衛隊法改正案を成立させ、「戦場に『日の丸』を高く掲げる」ことになれば、日本もまたブッシュに手を添えて「地獄のカマドの蓋」を開くのを手助けしたことになるのだということを忘れてはならない。

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Q2.武力行使はテロ対策として有効なの?
A2.
報復攻撃=武力行使は、テロ対策として有効でないばかりか、かえって全人類を流血の巷に引きずり込むことになる。
 報復攻撃、すなわちテロに対して武力でもって対決しようとすることは、新たな無辜の犠牲者を生みだし、世界中のイスラム教徒の間に米国とその同盟者に対するさらなる《恐怖》と《憎悪》を植え付け、新たな対抗暴力としての報復テロを招くことになるだけで、テロの防止や根絶には何の役にも立たない。
 もしかりに今回のテロがビンラディン氏のグループによるものだったとしても、彼らやタリバーンを軍事的に壊滅させたところで、テロが根絶できるわけではない。米国を十分に研究し尽くしているビンラディン氏らが、米国がテロに対して報復攻撃を行うことを予想していなかったとは考えられない。ビンラディン氏らの国際テロ・ネットワークは数十の組織が並列的に存在する柔構造のものであり、ビンラディン氏とアルカイーダを壊滅させても、世界中のイスラム過激派といわれる組織が独自に報復テロをおこなうだけであろう。また、ビンラディン氏とアルカイーダには、イスラム各国から「義勇兵」が参加しており、彼らが母国へ帰ってそれぞれの国でテロ活動に従事すれば、かえってテロ防止は困難になる。
 さらに、ビンラディン氏らは、米国の報復攻撃によって自らが「殉教者」になることを、そして無辜のアフガニスタンの人々を巻き添えにし「生け贄の羊」とすることで、世界中のイスラム教徒の米国とその同盟者に対する《憎悪》をかき立て、イスラム穏健派といわれている人々を米国とその同盟者に対する報復テロや親米政策をとる自国政府の打倒に立ち上がらせることを狙っていたとすれば……。もしそれがビンラディン氏らの本当の狙いだったとすれば、報復攻撃を開始した米国は彼の術中にはまったことになる。
 いずれにしても、報復攻撃という《暴力》の行使は、報復テロという対抗《暴力》を生み出さずにはいない。全世界は、今後数十年にわたり、予想もしなかったような方法で、予想もしなかった時期に、まるで間欠泉のように噴出する《テロの恐怖》におびえ続けなければならないであろう。その予兆は、すでに、全米各地だけでなく、ブラジル、アルゼンチン、チェコなど世界中に拡散しつつある「炭疽菌騒動」として現れつつある。
 また、武力の行使は、武力の行使の連鎖反応を呼び起こす。現にイスラエルは、ここぞとばかりにパレスチナへの軍事侵攻を拡大し、パレスチナ・ゲリラ要人を次々と「暗殺」し、それらに対する報復テロを行うパレスチナ・ゲリラとの間で血の嵐を撒き散らしている。長年、パキスタンとインドの紛争の種となっているカシミールでも、パキスタン軍、インド軍、カシミール独立派、タリバーン勢力が入り乱れて武力衝突を開始した。
 《戦争》は新たな《戦争》を、武力という《暴力》の行使はテロという対抗《暴力》を呼び起こすだけである。
 物事が起こったときには、対処療法と根治療法の2種類の対応法がある。人はインフルエンザにかかったとき、高熱を抑えたり咳を止めたりするために、鎮痛解熱剤や咳止めを服用する。しかし、鎮痛解熱剤などは、発熱や咳という症状を一時的に押さえる効果はあってもインフルエンザそのものを直すわけではない。鎮痛解熱剤の使用による一時的な症状の緩和が、しばしば、病気そのものをぶり返させたり、悪化させたりすることがある。鎮痛解熱剤の使用は、かえって、インフルエンザ脳症による死に至らしめることもある。インフルエンザを直すには、十分な水と栄養を補給し、安静にして体力の回復を待つしかない。根治療法と対処療法は違うのであって、対処療法への過度の依存はかえって病気を重篤なものとする。
 テロ対策も同様である。武力行使という対処療法は、テロの温床となっている一握りの人々への世界の富の極端な集中とその反面としての大多数の人々の貧困の深化という問題に何の解決も与えないばかりか、かえってよりいっそう問題を深刻なものとし、人類の手に負えないものとしつつある。武力行使はまた、世界中に武器を撒き散らし、世界の至る所で新たな武力紛争を惹起する。そこでは、クラスター爆弾や対人地雷など「非人道的」な兵器が大量に使われ、拡散していく。それらは、けっして軽視しうる副作用ではない。
 テロを根絶するためには、それがどんなに遠回りで迂遠なように思われても、貧困を生み出すグローバルな経済秩序のあり方を是正し、パレスチナ問題に典型的にみられるような特定の民族、特定の宗教に対する暴力的抑圧をなくしていく努力をひとつひとつ積み上げていくほかない。
 ビンラディン氏やアルカイーダを、武力で葬ることによって「殉教者」にしてはならない。彼らは重大な「人道に対する罪」を犯した犯罪者として公正な法廷に立たせ、裁きを受けさせなければならない。タリバーンは、米国が攻撃を中止し確実な証拠を示せば、第三国に彼らの身柄を引き渡すと宣言した。米国とその同盟諸国政府は、自国民に対して、ビンラディン氏やアルカイーダが9月11日のテロに関与した確実な証拠があるとして報復攻撃に踏み切ったはずである。ならば、米国とその同盟諸国政府は、世界中の人々に対して堂々とその証拠を示すべきである。そして、彼らを公正な裁判が期待される第三国の法廷で裁けばよい。無辜の一般市民の組織的な殺戮を裁く国際刑事裁判所を早急に設置して、そこで裁いてもよい。なぜ、米国は国際刑事裁判所の設置に強硬に反対し続けているのか。言行不一致もいいところである。なお、米国への引き渡しは、それが、被害者が検事と裁判官を兼ねる、つまりリンチとなる可能性が極めて高く公正な裁判が期待できない以上、ビンラディン氏らを「殉教者」に仕立て上げてしまうことになり逆効果でしかない。

