粥川準二@ライターです。

このメールは私の友人・知人で、このようなくだらないものを送りつけても、笑って読んでくれそうな優しい人たちに送っています。実は、この夏にホームページ開設を考えており、日誌形式の週刊コラムを掲載しようかと思っています。原則として、毎週月曜日発行。そのテスト版をお送りします。『週刊鉄亀』は仮題(石井政之氏の『週刊石猿』 http://www.people.or.jp/~maria/ishii.htm のパクリ)で、タイトルはまだ未定(募集中!)です。ご感想などあればぜひ。 では。

6月某日(月)  
 午後、霞ヶ関の厚生省にて、第25回厚生科学審議会先端医療評価部会を傍聴。  
 東大医科学研究所で行なわれている腎臓がんの遺伝子治療と、岡山大学医学部付属病院で行なわれている肺がんの遺伝子治療について、経過の報告がなされた。医科研のほうはスライドと口頭による説明だけで配付資料がなかった。不誠実な態度である。どちらの治療にも、命にかかわるものではないというものの、一次的な発熱などの副作用があるという。  
 次に、東大医科学研究所が予定していた肝臓がんの遺伝子治療の申請が取り下げられたという説明が、厚生省の審議官から説明された。木村利人委員が「それはアメリカでベクターに欠陥があるとわかったからではないか?」とツッコミを入れた。この臨床研究では、シェリング・プラウという会社がつくった、p53遺伝子(がん抑制遺伝子)を組み込んだアデノウイルス(風邪などを引き起こすウイルス)をベクター(遺伝子の運び屋)として使おうとしていたのだが、アメリカで同じベクターを使った臨床試験で、多くの副作用があることが発覚したのだ。日本のマスコミではわずかしか報道されていない(断片的にではあるが、『別冊宝島 生物災害の悪夢』〔宝島社〕に所収の拙稿でも報告している)。しかし厚生省の審議官は「アメリカで第一相試験、第二相試験を終えたからです」と答えるにとどめ、副作用の可能性があることを認めなかった。不誠実な態度である。今後、遺伝子治療を受ける患者には、こうした経緯は説明されるのだろうか?  
 ほかに岡山大学で行なわれる予定の前立腺がんの遺伝子治療の臨床計画や、ヒト組織の移植、遺伝子解析研究などについて説明がなされた。ヒト組織、つまり皮膚や骨、人体、心臓弁などを移植などに利用することへの規制をどうするかという問題は、今年秋の臓器移植法の改訂を待つことになったようである。木村利人委員が前回の同部会で、「公開されているというが、どれくらいの公開なのか? 告知は? 傍聴者の数は?」と質問していたのに対して、今回、厚生省の審議官が「告知も不充分で、傍聴者の数も把握していない」と認めた。不誠実な態度である。こうした状況はこの部会に限らず、ほかの審議会の類でも大同小異だろう。
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 夜、銀座にて、『顔面漂流記』の著者で仕事仲間の石井政之氏が開いている私塾「顔塾」に出席。円形脱毛症の会の会長をやっている阿部更織さんのお話を聞く。阿部さんはカツラのコーディネーターのような活動もしていて、主にそちらの話を聞いた。阿部さんによると、カツラはそのままかぶっても不自然で、いろいろとカットしたりすると、すごく自然に見えるようになるという。カツラだけでなくメイクなども深く関係してくる。阿部さんは全身にまったく毛がないそうだが、次々とカツラを変える様子はまさしく変身といっていいもので、“脱帽”もの。山田まりや風あり、浜崎あゆみ風あり、椎名林檎風あり、よくわかんないあやしい女の人風あり……。その技術を独学で学んだというのだからスゴイ! ぜひともビジネスにしてほしいものである。  
 
6月某日(火)  
 夜、某勉強会に参加。某薬剤師の話を聞いたのだが、内容はまあまあ。  
 名刺交換した人に、「どこかでお会いしましたよね?」といわれて首をひねっていたのだが、2年ほど前にT社で会っていたことが発覚。T社の社員だと僕は思っていたのだが、フリーで編集者として契約している人だった。  

