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「学童保育の立場から見た学校週５日制」

☆はじめに
　学童保育は１９９８年４月から児童福祉法で施行されたもので、それ以前の歴史を振り返っても、比較的新しい施策です。もちろん戦後すぐから、行われはじめ５０年近い歴史を持っていますが、法的根拠としてはという意味です。
しかし、この法制化で学童保育は第６条の事業に位置付いたため（保育所などは第７条の施設です）、最低基準が設定されていません。ということは、実施主体により様々な施策が展開されるということです。
　名古屋市では圧倒的多くが民間学童保育所（以下すべての民間学童保育所のことを”民間”とします）です（２０１カ所中公立は１６カ所の児童館で行われています）。逆に名古屋市をのぞく愛知県下は、圧倒的多くが公設公営もしくは公設委託です（以下すべての公設学童保育所のことを”公立”とします）。運営形態の違いによる保育のさもあります。
　また、保育士というような資格が設定されているわけではなく、国の補助金の額もパート単価です。名古屋市は補助金を受ける指導員の資格を「教師・保育士の資格もしくは児童の健全育成に１年以上従事したもの」としていますが、多くの所では、見てくれる人であればよいという形になっています。
　学童保育の保育を保護・育成といわれる人も多くいます。その人達の多くは「子どもと遊んでくれてればよい」と考えられています。
　私たちは、学童保育の保育は保護・愛護・教育であり、指導員は専門的な知識を備えたものでなければ、子どもたちの安全と発達は守れないと言ってきましたし『保育指針』のような大綱もつくる予定です。
　そんな中、上記の児童福祉法で施行される際に、学童保育関係者は『生活』ということばにこだわりました。始まりが「健全育成」からですので、「いきいき」ということばが象徴するように、楽しく健康的に子どもが成長するところという意味合いが未だに強くあるところがあります。しかし、私たちは先にも述べたように『保護・愛護・教育』の場であり、子どもの安全と発達が守られるという意味から「生活」と「学童保育」にこだわりました。結果、児童福祉法第６条の２⑦に「適切な遊び及び生活の場」という文言が記載されました。しかし、「学童保育」は、「放課後児童健全育成事業」ということばに置き換えられました。ただし、社会的に認知されたところであり、これからどう育っていくかは、私たちが責任を持って見守って行かなくてはなりません。そういう意味ではスタートしたばかりの施策とも言えます。
以下のことは、上記の意味合いをふまえて、学童保育のことをご理解頂きますようお願いいたします。

☆子どもの生活から
　学校５日制が始まり、学童保育での子どもたちの生活はどう変化をしたかを考えるためには、月曜日から金曜日までと、土曜日の生活の両面を考えなくてはなりません。
　月曜日から金曜日の生活について、一言で言えば放課後といえる時間が短くなったということです。
　日々の生活で具体的に言えば、おやつの時間が遅くなりました。学校から帰ってくるのが遅く、そこから準備を始めますので、多くのところで午後４時になっています。このことからも、生活習慣が崩れてきていることがいえます。まして名古屋市には、４年生からの活発な部活動があります。昨年までは、部活が終わった後、飢えたオオカミのように学童保育におやつを食べに来ていた子どもたちが、今年度は、おやつを学童保育に食べに帰る時間すらなく、そのまま家に帰る現状もあります。

