★CDラベル解説
高木 信哉
本作は、ベテラン・ピアニスト、蒲池"ジョー"猛の初リーダー作品である。全曲が蒲池のオリジナルで構成されており、本格派ピアノが存分に味わえる。本件は、中村照夫がJAWSコンサートで来日した折、予てから準備していた旧友蒲池とのレコーディングであり、中村が旧知のTBM藤井武氏の協力を得てリリースされることとなったものだ。録音は、"日本のルディ・ヴァンゲルター"と呼ばれる元東芝EMIの名ミキサー行方洋一の手によるものだ。また、プロデュースは、中村照夫と行方洋一が共同で行なった。蒲池猛は、1941年東京生まれ。高校卒業後、東洋音楽院在学中に早くも頭角を現わし、プロ入りする。61年、20歳の蒲池は、中村照夫、小原哲次郎(ds)、唐木津介(ts)と組み、バンドをやっていた。以来、蒲池と中村は親友である。68年、自由ヶ丘の「ファイブ・スポット」に、鈴木勲グループのメンバーとして、1年間出演。69年、鈴木の渡米に伴い、「ファイブ・スポット」のハウス・ピアニストとして、1年間店を任される。70年、人気の稲垣次郎とソウルメディアに抜擢され、4年間活躍する。75年から10年間に渡り、原信夫とシャープス&フラッツのピアニストを務める。その間、サミー・デイビスJr、トニー・ベネット、アンディ・ウイリアムス、ナンシー・ウィルソン等、大物ボーカリストの歌伴を行い、好評を博した。83年には、モントルー・ジャズ・フェスティバル、クール・ジャズ・フェスティバルにも出演した。また、35歳から10年間、ニューヨークのピアニスト、レッド・リチャーズに師事する。当時、レッドは、毎年9月から12月に「アフター・シックス」に、出演していた。蒲池は、毎日仕事が終わると、店に通い、ジャズを学び彼を宿舎まで毎晩送っていった。わざわざニューヨークにも通った。二人の友情は、レッドが98年に85歳で他界するまで生涯続いた。85年より独立し、自己のバンド「グルーヴィン・ハイ」を率い、西麻布の「ミスティ」等を拠点として、活動している。
(サイドメン紹介)
中村照夫(produce、b)1942年東京神田土まれ。64年渡米。ロイ・ヘインズ(ds)のバンドで本格的プロデビュー。またスタンレー・タレンタイン(ts)のレギュラーで評判になる。73年初リーダー作『ユニコーン』をTBMより発表。「ライジング・サン」を結成し、『ライジング・サン』、『マンハッタン・スペシャル』をリリースし、全米トップ10入り。第24回南里文雄賞を受賞。中村は、もはや日本人ジャズメンの枠で括れない。「JAWS」でのエイズ対策への取り組みなど、まったく頭が下がる。昨年のJAWSコンサートも最高だった。最新作は、『レッド・シューズ』。また、近年写真にも才能を発揮し、本件のフロント(トライペッカ、84年)とバック(バッテリー・パーク、01年)の写真も中村の手によるものだ。
ヒューバート・ロウズ(fl,pic)1939年、テキサス生まれ。15歳の時、ジャズ・クルセイダースとの仕事で、プロデビュー。モンゴ・サンタマリア、セルシオ・メンデスやクインシー・ジョーンズとの活動で、一躍その名を世界に知らしめる。世界最高のフルート奏者として、不動の地位を占めている。
ビクター・ジョーンズ(ds)ニュージャージー生まれ。スタン・ゲッツ、デイジー・ガレスピー、チャガ・カーン、ミッシェル・ペトルチアー二他多くのミュージシャンと共演。ライジング・サン・バンドのレギュラーとして、中村と活動を共にしている。チャギー・カーター(perc)ニューヨーク生まれ。ダニー・ハザウェイ、パナイ・ラベル、ロイ・エアーズ他多くのミュージシャンと共演。ライジング・サン・バンドのレギュラーは15年になる。峰厚介(ts,SS)1944年、東京生まれ。63年、プロデビュー。70年、物リーダー作『MINE』をTBMより発表。78年、「ネイティブ・サン」を結成し、大人気となる。現在は、自己のグループと「フォー・サウンズ」で活躍中。
(曲目紹介)
1.『スプレッド』シンプルで親しみやすいテーマの曲。ヒューバート・ロウズのフルートが美しくて、素晴らしい。
2.『ダンディーズ・サンバ』ダディというよりは、「お父っあんが踊りだすようなイメージ」で書いた。「マンテカ」を思わせる出だしから、楽しく、粋なピアノが聞ける。後半のテーマ以降ヒューバートは、ピッコロを吹いているが、まさに心が震える。
3.『オットット・ブルース』「エノケン」こと榎本健一が、酔っぱらって、「オットット」と歩いているイメージで作ったファンキーでおもしろい曲だ。エノケンは、即興、一瞬の間を外さない芸でその動きのリズムは「ジャズ」そのものと言われた。
4.『オン・ザ・シルク・ロード』まるで映画音楽のような美しいメロディーの曲。砂漠をラクダに乗って、旅する人のイメージが浮かんでくる。ここで蒲池は、フェンダー・ローズを効果的に弾いている。チャギーのパーカッションが良い感じで、映える。
5.『アイ・ミス・ユー・ソー・マッチ』アルバム唯一のトリオ演奏。美しいワルツである。ワン・テイクで録音された。蒲池のメロディー作りは実にきれいだ。中村のべ一スもピアノの隙間を埋め、哀愁があり、その響きがグッとくる。ビクターの燃え上げ方もうまい。
6.『ディア・アミーゴ』98年11月に47歳の若さで、急逝したギタリスト、川上''アミーゴ"和彦に捧げた明るい曲。蒲池とアミーゴは、シャープス&フラッツにいた10年間、ずっと一緒だった。家も近所で、とても仲が良かったのだ。
7.『ジャスト・ハンク・アラウンド』「ちょっとぶらぶらしてくるよ」という意味の大ファンキー・ナンバーだ。この曲は、タップ・ダンサーの富田かおるのVTR『タップ・ダンス・レボリューション・べ一シック』のために書き下ろした曲。峰のテナーは、豪快だ。ビクターのドラムもいい。
8.『マンハッタン・セレナーデ -かおる-』大変差しいバラードで、夫人の松井かおる(VO)に、捧げたナンバー。ヒューバートのたまらなく美しいフルートのおかげで、曲のイメージが広がりすごく心地良い。
9.『プリテイ・グッド』「元気かい?」と聞かれ、「いいよ」と答える感じだ。峰は器用で、7.と一転して、ソフトに吹いている。
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