粥川準二@ライターです。
このメールは私の友人・知人で、このようなくだらないものを送りつけても、笑って読ん
でくれそうな優しい人たちに送っています。実は、この夏にホームページ開設を考えてお
り、日誌形式の週刊コラムを掲載しようかと思っています。原則として、毎週月曜日発行
。そのテスト版をお送りします。『週刊鉄亀』は仮題(石井政之氏の『週刊石猿』
http: //www.people.or.jp/~maria/ishii.htm のパクリ)で、タイトルはまだ未定(募集中!)
です。ご感想などあればぜひ。 では。
6月某日(月)
朝4時半に起床し、6時12分東京発の新幹線で栃木県の那須塩原へ。農水省系の某研究
所で、「外来生物」について取材。午前と午後、別々の研究についてそれぞれ研究者から
話を聞く。やたら親切で、これでもかというほどたくさん資料をくれた。日ごろ遺伝子組
み換え食品/作物をめぐって農水省を批判している僕としては、恐縮するばかりである。
かといって、それで遺伝子組み換え食品/作物に対して甘くなるわけではないが。
夜に帰宅。疲労困憊。
6月某日(火)
終日原稿。ゲノム解析について。手こずる。夜になってやっと書き上げ、とりあえず編
集者に連絡。
村上春樹編・訳『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』(中央公論社)を読み終える
。村上春樹がアメリカの雑誌や新聞で見つけた文学関係の記事やエッセイを翻訳して、解
説を加えたもの。村上春樹は、高校生から20代の前半まではほんとによく読んでいたけど
、『ねじまき鳥クロニクル』に失望して以来、ちょっと離れていた作家。小説家としては
あまり興味なくなってしまったが、アメリカ現代文学の翻訳者/紹介者のとしてはまだま
だ注目すべきだなというのが読後感。
いちばん面白かったのが、冒頭に収録されているD・T・マックス「誰がレイモンド・
カーヴァーの小説を書いたのか?」。カーヴァーの初期作品は、実は、編集者によってず
いぶん加筆訂正されていたこと、後期の作品も妻によってかなり手を入れられていたよう
だということがレポートされている。アメリカの読書界、文壇ではずいぶん話題になった
記事らしい。編集者の手の入れ方は、「編集」というよりも「共同執筆」といってもいい
ほどのレベルのもので、カーヴァーはそれを感謝しながらも嫌がっており、徐々に彼の干
渉に強く抵抗するようになった経緯が遺稿などで明らかにされていく。僕自身もいちおう
物書きなので、書き手−編集者の関係を考えるうえでとても興味深かった。僕も、編集者
のアドバイスはたいへん助かり、いつも感謝しているのだが、何も言わずに大きく書き換
えてしまう編集者がときどきいて、閉口することがある。
そのほかティム・オブライエンのベトナム再訪ルポや、ジョン・アーヴィング会見記な
どが面白かった。そういえば、村上春樹のここ数年の作品をケチョンケチョンにけなして
いるスーパーエディターの安原顕が、村上の新作『神の子どもたちはみな踊る』をほめていた。読んでみるべきか?