 宇多田ヒカルは、彼女のホームページ「Hikki's WEB SITE」で、次のようにいっている。

 一人の子供が深く傷ついて、泣いているところを見ると、なんだか「人類」っていうもの全部が泣いているような気がするのね。そして全人類でその子を守ってあげなきゃいけないような気がするの。守ってくれるはずだった人に裏切られた時って、世界のもの全てに裏切られたような感じ、するじゃない? だから9月11日に起きた突然のテロ攻撃をアメリカだけではなく、「全人類に対する攻撃」だって言うアメリカ政府の気持ちってちょっと分かる。でもね、今この瞬間にも行われてるアメリカによる報復の爆撃も、「テロに対する戦争」だって言ってるけど、どうしてもそれもまた全人類に対する攻撃のようにしか思えないの。だってどこかでその子がもっと泣いてるようなきがするんだもん。21世紀が泣いてる・・・

 「果てしなき《恐怖》、限りなき《憎悪》、終わりなき《戦い》」……私たちは、このままでは、21世紀を無事おえることができるどころか、21世紀の最初の10年さえ乗り切ることができない……。そんなことにならないように、私たちはいかなる形態によるものであれ、誰によって行使されるものであれ、《暴力》を許してはならないし、絶対に許さないと叫び続けなければならないであろう。

