2000年度上半期に読んだ本ベスト3
8月2日、新宿の紀伊國屋書店で『図書新聞』8月5日号を買った。同紙恒例の「上半期読書アンケート」が載っていたからだ。各分野の論客が、上半期に出版された本のベスト3をそれぞれ挙げる企画である。僕の知り合いでは、ジャーナリストの天笠啓祐氏、科学史家の小松美彦氏がアンケートに答えていた。いろいろと僕の知らない本をあげている回答者も多く参考になったのだが、後述する『負けた戦争の記憶』を取り上げていた回答者がいなかったのがちょっと納得がいかなかった。
何人かが金森修著『サイエンス・ウォーズ』(東京大学出版会)を取り上げていたのが目についた。いわゆる「ソーカル事件」を取り上げた論文などを収録したもので、僕もずっと気になっていた本なのだが、哲学・思想コーナーで値段を確かめてみると3800円でびっくり。最近は新書ばかり読んでいるので、非常に高価だと感じる。でも、近いうちに買うことになるだろう。それはともかく、早く僕も『図書新聞』や『週刊読書人』から読書アンケートを依頼されるようになりたいものである。われながら地味な希望である(苦笑)。
というわけで、今年上半期に出版されて、僕が読んだ本のなかでのベスト3を勝手に挙げさせてもらう(順不同)。
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生井英考著『負けた戦争の記憶』(三省堂)
アメリカ人がベトナム戦争のことを「負けた戦争(lost
war)」と認められるようになったのはごく最近のことだという。前著『ジャングルクルーズにうってつけの日』(三省堂)の続編的な内容で、この戦争がアメリカ人の精神にどのような影響を与えたのか、とくに戦争終了後約30年間でどのような変化が生じたのかが、ていねいに分析されている。
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市野川容孝著『身体/生命』(岩波書店)
新進気鋭の社会学者が、ミシェル・フーコーの著作に出てくる「生-権力」という概念を下敷きに、「身体」や「生命」というものがどのように見られ、考えられてきて、さままざまな社会的事象とどのように関係してきたのかを歴史的な視点で読み解いた意欲作。哲学や社会学の術語が頻発し、そのうえ横書きでたいへん読みにくい本ではあるが、教えられることは多かった。なおこの著者は最近、米本昌平らと共著で『優生学と人間社会』(講談社現代新書)という本を出した。
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『思想』2000年2月号「特集 生命圏の政治学」
単行本ではなくて恐縮だが、上記の市野川ほか、立岩真也、小松美彦、金森修、柘植あづみらが、「生命」をめぐるさまざまな事象を、社会学や科学史などそれぞれの立場から分析した諸論文を収録。いずれも力作。やはりキーワードは「自己決定権」か?(2000年8月2日記)
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