人報連ニュース・ダイジェスト【2002年】
(人権と報道・連絡会定例会・シンポジウム等の概要)
第170回 三浦さん共同通信訴訟/アレフ信者住民登録訴訟
人権と報道・連絡会の第170回定例会が1月21日夜、中央大駿河台記念館で開かれ 約40人が参加した。テーマは「ロス疑惑」報道・対共同通信訴訟とアレフ信者の住民票 訴訟。「ロス疑惑」共同通信訴訟は、三浦和義さんが共同通信とその配信記事を掲載し た地方紙の責任を問うた裁判。提訴したうち地方紙の責任が認められなかった約3割に ついて昨年12月最高裁で弁論が開かれ、逆転勝訴が確実となった(判決は1月29日)。 例会では、三浦さん本人が訴訟の内容、経過を報告した。
アレフ住民票訴訟については、昨年秋以降6件の地裁判決があったが、いずれも原告 が勝訴しており、アレフ法務部の広末晃敏さんが訴訟経過と判決内容を報告した。
第171回 「不審船・朝銀」報道など検証
人権と報道・連絡会の第171回定例会が2月18日夜中央大駿河台記念館で開かれ、約30人が参加した。テーマは、朝鮮民主主義人民共和国=「北朝鮮」関連報道。
昨年12月下旬、奄美沖で起きた「不審船」事件で、メディアは政府情報を一方的に流し、根拠も示さず「北朝鮮の工作船か」と報道、「反北」キャンペーンを繰り広げて、「有事法制」論議に結び付けた。また昨年秋以来、各地の「朝銀破たん」問題も、各メディアがことさらに事件化し、反「北」感情を煽った。
例会では在日ジャーナリストで、朝鮮新報社編集局副局長の厳正彦(オム・ジョンオン)さんが、こうした一連の報道の問題点や背景を報告、「朝鮮に関する日本メディアの報道は、一貫して予断に基づく最初から結論ありきの報道」と批判した。
例会ではこのほか、連絡会世話人の浅野健一さんが、NHK「やらせ爆弾漁法」裁判について経過と現状を報告した。
第172回 テレビ報道訴訟とBRC問題
人権と報道・連絡会の第172回定例会が3月11日夜、中央大駿河台記念館で開かれ、約40人が参加した。テーマは、帝京大ラグビー部事件テレビ訴訟。98年1月、同部員ら8人が集団レイプ容疑で逮捕された際、テレビのワイドショーは「事件」をセンセーショナルに報道、実名・顔写真入りで部員らをバッシングした。
これに対して部員2人が冤罪を訴え、BRO(放送と人権等権利に関する委員会機構)に報道被害救済を申し立てたが、BRC(同委員会)は事実上、報道を容認。2人とその家族は日本テレビ、フジテレビ、テレビ朝日の3社を名誉棄損で提訴した。例会では、代理人の弘中惇一郎弁護士が、2月に原告勝訴の控訴審判決が出たフジテレビ訴訟を中心に訴訟経過を報告、報道被害を救済できなかったBROの問題点についても討論した。
第173回 『新潮45』のだまし記事検証
人権と報道・連絡会の第173回定例会が4月8日夜、中央大駿河台記念館で開かれ、 約40人が参加した。テーマは、恵庭事件『新潮45』報道と裁判経過。2000年3月、 北海道恵庭市で女性会社員が殺され、同僚女性Oさんが逮捕されたこの事件について、 連絡会では昨年5月定例会で、無実を訴えるOさんを「支援する会」から事件経過や報 道の問題点を報告していただいた(ニュース第161号)。その後の裁判でも検察側は 事件とOさんを結び付ける証拠を全く出せないでいるが、月刊誌『新潮45』は今年2月 号に《恵庭美人OL社内恋愛殺人事件》と題する露骨な犯人視記事を掲載した。例会で は「支援する会」の多田律子代表らから、記事の問題点や取材経過、訂正要求に対する 『新潮45』編集部と記者の対応などについて報告を受けた。
第174回 名誉毀損訴訟の時効問題など
人権と報道・連絡会の第174回定例会が5月20日夜、中央大駿河台記念館で開かれ、 約30人が参加した。テーマは「高畠事件報道被害と国賠訴訟判決」。
84年に山形県高畠町で起きたひき逃げ事件の冤罪・報道被害者が警察・検察と山形新 聞社に賠償を求めた裁判で、山形地裁は今年1月、訴えを全面的に退ける判決を出した。
例会では、ひき逃げ裁判以来、弁護活動を続けている阿部泰雄弁護士が、事件と報道、 刑事裁判、国賠訴訟の経過と判決の問題点を報告、参加者の間で対メディア訴訟の課題 などについて討論した。
また、個人情報保護法案などメディア規制法案に対して、「人権と報道」に取り組む 全国のネットワークで共同声明を出すことになり、連絡会事務局から、その経過と声明 案を説明、例会参加者の了承を得た。
第175回 和歌山事件の捜査・報道・弁護
人権と報道・連絡会の第175回定例会が6月24日夜、中央大駿河台記念館で開かれ、 約40人が参加した。テーマは「和歌山カレー事件の捜査・報道・弁護」。98年7月に起 きたこの事件では、逮捕前からH夫妻が犯人と断定的に報道され、弁護団に対して弁護 活動そのものを非難する風潮が作られた。また、被告が黙秘を貫いたのに対し、検察側 がテレビのインタビュービデオを証拠申請し、採用されるなど、報道は裁判にも大きな 影響を及ぼしている。裁判は夫妻が分離して行われ、夫については詐欺事件のみですで に判決が確定。妻の公判で6月5日、検察側が死刑を求刑した。例会では、妻の弁護人 を務める大阪弁護士会の山口健一さんから、捜査と報道の問題点、裁判の経過、その中 での弁護人としての活動のあり方などについて報告を受けた。