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Q3.米国の報復攻撃は国際法上許されるの?
A3.
残念ながら、現在の国際法は米国の報復攻撃を認めていないと断言することはできない。従って、私たちは、不公正で非民主的な国際法のあり方を変える努力をし続ける必要がある。
 自衛権、すなわち、「個別的又は集団的自衛の固有の権利」(国連憲章51条)は、国際司法裁判所が1986年に下したアメリカ合衆国対ニカラグア事件(本案)判決によれば、1.被攻撃国(他国による攻撃を受けた国)が、「現に武力攻撃を受け、又は、受けつつある場合」(武力攻撃の要件)に、2.安保理が「国際の平和及び安全の維持」に必要な措置をとる間での間に限って(暫定性の要件)、3.被攻撃国による自衛措置は、武力攻撃を撃退するために厳格に必要とされる手段に限定される(均衡性の要件)−という3つの要件を満たすものでなければならないとされている。
 1. ここでいう「武力攻撃」とは、国連憲章2条4項で禁じられている「武力による威嚇又は武力の行使」よりもはるかに狭い概念であり、比較的大規模かつ実質的効果を伴う武力行使のみをさす。従って、武装国境警備隊の越境や、無人島の一時的な占領、人口過疎地域への単発的な攻撃などは、違法な武力の行使ではあっても、「武力攻撃」には含まれない。なお、被攻撃国が「武力攻撃」に至らない武力行使を受けた場合には、被攻撃国は自衛措置に訴えることは許されず、安保理に憲章39条による措置をとるよう求めることができるにとどまる。
 2. 自衛権の行使は、「現に武力攻撃を受け、又は、受けつつある場合」に限定されるから、先制的又は予防的自衛措置は禁止されることになる。
 3. 均衡性の要件により、武力攻撃の危機が去った後の事後的な報復的又は処罰的行動は自衛措置として正当化されない。
 このような自衛権の定義に従えば、今回のテロに対する米国の報復攻撃は、「現に武力攻撃を受け、又は、受けつつある場合」にはあたらないので、米国の報復攻撃は、将来起こるかもしれないテロを防止するための先制的・予防的措置、または事後的な報復的・処罰的行動ということになり国際法上違法となる。
 それに、そもそも自衛権は国家を対象として行使されるものであるから、テロ組織などの国家以外のものに対する武力行使が自衛権に該当するか重大な疑問がある。
 ただし、現在の国際法が米国の報復攻撃を認めていないと断言することは残念ながらできない。国際法の世界では、現行の国際法上違法な国家の行為であっても、それが実行されかつ国際社会、すなわち主権国家=政府の大部分によってによって承認された場合は−その承認がどのようにして得られたものであるかなどということとはいっさい無関係に−、その違法な国家の行為が新しい国際法を形成することになり、違法であったはずの国家の行為は違法ではなくなる。
 また、米国の武力行使が自衛権の行使に該当するかどうかについては安保理が判断することになるが(国連憲章24条・39条)、拒否権をもつ米国の武力行使が問題となる場合、米国は、「米国の武力行使は自衛権の行使に該当しない」とする安保理決議案については、当然、拒否権を行使して否決することになる(憲章27条2項)。
 つまり、米国の武力行使が自衛権に該当するかどうかは、実際には、米国だけが決定できるのであり、私たちが米国の行動は国連憲章違反であるとか、安保理決議違反であるとか言ったところで、それは国際法上は何の意味もない。悲しむべきことだが、これが国際法の現実の姿なのである。
 日本では、一般国民ばかりでなく、法律専門家でさえ、国連憲章などの現行の国際法や国連に対する幻想をいだきすぎているのではないか。国際社会においては、「法の支配」は、せいぜいよくいっても形成の緒についたばかりである。国際公法は、通常の国内法とは違い、法規範力をほとんどもっていない。
 従って、国際法、それも成文国際法の文言に過剰な期待を抱いて、それを唯一の論拠として今回の米軍の報復攻撃を批判するとすれば、実定国際法は米国の行動を承認していると反論されればそれきりということになってしまう。
 米国の報復攻撃に対する批判は、テロという《暴力》には武力という《暴力》でもって報いるという思考方法そのものに対する原理的な批判と、米国の報復攻撃のテロ対策としての実効性の低さ、および、武力行使がもたらす弊害という実態面に関する徹底的に透徹した現実主義の立場から行われるべきであろう。
 しかし、それでもなお、私たちは、今回の米国の報復攻撃は、1928年の不戦条約以来、国際紛争の平和的解決を加盟各国に義務づけ(国連憲章2条3項)、個別国家による武力行使を原則として禁止(2条4項)した国連憲章、武力行使をともなう復仇(報復)を慎む義務を課した1970年友好関係原則宣言(国連総会決議2625号)など国際社会が数十年にわたって積み上げてきた戦争非合法化=「国際平和法」秩序形成の努力を土足で踏みにじる野蛮な行為として強く批判しておく必要がある。
 報復攻撃による無辜の市民の殺戮という野蛮な行為を法の名の下に追認する機能を果たしている、強者の《力の論理》に支配された現行国際法の、不公正で非民主的なあり方を暴き続け、矯していく努力を続けて行かなければならない。1996年の国際司法裁判所による核兵器の使用を一般的には国際法違法とする勧告、対人地雷を非人道的兵器として戦争での使用を禁止した対人地雷禁止条約の締結、ジェノサイド、一般市民に対する組織的攻撃・殺戮・強制移動などを「人道に対する罪」として裁こうとする1998年7月の国際刑事裁判所設立条約(ローマ規程)の採択などは、現行国際法の不公正で非民主的なあり方を矯そうとする「全世界の国民」の努力の貴重な成果である。米国の野蛮な行為によって、このような「全世界の国民」の努力が土足で踏み時にられるようなことになってはならないし、ましてや、日本政府がそのような行為に加担するようなことがあってはならない。

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Q4.国連安保理決議1368号は、米国に武力行使を認めているの?
A4.
認めているとも、認めていないともいえない。
 2001年9月12日に採択された国連安保理決議1368号は、前文・第3パラグラフで「国連憲章に従い個別的又は集団的自衛の固有の権利を承認する」としているが、これは、すべての国連加盟国に対して、個別的又は集団的自衛の固有の権利があることを一般的に再確認したものにすぎず、いずれかの特定の国家に対して、今回のテロ事件に対する自衛権の行使を明示的に認めたものではない。
 また、第5項「2001年9月11日のテロリストの攻撃に対処し、国連憲章の下での[安全保障理事会の]責任に従い、[安全保障理事会は]あらゆる形態のテロリズムと戦うために、あらゆる必要な手段(all necessary steps)をとる用意を表明する」としている。ここでいう「あらゆる必要な手段(all necessary steps)」という表現は、通常、国連文書では、武力行使を含むものと解されている。
 ただし、この規定は、テロリズムと戦うために、テロリストに対して武力行使を含む「あらゆる必要な手段」をとることを承認したもではあるが、対象となるテロリストは何ら特定されていない。もちろん、「2001年9月11日のテロリストの攻撃」と直接関係のない、あらゆる国家、武装集団、その他の組織・団体に対する武力行使を認めたものではない。従って、仮に安保理決議1368号が米国の武力行使を認めたものだとしても−現に米国はそのように主張しているが−、タリバーン政権転覆のための武力行使やテロとは無関係の一般のアフガニスタン国民に対する武力行使は安保理決議の授権範囲を明らかに逸脱するものといわざるをえない。
 また、自衛権の暫定性の要件からいえば、安保理が「2001年9月11日のテロリストの攻撃に対処し、国連憲章の下での[安全保障理事会の]責任に従い、あらゆる形態のテロリズムと戦うために、あらゆる必要な手段をと」った場合には、米国は自衛権の行使を継続することは許されないということになる(ただし、安保理がそのような措置を行うことは、米国が拒否権を行使して阻止するであろうが)。