　しかし、学校５日制の弊害はこれだけにとどまりません。
１年生の子どもは、初めての学校ですから、昨年までとどう違うか解りませんが、指導員の立場から言えば、昨年の１年生に比べ今年の１年生は明らかに疲れていると言う指導員が圧倒的です。
２年生、３年生の子どもは、体力がついてきている子どもと、そうでない子どもの差がありますが、大きくとらえれば、１年生と同じようなことが言えます。
　学校で先生と会話する余裕がなくなったのか、友達と遊ぶ休憩時間がうまく使えなくなったのか、原因ははっきりしませんが、放課後の時間が短くなったことに加え、子どもたちは学校からストレスを昨年以上に抱えてくるようになりました。このような状況を受け、学童保育指導員は昨年度まで体験しなかった子どもたちの状況を体験し、子どもたちに対してどう保育を展開していけばよいのかという精神的圧迫が始まりました。内容的には、大きく分けて２つの事例が報告されています。
　一つは、精神的な疲れ（以下「負の疲労」）を背負った子どもたちが増えている中で、保育をどう組み立てていくかです。
　学童保育は生活の場ですから、家庭と同じような役割が望まれます。つまり、「ゆっくりして、自分を解放したい。」ということと、「子どもの発達上集団での関わりや遊びを通して、子どもたちの生活に変化をもたらすこと」です。このことを行うために一つの対応として、『子どもは疲れているから、まずゆっくり休ませ、回復して、よしやろうという気持ちにさせてから遊びなどを行おう』という考え方です。これを実践しようとすると、休ませていると、遊ぶ時間がなくなる。というジレンマが発生します。
もう一つの対応として、『放課後の時間が短くなったので、めいっぱい遊ばせたい。』という考え方です。こちらの実践は、子どもが疲れを回復しない、しかも負の疲労を引きずっているので、遊び等の取組に集中しない。という、悪循環が発生します。
この両者の対応について、どちらが正しいとも言えませんが、はっきりしていることは、子どもにとって心地よい疲労が少なくなっているということです。
　つまり、学校での疲れは、負の疲労が大きく、とても心地よい疲労とは言えません。そのために、前者の指導員は、まず負の疲労を回復させて、心地よい疲労に転換させる前段階として、まず休ませることに心血を注ぎます。しかし、負の疲労が回復し、「さあ、遊ぼう。」としてもすでに学童保育所が終わる時間が近づいたりしていて、心地よい疲労を感じるほど、遊びや人間関係を夢中で楽しめません。
逆に遊びを多くしても、負の疲労がすでに溜まっていますので、心地よい疲労の蓄積にならず、疲れが一気にでるという現象が起こり、遊びが楽しめません。
　さらに、負の疲労は心地よい疲労と違って、回復が遅く、蓄積していく傾向があります。つまり、月曜日、火曜日、水曜日と進むほど子どもの疲れは蓄積していき、金曜日に至っては、疲れ切った顔をした子どもが出現する状態になっています。

　今一つは、学校五日制が始まっても、昨年度と全く変わらない子どもたちがいることです。前者の子どもとの融和をどうするかという、新たな模索が始まっています。
これらのことを考えた場合、教育の学校と生活の学童保育という図式がはっきりしてきます。学校では、いやという気持ちがあるがなかろうが、授業は進みます。先生により、彩りを添え、授業に集中させることは可能でしょうが、自分を解放し、したいことをしたいという生活の場ではそうはいきません。また、次の日に疲労が蓄積しないように考えるのも生活の場である学童保育だからこそなのです。

　土曜日はどうなのでしょうか？厚生労働省は、企業の週休２日制を促進するために、学校を５日制にすると言ってきました。その根拠は、第１，第３土曜日を休みにしたときに、企業の休み（第１，第３土曜日）が多くなったという統計があるからです。しかし、現状は当時とは全く別のものと言えるくらい変わってきています。完全週休２日制は労働者の約６０％でしかありません。この％はここ数年大きな変化はありません。まして、パート労働・サービス労働が増えている現在、土曜日に働く保護者の数は減っていません。
１人親の現状に至っては、多くの人が土曜日に働いています。
　子どもの生活に戻りますと、土曜日に学童保育所に来る子どもは、疲れた顔をしている子どもが多いと聞きます。この理由としては、前述の疲労の蓄積の他に、もう一つの要因が発生しているようです。
土、日休みになったため、金曜日の夜から多くの子どもの生活が夜型になっているようです。統計的に調査をしていませんので、はっきりとは言えませんが、少なくとも私の周り及び、聞いた範囲では増えているようです。このことが疲れを増大させているようです。複数の指導員が、土曜日の朝が一番保育がしにくいといっているのは、その現れです。金曜日の夜早く寝た子どもは元気ですが、遅く寝た子どもは疲労が蓄積し、疲れのピークという両極端の子ども集団を保育するわけですから、それは想像するだけで大変なことが解ります。

