『朝日新聞』7月6日付で、「病原体や患者の複製DNA 病院の4割密封せず廃棄」という記事を読んだ。同紙によると、厚生省研究班が、全国109の大学病院、224の総合病院を対象に、遺伝子操作の有無、廃棄方法などの実態調査を行なったところ、大学病院の7割、総合病院の3割が遺伝子操作を行なっているとわかった。そのうち多くの施設では、複製したDNAを、そのまま配水施設に流したり、分解や不活性化しないまま一般廃棄物として処理していることがわかったという。研究班の班長は松島肇・浜松医大教授、中心となって行なったのは保科定頼・東京慈恵医大講師。
問題は次の一文である。「保科講師によると、DNAをずさんに扱うと、研究者や処理業者らが吸い込んだり、皮膚の傷口などから入ったりして細胞に取り込まれ、発がん性などの悪影響を与える危険性が否定できないという」
つまり、実験用に細胞から取り出したDNA自体に危険性があるというのだ。この「裸のDNA」の危険性は、国立感染症研究所名誉所員の本庄重男氏らが(イギリスのオープン大学の生化学者メイ・ワン・ホー博士の見解などを援用しながら)以前から訴えていたものである。僕も、『別冊宝島 生物災害の悪夢』(別冊宝島)で本庄氏にインタビューしており、この問題は気になっていた。遺伝子操作をやっている施設なら、裸のDNAは必ず存在する。この調査は病院のみを対象としているが、遺伝子操作をしている施設は、大学や国、民間の研究所にもあり、それらが適切にDNAを処分しているか否かは明らかではない。
また、記事には次のようにある。「フランスのパスツール研究では一九八九年、DNA操作をしていた七人の研究者が特殊なリンパ肉腫にかかり、複製DNAが体内に入って発がんを促したのではないかと疑われた」
パスツール研究所の遺伝子操作施設で、研究者のあいだでがんが多発したという事件は、天笠啓祐氏や芝田進午氏の著作で読んで知っていたが、僕は、何人かの人から「遺伝子操作実験に使う試薬に発がん性があったらしい」と聞いていた。この件についてはそれ以上、確認していなかったのだが、今回の記事によれば、試薬よりもむしろ複製DNA=裸のDNAが原因である可能性もありそうだ。
いずれにしろ、厚生省研究班の報告書を入手する必要がある。遺伝子操作実験の安全性に関する定説=神話をひっくり返す可能性すらあるのだ。(2000年7月9日記)
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