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II.テロ対策特別措置法案の問題点

Q5.テロ対策特別措置法案・自衛隊法改正案が成立すれば、日本国憲法はどうなるの?
A5.
日本国憲法は「脳死」状態になる。つまり、形式上は日本国憲法は残っていても、実質的にはそれは廃棄されたのと同じことになる。
 小泉内閣の提出した米軍支援法案としてのテロ対策特別措置法案と自衛隊法改正案が成立すれば、それは必然的に、報復テロから国民の「安全」を確保するために、テロリストとそのシンパを国民の中からあぶり出し彼らの行動を監視するための盗聴・監視法制と、彼らの活動を抑制しコントロールするための治安法制の拡大整備が必要となる。
 ところで、軍事と治安が融合したテロ対策法制の最大の特徴は、政府に明確に協力する者だけが「味方」、それ以外の者をすべて「敵」か「敵のシンパ」として監視・選別・排除・抑圧の対象とする点にある。つまり、軍事合理性の論理が全面的に展開されることになるのである。そこでは、政府に反対したり、政府を批判する者はすべて「テロリストの側にたつ者」とされるだけでなく、政府に積極的に協力しない者も、潜在的に「テロリストの側にたつ者」とされるのである。そして、「国民」=政府に協力する多数の人々の「安全」を守るためには、「テロリストの側にたつ者」の自由や基本的人権など保障されなくて当然とされるようになる。
 テロと力ずくて対決するための法制度の整備は、テロから守るべき「自由」で「民主的」な価値を回復不能なまでに傷つけ、オーウェル『一九八四年』が描くような暗黒のウルトラ監視社会を生み出す。その意味で、テロ対策特別措置法案と自衛隊法改正案は、日本国憲法の非武装平和主義(第9条)だけでなく、表現の自由、知る権利、思想・信条の自由、身体の自由などの基本的人権保障の核心の部分を実質的に破壊し、社会的少数者を社会から排除するための「恐怖」と「不信」が支配する非民主的=専制的な《安全のためのウルトラ監視社会》を産み出すための母胎となろう。

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Q6.テロ対策特別措置法案は、今回の米軍の報復攻撃にだけ適用されるの?
A6.
本法案1条は、「我が国が国際的なテロリズムの防止及び根絶のための国際社会の取組に積極的かつ主体的に寄与するため」、「テロ攻撃によってもたらされている脅威の除去に努めることにより……アメリカ合衆国その他の外国の軍隊その他これに類する組織(以下「諸外国の軍隊等」という。)の活動に対して我が国が実施する措置」(1条1号)としている。
 (1) 本法案では、支援対象を、「国際的なテロリズムの防止及び根絶」「テロ攻撃によってもたらされる脅威の除去」するための「アメリカ合衆国その他の外国の軍隊その他これに類する組織……の活動」と一般的に定義しているだけで、2001年9月11日に米国でおこったテロに対する報復攻撃に限定されているわけではない。従って、論理的には、本法案は、今回のテロ以外の、将来起こるであろうテロに対する報復攻撃にも適用可能である。
 (2) 本法案は、「アメリカ合衆国その他の外国の軍隊その他これに類する組織……の活動」を支援するものとしており、支援対象はアメリカ合衆国の軍隊に限られない。また、それは諸外国の正規軍にも限定されず、「その他これに類する組織」、すなわち、国際法上の交戦団体であれば、私的な武装集団まで支援対象に含まれることになろう。つまり、必要とあれば、米軍だけでなく、パキスタン軍や北部同盟まで支援可能なのである。

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Q7.2年間限りの時限立法なの?
A7.
本法案附則4項は、本法施行の日から起算して(計算をはじめて)2年を経過した後も「対応措置を実施する必要があると認められると至ったときは」2年以内の延長ができるものとしている。さらに、5項は、4項の2年以内の延長に対しても4項の2年以内の延長規定が準用されるものとしている。ようするに、「対応措置を実施する必要がある」場合には、本法案は2年以内で何回でも延長可能であり、その意味では「時限立法」とはいえない。

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Q8.自衛隊の支援活動はどの地域で行われるの?
A8.
本法では、自衛隊の支援活動が行われる地域については、「我が国領域及び現に戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。以下同じ。)が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる」公海上、および外国の領域とされている(2条3項)。つまり、自衛隊の支援活動が行われる地域は、1.日本の領域、2.公海上、3.外国の領域となっており、地理的な限定はいっさいつけられていない。
 これは、そもそも、「我が国周辺の地域における」と定める周辺事態法では、今回の米軍の報復攻撃を支援するために自衛隊をインド洋やパキスタンまで派遣することは無理であろうということから、本法案が提案されたのもである以上、当然のことであろう。本法案によって、自衛隊はまさにグローバルに米軍等を支援することが可能になるのである。