第176回 対産経「解雇無効」の勝訴判決
人権と報道・連絡会の第176回定例会が7月29日夜、中央大駿河台記念館で開かれ、 約30人が参加した。テーマは「日本工業新聞・不当解雇訴訟」(第3次産経残酷物語) の判決について。産経グループ・日本工業新聞の大リストラ計画に抗して、94年1月、 「反リストラ産経労」を結成、同年9月に日本工業新聞社から懲戒解雇された松沢弘さ んが解雇撤回を求めた訴訟で、東京地裁は5月31日、会社側の解雇権乱用を認め、懲戒 解雇を無効として未払い賃金の支払いを命じる判決を言い渡した。例会では、松沢さん が訴訟の経緯と判決を中心に「反リストラ産経労」の闘いの意義などを報告、マス・メ ディアにおける労働運動のあり方などについて討論した。
第177回 メディア法規制の現状と課題
人権と報道・連絡会の第177回定例会が9月9日夜、中央大駿河台記念館で開かれ、 約40人が参加した。テーマは「メディア法規制の現状と課題」。連絡会世話人の山口が、 この数年来の「メディア法規制」の動き、反対運動の課題などについて、先の国会で継 続審議になった個人情報保護法案と人権擁護法案を中心に報告した。その中では、両法 案を「メディア規制法案」と呼ぶことは両法案がはらむ他の問題点を隠す危険性がある こと、大手メディアが「法規制対策」として強調する「集団的過熱取材対策」や「社別 第三者機関設置」の欺瞞性、フリージャーナリストを中心とした反対運動には「報道加 害」への反省が欠けていることなどを指摘。報道被害者が共感できるような「法規制反 対運動」や「メディア自主規制」のあり方について討論した。
第178回 教育現場の冤罪と報道被害
人権と報道・連絡会の第178回定例会が10月7日夜、中央大駿河台記念館で開かれ、約30人が参加した。テーマは「教育現場の冤罪と報道被害」。昨年5月、千葉県・四街道南小で学校当局と公安警察が一体となって起こしたでっち上げ「傷害」事件と報道について、冤罪・報道被害者の渡壁隆志さんが「事件」経過とその背景について報告した。渡壁さんは二十数年間、「面白い授業」作りの先進的な実践を続ける一方、日の丸・君が代強制や教育六法反対の運動に取り組んできた。「事件」は、それに対するあからさまな報復攻撃であり、「教育反動化と闘う教員」の教育現場からの排除を画策したもの。例会では、学校側が撮影したにもかかわらず「傷害事件」の虚構性を示すビデオも映され、冤罪を追認した報道と裁判についても報告された。
〈メディア法規制――報道被害者の声を聞く〉をテーマに、人権と報道・連絡会主催の第18回人権と報道を考えるシンポジウムが11月2日、中央大学駿河台記念館で開かれ、約120人が参加した。シンポでは「桶川事件」報道被害者・猪野憲一さん、「松本サリン事件」報道被害者・河野義行さん、「ロス疑惑」報道被害者・三浦和義さんの3人から、報道被害の実態、加害メディアとの闘い、報道被害者の立場から見たメディア法規制などについて、率直に話していただいた。
メディア法規制をめぐる議論は、これまでメディア側の「報道の自由」論が中心で、報道被害者の声はほとんど無視されてきた。この日の討論では「わずかでも良心的ジャーナリストがいる限り、法規制は避けるべき」「法規制では報道被害はなくならない」「心情的には反対だが、メディアの現状では法規制もやむを得ない」――などと報道被害者の間でも微妙に意見が分かれた。これを受けた会場討論では法規制には反対の声が多かったが、それ以上にメディアが報道被害の深刻さを自覚し、報道被害防止・名誉回復のシステムを確立すべきだとの意見が強く出された。
【参考】"Victims of over-zealous media weigh new human rights bills"(The Japan Times)――本シンポジウムの取材記事。
第179回 日朝国交正常化交渉と拉致報道
人権と報道・連絡会の第179回定例会が12月9日夜、中央大学駿河台記念館で開かれ、約40人が参加した。テーマは「日朝国交正常化交渉と拉致報道」。9月17日の「日朝首脳会談」から約3か月、日本のマス・メディアの日朝交渉をめぐる報道は「拉致問題での北朝鮮バッシング」一色に染まり、「救う会」や「拉致議連」の意に沿わない言論・報道は封殺され、在日朝鮮人への暴力・脅迫事件が日常化する異常な事態が続いている。例会では、こうした報道について、人権と報道・連絡会員の中嶋啓明さん(共同通信記者)が具体的な報道事例をもとに、・あまりにも情緒的な拉致一辺倒報道・帰国被害者の一挙手一投足を追い回すプライバシー侵害・「洗脳」された被害者の「ふるさとでの変化」というメディアの思い込み押しつけ報道・事実の裏付け、検証を欠いた一方的報道・・などを中心に問題点を指摘した。報告を受けての討論では、「メディア・スクラム」とその規制をめぐる報道統制問題、『週刊金曜日』の被害者家族インタビューの評価、それに対する他メディアのバッシングについても参加者からさまざまな意見が出された。