6月某日(水)  
 大の苦手である取材のアポとり数件。T社Sさんが歯ぎしりして原稿を待っている。しかも最近、Sさんが担当した本が次々とヒットを飛ばしている。がんばらねば。  
 夕方、中野の中古CD屋で、トッド・ラングレン『ライブ・イン・シカコ'91』、アントニオ・カルロス・ジョビン『波』、映画『エイミー』のサウンドトラックを買う。
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 そのまま中野で、DNA問題研究会の定例会に出席。毎日新聞科学環境部記者の高木昭午氏が講師となって、国立循環器病センターが住民検診で集めた血液の遺伝子を被験者に無断で解析していた事件などについて話すのを聞いた。この問題は、一研究機関の不祥事ということですまされるものではない。なぜなら同センターは、国家事業としての遺伝子解析研究「ミレニアム・ゲノム・プロジェクト」の中核をなす施設の一つであり、しかも厚生省ほか各省庁で決定されつつある遺伝子解析研究に対する規制は、同センターで行なわれたようなことを禁止するどころか、むしろ容認する方向に動いているからだ。さらに複雑なのは、遺伝子解析研究に関連する規制は、現在検討中のものも含めて4種類もあり、それぞれがどのような範囲を規制し、どう関連し合うかが非常にわかりにくいことである。僕自身もこの件については取材を続けているのだが、高木氏の話を聞いて、もやもやとしていた部分が少しだけ晴れた。  なお、僕も遺伝子解析研究について某誌でレポートする予定である。
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 近藤誠ほか著『私は臓器を提供しない』(羊泉社新書y)、池田清彦著『臓器移植 我、せずされず』(小学館文庫)を読み終える。  
 前者は玉石混合。3人の医学者はそれぞれ鋭い指摘をしている。そのほかで最も注目に値するのは評論家・宮崎哲弥の論考か。吉本隆明のところはおそらく聞き書きだろうが、注目するような鋭い指摘はほとんどなく肩すかしを喰う。聞き手に吉本の主張の核を引き出す能力が不足しているのか、それとも吉本には引き出されるに足るような主張はもうないのか?  
 後者はまあまあ面白かった。小松美彦著『死は共鳴する』と同じく、自己決定権批判を軸に、脳死臓器移植を批判しているのだが、池田は小松とは正反対のリバータリアン(絶対自由主義者)というところが興味深い。ただし脳死臓器移植に代わるものとして、池田は再生医療を挙げているが、再生医療=自家移植(自分の身体から取り出した細胞を培養して再び自分の身体に移植すること)ととらえているところはどうかなと思った。再生医療にはさまざまなものがあるが、他家移植(他人の身体から取り出した細胞を培養して移植すること)を前提として開発中のものもたくさんある。つまり方法論的には、現在行なわれている皮膚移植や骨移植などの組織移植の延長として行なうのだ。また、自家移植を前提としていてもそれで治まるのだろうか。再生医療研究の多くには企業がなんらかのかたちでからんでいるが、自家移植よりも他家移植のほうが産業化しやすいといわれている。そのための組織バンクづくりもちゃくちゃくと進んでいる。ならばそうした組織を誰からどのように集めるのかが大きな問題となってくるはずだ。そこを見極めなければ、簡単に評価はできない。さらにいえば、他家移植と自家移植のどちらにしても脳死者からの臓器移植に比べて「相対的には」リスクも少なく、倫理的なハードルも低いとされているが、それだってどうなるかは始まってみなければわからない。

6月某日(木)  
 大の苦手である取材のアポとり数件。T社Sさんが歯ぎしりして原稿を待っている。しかも最近、Sさんが担当した本が次々とヒットを飛ばしている。がんばらねば。
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 最近、キング・クリムゾンのブートレッグ(海賊版)CD『NO PUSSSYFOOTING』をよく聴いている。先々週、御茶の水のディスク・ユニオンで買ったものだ。2枚組のブートレッグで1800円と安かったので、店員に「音質は悪いですよね?」と確かめてみたら、「音質は値段とは関係ありませんよ。ロバート・フリップが昔の音源をどんどん正式なかたちで発表しているので、ブートレッグの価値が下がったのです」と彼は言った。その言葉を信じたのは間違いだった(笑)。そういうわけで音質は最悪だが、演奏は最高である。1972年のフランクフルトでのライブを収録したもので、もちろん、ロバート・フリップ(G)、ジョン・ウェットン(B、Vo)、ビル・ブラッフォード(Dr)、デビッド・クロス(バイオリン)と『太陽と戦慄』のメンバーである。2枚組で合計110分あまりの演奏のうち、なんと約60分がインプロヴィゼーション(即興演奏)である! これだからキング・クリムゾンはやめられない。僕の場合、ほとんどインプロヴィゼーションが楽しみで聴いているようなものである。なおキング・クリムゾンは最近、まったく違うメンバーで新譜を出したようだが、ブラッフォードがいないクリムゾンにはそれほど興味はない。
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 最近読んだ本。
(1) 荒俣宏著『帝都物語外伝 機関(からくり)童子』(角川文庫)  
 僕は大のオカルト嫌いだが、小説や映画は別である。想像力を働かせながらこういうものを読むのは楽しい。(なお現実世界のオカルトは、単に超能力があるとかないとか、UFOが実在するとかしないとか楽しんでいればいいというレベルのものではない。オカルトは間違いなく人を支配するための道具である。これについては別の機会に。) 『帝都物語』の本編全12巻は10年以上前、予備校生のときに読んだ。寺田寅彦、幸田露伴、石原完爾、三島由紀夫など実在の人物が多数登場し、歴史上彼らが行なったとされていることの多くがこの物語と関連しているところなど、着想の大胆さがなかなか面白い。今回の『外伝』には、本編が「小説」として登場するのだが、実は小説の内容は事実で、東京を破壊しようと望む魔人・加藤保憲が1995年の東京に復活しようとしている、という内容。つまり、小説が事実であったという小説。  
 虚構か現実なのかわからない情報がつねに飛び交うインターネットは、まるでこの小説みたいだ、といったら拙速だろうか? 本編ほどの勢いがないのがやや物足りないが、この時代にふさわしいエンターテインメント小説だと思う。
(2) 上原隆著『友がみな我よりえらく見える日は』(幻冬舎アウトロー文庫)
「人は劣等感にさいなまれ深く傷ついたとき、どのように自尊心ととりもどすのか。読むとなぜか心が軽くあたたかくなる、新しいタイプのノンフィクション」(裏表紙より)。無名の人々を描いた人物ルポで、これほど印象深い作品は少ないと思う。  幻冬舎アウトロー文庫は本当にいい。僕は、普通の幻冬舎文庫は一冊も持っていないけど、アウトロー文庫は15冊ぐらい読んだ。隠れた名作をこれだけたくさん文庫化していることはもっと評価されていい。
(3) 関川夏央『森に降る雨』(文春文庫)  
 いわずと知れた名文家の短編集。エッセイということになっているが、ほとんどはフィクションだろう。どちらかというと、内省的なものが多い。口に出してほめる必要すらない。