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Q9.自衛隊の支援活動は非戦闘地域に限定されるの?
A9.
確かに、自衛隊の支援活動が公海上および外国の領域で行われる場合には、「現に戦闘行為……が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる」場合に限定される(2条3項)ことになっており、一見すると、自衛隊の支援活動は非戦闘地域に限定されるかのように思われる。
 しかし、実際には、戦闘地域は常に可変的であり、あらかじめ戦闘地域とそうでない地域を区別しておくことなど不可能である。ことに、今回のように、相手がテロ組織やゲリラ組織であれば、強力な戦闘力を備えた戦闘部隊を攻撃するよりも、戦闘力=防御力の脆弱な後方支援(兵站)部隊を主に攻撃してくるはずであり、そうなれば、戦闘部隊のいる前線よりもむしろ後方こそが主戦場となる。
 また、支援活動地域が、パキスタンのように国民の間に広く反米感情が渦巻き、かつ、タリバーン側と通じた組織が多数存在する場所である場合、米軍の補給を後方で撹乱するために、いつ、どこで、誰によって、支援部隊が攻撃されるかわからない。戦闘の行われていない安全な後方地域など、「机上の空論」でしかない。

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Q10.自衛隊の支援活動は、武力行使にはならないの?
A10.
本法案では、自衛隊は、1.給水、給油、食糧等の補給(ただし、戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油は含まない)、2.人員、武器・弾薬等の物品の輸送、外国軍隊等の戦闘車両、航空機、艦船等の修理・整備(ただし、戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する整備は含まない)、3.医療、通信、空港・港湾業務、基地業務などの提供−などの「協力支援活動」を行うものとされている(3条1項1号、別表第一)。また、与党が16日に提出した修正案によると、武器・弾薬の輸送から外国領での陸上輸送を除外するものとしている。
 (1) これらの協力支援活動は、米軍等の戦闘作戦行動を直接に支えるものであり、これらの支援活動がなければ米軍等の戦闘部隊が戦闘行動をとれない以上、戦闘作戦行動と一体・不可分の軍事作戦行動=武力行使にほかならない。
 (2) 1907年ハーグ諸条約、1949年ジュネーブ諸条約、1977年ジュネーブ諸条約追加議定書などの国際人道法(交戦法規)によれば、軍隊内で医療・宗教・経理・郵便・通信・法務等に従事し、直接戦闘行為に従事しない非戦闘員も敵対行為に直接参加する交戦資格を有するものとされ、相手方戦闘部隊は合法にこれらの非戦闘員を攻撃することが認められている。つまり、後方支援部隊も、国際法上、戦闘部隊と同様に扱われるのである。特に、1977年ジュネーブ諸条約第1追加議定書52条2項は、軍事活動に有効に貢献するもので、その破壊・捕獲・無力化が明確な軍事的利益をもたらす物を軍事目標と定めており、後方支援部隊はこれに該当する。従って、直接戦闘行為を行うのではない支援活動は武力行使にはあたらないという日本政府の説明は、国際的には全く通用しない「詭弁」というほかない。
 (3) 太平洋戦争中、兵站任務に従事していた日本の民間輸送船は、米潜水艦の主要攻撃目標とされ、6万人を超える船員が戦死している。1980年から88年8月までのイラン・イラク戦争では、日本人船員が乗り組んでいた民間船舶12隻も攻撃を受け日本人船員2名が戦死している。また、1944年国際民間航空条約3条は、軍の業務に用いられている航空機を保護対象から明示的に除外し、35条(a)項で軍需物資を積んだ国際便の運行を禁じている。このように、軍需物資を運ぶ民間船舶・航空機ですら軍事目標として攻撃対象となるのであるから、ましてや軍用機や軍艦であればなおのことであり、戦闘行為には直接従事しない支援部隊だから攻撃しないでくれなどといっても通用しない。攻撃を受ければ、当然、自衛隊の支援部隊も自衛のために反撃することになる。それは、武力行使以外のなにものでもない。

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Q11.「武器・弾薬の提供」と、「武器・弾薬の輸送」はどう違うの?
A11.
「武器・弾薬の輸送」とは、米軍等の武器・弾薬を自衛隊の支援部隊が米軍等まで運んで渡すこと、「武器・弾薬の提供」とは、自衛隊の武器・弾薬を自衛隊の支援部隊が米軍等まで運んで渡すこと。本法案では、米軍等に対して「武器・弾薬の輸送」のみを行い−ただし、16日の与党修正案で、外国領域における「陸上」輸送は除外された−、「武器・弾薬の提供」はしないことになっている(別表第一)。日本政府は、「武器・弾薬の提供」はしないので、自衛隊の支援活動は武力行使にはならないとしている。しかし、これは、「日の丸」印の武器・弾薬を米軍等に運んで渡すのは憲法の禁じる武力行使になるが、「星条旗」印の武器・弾薬を米軍等まで運んで渡しても武力行使にはならないということであり、詭弁というしかない。戦闘部隊は、武器・弾薬が供給されなければ戦闘できないのだから、それが「日の丸」印であろうと「星条旗」印であろうと、武器・弾薬を運ぶことは武力行使以外のなにものでもない。
 もっとも、政府によると、インド洋上から米軍艦が巡航ミサイル・トマホークを発射した場合でも、「発射後に人が誘導する場合、必ずしも人や物の破壊に向かわない可能性も生じるから、戦闘行為ではない」ということになるそうであるから、自衛隊が米艦にトマホークを供給しても武力行使とは一体とはならないということになるのであろう。しかしそうなると、全ての誘導兵器について、ひとつひとつ、人間誘導式か自動式か調べるのであろうか。また、「人や物の破壊」を目的としない実戦での実弾ミサイルや砲弾の発射とはいったい何なのであろうか。詭弁もここまでくると滑稽でしかない。
 同様に、本法案は、戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備は武力行使に該当するからできないが、それ以外の船舶・航空機・車両には給油及び整備することができるとしているが(別表第一)、これも詭弁。戦闘のために発進準備中の米軍の航空機に対して自衛隊が直接給油することと、戦闘のために発進準備中の空母艦載機のために自衛隊が米空母に航空機用燃料を給油することとの間には何の実質的な差もないはずである。