6月某日(水)
なんと午前9時半から月刊誌『TRIGGER(トリガー)』の企画打ち合わせ。同時に同誌の
最新号を受け取る。今回僕は、連載「バイオの世紀」で軟骨の再生技術について書いてい
るほか、燃料電池特集でも2本の記事を書いている。なお燃料電池特集では、僕以外に、
『ジェットエンジンに取り憑かれた男』(講談社文庫)などで知られるノンフィクション
作家・前間孝則氏が記者として取材・執筆している。『TRIGGER』のバックナンバーを見る
と、天笠啓祐や前間孝則だけでなく、深見輝明、高杉晋吾、弥津加奈子など多くの活躍中
の科学ジャーナリストたちが記者として仕事をしていたことがわかる。気が引き締まる。
午後、大手町の中央合同庁舎3号館で、全農林(農林水産省の労働組合!)の女性部会
の大会で、環境ホルモンについて講演。「僕は日ごろ、遺伝子組み換え食品については、
農水省に批判的でありまして……」とぶちあげてから、話し始める。環境ホルモンについてはあまり最近は取材していないので、きわめてベーシックな話だけをしたつもりだった
が、ちょっと難しかったらしく、質問はあまり出なかった。コムツカシイ話をわかりやす
く話すのはほんとに難しい。何度やっても、なかなかうまくいかない。
本を5冊も買ってもらい、もちろん講師料もいただいた。恐縮である。労働組合ではあ
るが、最近、農水省には世話になっている。かといって、それで遺伝子組み換え食品/作物に対して甘くなるわけではないが(しつこい?)。
夕方、霞ヶ関に移動し、通産省別館の科技庁会議室で、科学技術委員会生命倫理委員会
ヒトゲノム研究小委員会を傍聴。あいかわらずたいした議論はないまま、ヒトゲノム研究
に関する「基本原則」はまとめられてしまった。上部組織である生命倫理委員会に諮られ
て、正式に決定するらしい。「基本原則」とは別に、これから科技、厚生、通産、文部の
四省庁が連携して、「指針」をつくるという。
傍聴していると、隣にいた人から小さな声で「カユカワさんですか?」と突然声をかけ
られた。僕が仕事をしている某雑誌を発行する某新聞社の記者で、僕の名前を覚えてくれ
ていたらしい。受付の記帳を見て僕がいることを知り、「カンで」、声をかけてきたそう
だ。まあ、運動靴にジーパン、黒のTシャツ(スティーリー・ダンのコンサートで買った
もの)、釣り用ジャケットというスタイルでは、新聞記者には見えないからね。
帰宅後、某テレビ局の知り合いから電話。僕がインタビューし、記事を書いたことのあ
るアーパッド・プシュタイ博士の実験について、事実確認その他。
今日はさすがに疲れた……。
6月某日(木)
高速バスに乗って茨城県つくば市へ。環境庁系某研究所で「外来生物」について研究者を取材する。思いのほか収穫あり。ある興味深い事例を教えてもらったのだが、「これは
書かないでくださいね」と言われる。「ええー、そこまで教えてくれたなら、書かせてくださいよ」と抵抗し、書けるところまで書かせてもらうことにする。彼は、外来生物以外に、有害化学物質についても興味深い研究報告を行なっており、資料をいただく。恐縮。
6月某日(金)
終日、自宅にて原稿、テープ起こし、雑務。
6月某日(土)
午後、御茶の水にて、出版フリーランサーの労組で発行する冊子の校正作業を手伝う。
夕方、飯田橋に移動。書店で、池田清彦著『臓器移植 我、せずされず』(小学館文庫
)、近藤誠ほか著『私は臓器を提供しない』(羊泉社新書y)を買う。
そのまま飯田橋で、自主ビデオの流通組織「Video
Act ! 」の上映会に参加。宮原美佳 『ミエナイセン』、山本祐子『ゆらゆら』、『疑似恋愛』、『からっぽ』を観る。
帰宅して夜寝る前、『私は臓器を提供しない』を拾い読みする。この本の著者は「近藤
誠 中野翠 宮崎哲弥 吉本隆明ほか」となっているが、中野が2番目になっているところがどうしても納得できない。中野はわずか9頁の、ほとんど内容のない駄文を書いているだけある。ほかには近藤孝や阿部知子といった脳死移植に対して批判的な医師はもちろ
ん、小浜逸郎や山折哲雄もなかなかしっかりとしたものを書いているのに、彼らの名前ではなく中野の名前が表紙に使われているのは、マーケティング上の戦略以外意味がないと思う。でもたぶんそれがすべてなのだろう。悲しいことに、それが出版業界の実状なのだ
。
6月某日(日)
終日、自宅にて原稿。雑務。(つづく)