6月某日(金)  
 国立国会図書館にて、資料収集。主に学術文献をコピー。T社Sさんが歯ぎしりして原稿を待っている。しかも最近、Sさんが担当した本が次々とヒットを飛ばしている。がんばらねば(しつこいっつーの)。  インターネット書店デオデオから洋書1冊が届く。タイトルその他は秘密。

7月某日(土)  
 資料読み、整理、雑務。  
 買い物に出かける。上野でカツオブシとキムチを、秋葉原でノートパソコン用バッグを買う。
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『朝日新聞』の夕刊で、「日本の警察、反戦原論取り締まり GHQに報告 史料見つかる」という記事を読んだ。朝鮮戦争が始まったころ、日本の警察が戦争批判につながる言論活動を取り締まっていた事実を記録した文書が見つかったという記事だ。連合軍司令部(GHQ)は当時、占領政策に有害な行為などを取り締まる「勅令」を定めていたそうで、戦争反対活動などした者がこれに当たるとし、当時の日本の警察が該当者を取り締まっていたという。見つかった文書は、日本の警察がGHQに報告するためにまとめた「犯罪即報」などの書類だという。検閲などの言論弾圧は、「取り締まられる側」の証言や記録は比較的多くてよく残っているが、「取り締まる側」の記録が見つかるのは珍しいという。ならば後者のほうが貴重である。  
 ところで僕は、厚生省や科学技術庁で開かれる各種委員会をよく傍聴している。そのたびに、角2(A4)封筒ひとつ分の配付資料をもらう。こうした行政資料は、最近は情報公開とやらで比較的入手しやすくなったようだ。議事録や報告書の類は、たいていインターネットでも公開される。しかし、各委員会の議事次第とか、完成前の「案」の段階の報告書とか、そのとき入手しなければ入手しにくい資料も多い。前にも書いたが、僕のモットーは「情報は敵の資料からとれ!」である。つまり、「取り締まる側」の資料だ。いま生命操作をめぐって、いくつもの指針が次々とつくられてつつあるが、その内容は首尾できるものではなく、そのうえ成立過程にも納得できない点がかなりある。僕の部屋の片隅を占領している大量の封筒に入った資料は、その貴重な記録となっているはずだ。

7月某日(日)  
 総選挙投票日。近くの小学校で投票。  
 ところで数日前、「環境派」とされているF候補者(S党)の宣伝ハガキが届いた。僕の住んでいる千葉5区では、比較的まともな候補者だと思っていたのだが、こうしたダイレクトメールを送るさいに使う名簿の出所はどこだろう? また、このハガキを見ても差出人がはっきりとはわわからず、選挙事務所等の住所はない。「私も推薦します」という空欄に、県議会議員のハンコがあるから、この人からだろうか? しかしこの人物に会った記憶はない。どこかの市民運動関係者から名簿が流れたような気もするが、それも推測に過ぎない。いまのところ、目に見える実害はとくにないようだが。  
 深夜12時ごろまで選挙速報を見て、就寝。(つづく)

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