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Q12.武器・弾薬の輸送って、核兵器でも運べるの?
A12.
本法案では、輸送できる武器・弾薬の種類は何ら特定されていないので、湾岸戦争やコソボ紛争で米軍が大量に使用した劣化ウラン兵器やクラスター爆弾・対人地雷などの非人道的とされる武器・弾薬を運ぶことも可能である。特に、劣化ウランで装甲された戦車や劣化ウラン弾を運ぶ場合、自衛隊の支援部隊の隊員が被曝する可能性は高いといわなければならない。
 さらに、米軍は、今月10日から11日未明の攻撃に際してレーザー誘導式のバンカーバスターGBU-28/Bを使用した。これは、地下30メートルまで達し敵の地下基地を破壊するための爆弾。ところで、バンカーバスターGBU-28/Bが使用された際、パキスタンの地震観測所ではマグニチュード3.3の地震が起こったことが確認されている。そこで懸念されるのが、同じバンカーバスターでも核弾頭搭載型のB61-11が使用された可能性である。特に、米国は冷戦後、自国の核兵器の大量保有を、炭そ菌等の生物・化学兵器を使ったテロを防止または制圧するためという理由で正当化をはかっているが、時あたかも米本土では炭そ菌感染騒動が起き、ブッシュ大統領はこれをビンラディン氏らと結び付ける発言をしている(16日)。そうであれば、米国がタリバーンやビンラディン氏らを制圧するためにB61-11を使用した/使用する可能性は極めて高い。「唯一の被爆国」である日本が、米軍が使用する核弾頭を運搬するなどということになれば、「歴史の皮肉」ではすまされないというべきであろう。

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Q13.戦闘行為によって遭難した米軍兵等の捜索救助活動は、武力行使とは関係ないの?
A13.
戦闘行為によって遭難した米軍兵等の捜索救助活動も、米軍等の戦闘作戦行動を直接支援する行為で、武力行使と一体の活動である。
 米国世論は、ベトナム戦争以来、米軍に人的被害が出る、すなわち米軍兵に死傷者が出ることを極度に嫌う。このため、米国民の戦争への支持を獲得するためには、いかに米軍の人的被害を最小限におさえるかが米国が軍事行動をとるさいの至上命題となってきている。米軍が、空爆を主体とし、地上戦を嫌うのもこのためである。
 そして、戦闘行為によって遭難した米軍兵の捜索救助体制の整備は、たんに米軍等の戦闘作戦行動を直接支援する行為であるだけでなく、米国の戦争への米国民の支持を獲得・維持するために必須のものであり、米国の戦争そのものを支えるものであるといえる。

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Q14.国会の事前承認はなぜ必要ないの?
A14.
本法案では、政府が迅速に行動できるようにするためとして、支援活動の具体的な内容を定めた基本計画については、国会に事後に報告しさえすればよく、国会承認は事前も事後も必要ないとしていた(10条)。しかし、政府与党は、16日、自衛隊派遣決定後20日以内に国会の事後承認が必要とする修正案を提出した。このため、20日以内に国会の事後承認が得られなければ、派遣された自衛隊の部隊は引き返さなければならないことになる。しかし、実際には、20日もあれば地球上のどの地点へでも出掛けて行って支援活動を行うことが可能であり、あとは帰ってくるだけなのだからこの修正案に実質的な意味はない。
 そもそも、自衛隊による支援活動は、米国等の外国でテロ事件が発生し、それに対する米軍等の外国軍隊が行動を開始した後に−本法案は、日本でテロ事件が起こった場合の対応策について定めるものではない−、その国の政府から支援要請があってはじめて行われるわけであるから−そうでないと、被害国が何の行動も起こしていないのに自衛隊が支援に行くとか、被害国が日本の支援は必要ないといっているのに自衛隊が「押しかけ」支援に行くという摩訶不思議なことになる−、日本が急迫不正な武力攻撃を受けた場合の防衛出動(自衛隊法76条)や、「我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」が発生した場合の米軍への支援活動(周辺事態法1条)などと比べて、それらよりも緊急性が高いとはいえない。
 それにもかかわらず、防衛出動(自衛隊法76条)や周辺事態時の米軍支援活動を自衛隊が行う場合に原則必要とされている国会の事前承認(自衛隊法76条、周辺事態法5条)が、より緊急性の低い外国でのテロに対する外国軍隊等に対する支援活動では必要でないとすることは本末転倒というほかない。