☆学童保育所土曜日開所に関して
　土曜日は開所するだけでも問題も起きています。
１．教育委員会が所轄している学童保育に多いのが、土曜日を閉所にするところです。　　理由は「放課後でない」ということです。つまり学童保育は国で言うところは「放課後児童健全育成事業」だからです。しかし、この理由は屁理屈であることは、誰が見てもはっきりしています。何せ、土曜日を閉所するところでも、夏休みなどの長期休暇は行っているからです。
２．教育委員会の所轄でなくても公立で土曜日を閉所しているところもあります。こちらの理由は、単純に金銭的なものです。前年より人件費を多くするなら、少なくなるように土曜日全部閉めるという乱暴な理論です。
　　また、人件費を拠出できないために、開所時間の調整（午後３時までとか、午後からとか）で、開所しているところもあります。
　　これらに共通しているのは、子どもの置かれている状況がどうであるかという考え方からでなく、自治体リストラの考えの延長からくる、コスト削減でしかありません。子どもの行き場は何処にあるのでしょうか？
３．父母負担の増加か指導員の過剰労働になるのは、民間です。
　　土曜日を開けるとなれば、１週間につき今までより少なくとも数時間以上の人件費を拠出しなければなりません。
　　人件費が拠出できないのに、土曜日を開所するためには、指導員が休みを少なくして働くか、保護者が保育にはいるしかありません。
　　土曜日の指導員体制を少なくするために行事を行い（演劇鑑賞、映画鑑賞など）それまでの指導員体制と、金銭負担で乗り切ろうというところもありますが、実際は行事にかかる費用を保護者が出すことになり、違う形の金銭的負担になっています。
　　どういう形にしろ、金銭的負担に限らず、精神面や肉体的な負担は大きいものがあります。
これらは、国の制度が貧弱だからに他なりません。学校５日制にあわせ、『土曜日など開設補助』を新設しましたが、年間約２１万円でしかありません。単純に年間５１週土曜日８時間８５０円のパートさんが働いたとして、３４６，８００円になり、２人に換算すると６９３，６００円です。正規の職員なら、金額は倍以上になります。今まで、半分が休みだったということを差し引いても、補助金が実態に合ってないことは間違いありません。　　

☆土曜日のお昼ご飯＝愛情表現？負担？
　土曜日に学童保育に育子どもは、必然的にお昼ご飯が必要となります。本音で言えば、働く保護者の多くはお弁当をつくるのが負担に感じています。「子どものお弁当は愛情を込めて、親がつくるべき。」といわれる方の本心はよくわかりますが、実際くたくたになるまで働き、土曜日も仕事に出かけなければならない状況（土曜日に学童保育所に子どもを預けるということ）では、朝お弁当をつくるために３０分前に起きることが非常に辛いのです。その上、我が家などもそうですが買い物を土・日でまとめ買いしている状況では、土曜日の朝は一番食材がないときです。お弁当のためにといえば不謹慎にとられるかもしれませんが、買い物に行かなければならない状況も出てき、２重の負担になります。とはいうものの、普段接することができないので、土曜日のお弁当は愛情を込めてつくりたいといわれる方も間違いなくいらっしゃいます。
　民間では、学童保育所で給食をつくるというところもあります。上記のような負担感は起こりませんが、人件費を負担するという金銭的負担感が出てきています。

☆終わりに
　学童保育は地域の子育ての拠点を、ある程度自負してきました。それは、学童保育所に関わった保護者や地域の方達が、群れをなして生活する子どもと、働きながらも子どもたちの生活に責任を持つ保護者の姿をみて、感じ取ってきたことです。
学校５日制になり、学童保育に対する考え方は変わってきています。
「放課後という時間が少なくなってきたのだから、長期休暇中だけでよいのではないか。」「放課後は短いし、学童保育に行って遊んでばかりいると、勉強が遅れるから働いている間は塾に行かせよう。」
「高学年は部活があるから、学童保育は必要ないのでは。」
「放課後が短くなったのだから、指導員さんの給料は少なくなるね。」
これらの意見は一概に学校５日制になったからといって出てきたものではありませんが、声が大きくなっているのは確かです。
私たちは、学校５日制になった今は、学童保育の必要性が高まったと思っています。その理由は、最初に述べた子どもたちの生活の面からです。もちろんゆとりがますます少なくなっている保護者の生活の面からも重要ですが・・・
　子どもの精神的ケアーを含め、専門的な力量を持った学童保育指導員の存在が今後ますます重要になることを明言して、まとめに返させていただきます。