【山口泉の最新刊】

 * 一部に、まだアップロードの間に合わない図版があります。



神 聖 家 族
Sankta Familio

(2003年2月 河出書房新社)………………長篇小説


【帯文から】


美しすぎる「観念小説」か。
「恋愛小説」の極北か。

 人間が総否定されるハイパー資本主義下の日本で《あたらしい いえ》を作ろうと夢見た人びとの運命は……。「血縁」を超えた、人と人との結びつきの夢とは? 17年の歳月をかけて熟成、いま封印を解かれる、言葉と思考のエロスに満ちた20世紀末の魂の寓話。


【宣伝文から】

 「その政治活動により《重力の帝国》の獄にある《禁作家》酉埜森夫の未発表作品」と、付随する「異稿」および「校註」という方法を駆使した長篇小説。
 1980年代半ば、バブル経済の頂点の日本の辺境に《新しい家》を作ろうと企てた美貌の“千里眼つかい”水藤セツと、彼女とともに生きようと夢見た人びとの運命は……。
人間が総否定されるハイパー資本主義の下での、「血縁」を超えた、人と人との結びつきの夢とは? 
 17年の歳月をかけて熟成、いま封印を解かれる、 言葉と思考のエロスに満ちた20世紀末の魂の寓話bb。


【作品の構造】

 作品の全体は、刊行委員会により上梓された《禁作家》酉埜森夫の未発表小説『神聖家族、あるいは千里眼の研究』と、その完成形にいたるまでの若干の異稿という形式を持つ。
 酉埜森夫は、その著作活動を弾圧され、大日本拡大文学報国会により《禁作家》とされた作家である。2001年夏、酉埜森夫は、現在の世界の富の大半を蓄積した“現代のローマ帝国”bb《重力の帝国》の核兵器使用の危機に抗議するため、その首都へと赴き、そこで「第一級の外国人国事犯」として、《重力の帝国》の最新鋭の超高度電子監視システムに閉ざされた重罪刑務所に現在もなお勾留されている。
 酉埜から、星(ホトホリ)県星(ホトホリ)市郊外の旧家の漬物蔵にしまわれた段ボール函に収められた手書き草稿やフロッピィ、電子機器類の所在を告げられていた盟友の女性の協力を得、すでに1年11箇月の長きにわたって音信不通の状態にある、かの《禁作家》の未発表長篇小説『神聖家族(あるいは『千里眼の研究』)』が、いま、その未定稿を含めて世に問われることとなる……。


【ものがたり(緒言+序章+本篇=第1章〜第13章+終章のうち……)

緒 言bbbb校本『神聖家族』刊行委員会による

 上記の経緯を説明した前言。入れ子構造の粋を尽くしたこの小説の外形が説明されるとともに、本作『神聖家族、あるいは千里眼の研究』が、とくにその第7章以降、「観念小説の極北」ともいうべき晦渋なテキストであることが「確信犯」的に説明される。
 次に、作品全体の冒頭では作者(山口泉)により原文のまま引用されていた魯迅の散文詩「影的告別」の竹内好訳が、《禁作家》酉埜森夫により、エピグラフとして引かれる。

序 章bbbb青空が脳のなかに滑りおちてくる瞬間

 この物語の話者・十滝深冬(とたきみふゆ/31歳・女性)による、散文詩風の夢想的な内的独白。十滝の友人で分子生物学者である青年・湖鯛裕範との対話の部分を持つ。
 ここで、やがてこの物語のヒロインとして登場する「超能力者」「“千里眼”使い」である水藤セツとの運命的な出会いが暗示される。また、この物語で重要な意味を持つ疾病・緑色2号(天使病)の存在が提示される。

第1章bbbb発端 発赤した、低い雲の大気の宙空に浮かぶ、小さな堅い胡桃のなかで

 十滝深冬はフリーライターとして、現在、西新宿にあるいかがわしげな出版社ロン・エンタープライズの担当者・江口秋穂から「超能力」関連の企画を依頼されている。胡散臭い超能力青年・春海天人との支離滅裂で滑稽なやりとりの後、十滝は江口から、北関東の一都市に住む「超能力者」「“千里眼”使い」bb水藤セツへの取材を要請される。

第2章bbbb距離および時間の函数としての「旅」について

 水藤セツへの取材に赴く十滝深冬の列車の旅。関東平野を北上する同じ車輌には、1980年代中葉、バブル期の頂点の日本の諸状況を凝集したような珍奇な人びとが乗り合わせている。仕事仲間とのやりとりの階層も含め、「現代に悲劇は可能か」という命題を隠れたモチーフとしたこの物語が、どのような社会状況のなかで展開されてゆくかが、ここで提示される。

第3章bbbb物語は、なぜ、つねに荒寥たる風土から生成せねばならないか? 

 水藤セツの住むという、北関東の外れ、鶴杉(つるすぎ)県西虻見(あぶみ)郡砂姫(すなひめ)町に到着した十滝深冬。ここでも前章に引き続いて、時代状況が描写されるとともに、物語の進む地方都市の風土が提示される。だがそれは、日本の全状況の縮図にほかならない。

第4章bbbb五月の薔薇

 ようやく十滝深冬がたどりついた水藤セツとの待ち合わせ場所は、郊外のさびれた焼肉店だった。スギナとダイスケという幼い子どもたち二人が店番をするそこで待つうち、ついに会見すべき「超能力者」水藤セツ(みずふじせつ/29歳・女性)は、鈍(にび)色の雲が低く垂れこめた空の下、広大な花畑の連なる向こうに、その姿を現わす。その美貌、とりわけ瞳にこもった力は、十滝深冬を圧倒せずにはおかなかった。
 水藤セツは二人の女性を同行させており、その一人、在日朝鮮人一世の“ばっちゃん”こと咸鍾蘭(ハンヂォンラン)の体調の不良で、挨拶もそこそこに一行は家に入ることになる。もう一人、イゾリータ共和国からの出稼ぎ女性で超過滞在者のマルガリータの姿も、このとき初めて十滝深冬は目にする…………。


 ほかに、

ある盲目の画家についての、ごく簡略な覚書(長谷川沼田居論ノート)

この物語と作者自身が訣別するにあたっての、極めて私的な覚書

 を併録。
 前者は、本書の装幀にその作品を使用した栃木県の画家・長谷川沼田居(しょうでんきょ/1905〜83年)についてのエッセイ、後者は「実際に起稿されてからの歳月についてのみ言っても、三十代になったばかりのころから現在まで、十七年ほどにわたり(略)何かしら関係が続いていた」「さらに構想の段階までをも含めるなら、二十代前半から、おそらく四半世紀ちかく、私のこれまで生きてきた時間の半分以上を、(略)占め続けてきた」この小説『神聖家族』(旧題『千里眼の研究』)との訣別のための「あとがき」である。


 四六判・320ページ・上製・カバー装
 定価2500円[税別]
 ISBN 4-309-01527-1
 装画=長谷川沼田居/装幀=高麗隆彦
 図版提供/長谷川沼田居美術館+足利市立美術館


【作者から読者へ】


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【河出書房新社・山口泉の作品】
   『世の終わりのための五重奏』('87) 品切れ
   『悲惨鑑賞団』('94) 定価 1700円(税別)
   『オーロラ交響曲の冬』('97) 定価 1000円(税別)
   『ホテル・アウシュヴィッツ』('98) 定価 1800円(税別)
   『永遠の春』('00) 定価 2000円(税別)


※ 河出書房新社のウェブサイト(http://www.kawade.co.jp/)からも御注文になれます。
※ 河出書房新社 電話/03-3404-1201


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