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Q15.自衛隊の武器使用は、武力行使じゃないの?
A15.
本法案11条1項は、1.自己以外に、2.自己と共に現場に所在する自衛隊員、3.その職務を行うに伴い自己の管理下に入った者−の生命又は身体の防護のためにやむを得ない場合には、武器を使用することができるものとしている。なお、このとき、現場に上官がいる場合には、上官の命令で武器を使用するものとされている(11条2項)。
 (1) 本法案では、自己等の防護のために必要がある場合に限って自己の判断において武器の使用を認めている治安出動時の武器使用権限(自衛隊法89条2項)や、自己又は自己と共に現場に所在する自衛隊員の防護のためにやむを得ない場合に限って武器の使用を認めている周辺事態法11条1項、自衛隊法100条の8/3項(自衛隊による在外邦人の救出活動)よりも防護対象が拡大されて、「その職務を行うに伴い自己の管理下に入った者」も含まれている。ここでいう「その職務を行うに伴い自己の管理下に入った者」には、自衛隊の保護下に入った難民、自衛隊で治療を受けている米軍等外国軍隊などの傷病兵、戦闘行為で遭難して自衛隊に救助された米軍等の兵員ということになるものと思われる。しかし、戦闘行為で遭難した米軍等の兵員を防護するための武器使用は戦闘行為の一部であって、「自己保存のための自然権的権利」とする政府の説明には相当の無理がある。
 (2) 上官の命令による武器使用とは、ようするに、部隊単位での武力の行使であり、これは、隊員が自分の命を守るために「自分の判断」で武器を使用することを認める治安出動時の武器使用権限(自衛隊法89条2項)とはまったく異なる。部隊単位での、上官命令による武器使用は、まさに戦闘行為以外のなにものでもないのであって、これが武力行使でないとすれば、日本国憲法の禁じる武力行使に該当する行為はそもそも存在しないことになろう。
 (3) ところで、難民の中には、しばしば武装した敗残兵が紛れていることがある。94年のルワンダ紛争のときが典型であったように、敗走した側の武装兵が、一般の難民を盾として難民キャンプを拠点に反撃に出撃する場合、その難民キャンプは相手側からみれば軍事基地そのものであり、当然、攻撃目標ということになろう。そのとき、自衛隊がその難民キャンプを防護するために武器を使用すれば、それは、紛争の一方の当事者に加担して戦闘行為に参加したものとみなされることになる。
 また、今回のパキスタンのように、反米感情が渦巻いているところでは、一般民衆に混じってその中に隠れながら自衛隊の部隊等を攻撃してくる者が当然出てくるだろう。そのとき、自衛隊員が反撃すれば、一般民衆を巻き添えにして殺害することになる。そうなれば、93年のソマリア紛争の際に国連PKO部隊の主力として派遣された米軍がそうであったように、地元住民の敵として扱われることになろう。
 あるいは、相手がテロ組織である場合、いつ、どこで、誰が、自爆テロのために爆弾を抱えて自衛隊の部隊に突っ込んでくるか分からない。物陰から飛び出してきた人影は躊躇なく撃ち殺さなければならない。そうしなければ自分たちが自爆テロの犠牲になってしまう。しかし、撃ち殺した人影が、自分たちの子どもと同じかそれよりも幼い子どもで、しかも何も武器をもっていなかったとしたら……。ベトナム戦争で多くの米兵たちが悩まされ、パレスチナ紛争で多数のイスラエル兵が神経症に陥ることになったのと同じ事態に派遣される自衛隊員達も直面することになろう。しかし、いくら残酷でもこれが「戦場」の現実なのである。「平和ボケ」した政治家たちは、なんの資格があって、自衛隊員達にこんな重荷に耐えろと命ずることができるのであろうか。

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III.自衛隊法改正案の問題点

Q16.警護出動と治安出動はどう違うの?
A16.
自衛隊法改正案(以下「改正案」)で新設された警護出動(自衛隊法81条の2)とは、1.「政治上その他の主義主張」に基づき、国家若しくは他人に「政治上その他の主義主張」を強要し、2.社会に若しくは恐怖を与える目的で多数の人を殺傷し、3.重要な施設その他の物を破壊する行為−のいずれかがおこなわれる「おそれ」があり、かつ、「その被害を防止するために特別の必要」があると認められる場合に、自衛隊の部隊が、自衛隊の施設および在日米軍基地を警備するために出動することである。
 (1) 主たる目的は、在日米軍施設をテロ攻撃から守ることであるが、警護はテロに対してだけ行われるわけではない。例えば、1.の定義に従えば、安保条約反対・基地反対の主義主張に基づき、在日米軍基地の撤去を国家や他人に「強要」する目的で非暴力手段によって自衛隊の施設や在日米軍基地を取り囲むような場合にも適用されることになる。  (2) 従来の治安出動が、「一般の警察力をもつては、治安を維持することができないと認められる場合」(命令による治安出動・隊法78条1項)および「治安維持上重大な事態につきやむを得ない必要があると認める場合」(要請による治安出動・隊法81条1項)に限って自衛隊の部隊の出動を認めているのに比べ、警護出動では、上記「おそれ」がある場合で「その被害を防止するために特別の必要」があると首相が判断すれば、一般の警察力で十分に対応できる場合でも、「治安維持上重大な事態」に至らない場合でも、自衛隊の部隊に出動を命じることができる点に特徴がある。
 (3) 従来の治安出動には、出動後20日以内の国会承認(命令による治安出動・隊法78条2項)や都道府県知事の要請(要請による治安出動・隊法81条1項)という条件が課されているが、警護出動にはそのような条件は何も課されていない。
 ようするに、警護出動では、自衛隊の施設や在日米軍基地を守る必要があると首相が判断する場合には、それがどのような「脅威」に対するものであれ、治安出動時と比べて極めて緩和された要件の下で自衛隊の部隊を出動させることができるのである。

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Q17.警護出動時の武器使用に危険性はないの?
A17.
警護出動時には、自衛隊員は、1.自己又は他人の生命・身体を守るために必要な限度において武器を使用できる(警職法7条の準用)ほか、2.「職務上警護する施設が大規模な破壊に至るおそれのある侵害を受ける明白な危険があり、武器を使用するほか、他にこれを排除する適当な手段がないと認める相当の理由があるとき」にも武器を使用することができる。そして、この場合に使用できる武器は、「その事態に応じ合理的に必要と判断される限度」のものとされ、具体的な制限はなにも課されていない(隊法91条の2・3項)。
 つまり、自衛隊の施設や在日米軍基地を守るために必要であれば、戦闘機でも、戦車でも、ミサイルでも何でも使用できるということなのであるが、日本に対する武力攻撃が行われたわけでも(防衛出動)、「一般の警察力をもつては、治安を維持することができない」事態や「治安維持上重大な事態」が発生したわけでも(治安出動)ないのに、これだけ無制限に武器使用を認めることに合理的な根拠があるとは到底思われない。
 (1) しかも、警護出動した自衛隊の部隊は、自衛隊の施設や在日米軍基地の「外部」でも武器を使用することができるものとされており(隊法91条の2・4項)、しかもその「外部」の範囲については何の定めもない(隊法91条の2・4項)。これは何を意味するのであろうか。例えば、府中の航空自衛隊航空総隊司令部や朝霞の陸上自衛隊東部方面総監部を警備するために出動した自衛隊の部隊は、首都圏の全域で武器を使用することも可能なのである(もちろん拡大解釈ではあるが、明文上の歯止めはなにもない)。だとすれば、実際には、首相官邸や国会を取り囲んでいるデモ隊を蹴散らすために、これらの施設の警備を名目として、自衛隊の部隊が出動することも可能なのである。
 これでは、警護出動は、治安出動に課せられていた要件をすべて廃止した「実質的な治安出動」にほかならない。そのうえ、使用する武器にも使用条件にも実質的に何の制限もないのであるから、すぐ近い将来、日本でも光州事件や天安門事件の悪夢が再現される可能性は十分に高い。
 (2) さらに、警護出動した自衛隊の部隊は、自衛隊の武器・弾薬や通信機材等を保管している施設、営舎、港湾、飛行場等を警護するために、「その事態に応じ合理的に必要と判断される限度」で武器を使用できるものとされ(隊法95条の2、なお併せて95条も参照)、自己及び他人の生命・身体を守るときよりも広範に武器を使用できることになっている。武器や武器保管庫の方が人命よりも尊い−改正案が意味しているのはこういうことである。

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Q18.治安出動下令前の情報収集活動ってなに?
A18.
改正案では、治安出動が命令されることが予測される場合、及び、小銃・機関銃、砲、化学兵器、生物兵器等を所持した者によって不法行為が行われることが予測される場合には、治安出動が命令される前の段階で、防衛庁長官は、首相の承認を得て、武器を携行する自衛隊の部隊を情報収集のために出動させることができる旨の規定を新設している(隊法79条の2)。
 (1) この規定は、政府によって、外国の武装工作員やゲリラ戦闘員が日本に上陸した場合に適用される規定であると説明されているが、この規定の仕方では、例えば、暴力団員等が小銃を持って不法行為を行おうとしている場合でも援用可能であり、過度に広汎かつ曖昧な規定というほかない。
 (2) また、改正案は、治安出動下令前の情報収集活動を行うにあたって、自衛隊員に、自己又は自己と共にその職務に従事する隊員の生命・身体の防護のための武器使用を認めている(隊法92条の2)。なお、情報収集活動に出動した自衛隊の部隊が、出動した後で治安出動命令が下令されれば、その部隊は、小銃その他の武器を持っている「疑いがある者」がそれらの武器を使って暴行・脅迫をする「高い蓋然性」がある場合には、それらの者を武力鎮圧することが認められている(隊法90条3号)。
 結局のところ、治安出動下令前の情報収集活動規定は、治安出動命令下令前の治安出動を実質的に容認するものであり、警察に代わって自衛隊が治安維持の第一線を担うことを宣明したものと理解することも可能である。つまり、日本も第三世界の諸国なみに「軍隊」が国内の治安維持機能も主として担うということであり、「普通の《第三世界の国》」になったというべきか。

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おことわり
 時間の関係で、今回は自衛隊法改正案に含まれている「防衛秘密」保護規定の問題点にまでは触れることができなかった。
 これらの点については、私の執筆した次の原稿を読んでいただければ幸いである。

「戦場に『日の丸』を高く掲げろ!」『週刊金曜日』2001年10月12日号
「絶妙のタイミングで浮上した『スパイ防止法』」『週刊金曜日』2000年9月29日号


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