今年(2016年)8月5日~6日は広島にいました。被爆者の語り部の佐伯敏子さんを佐伯さんの語りを朗読劇として演じる大阪の「伝の会」(代表・寺西郁雄さん)のみなさんと一緒に佐伯さんが入所されている老人健康施設を訪ねました。
佐伯さんには1981年に富田小学校の広島の修学旅行で大変お世話になりました。被爆死した方のひとりひとりの姿を今そこに生きているかのように語られる佐伯さんの語りに深い感銘を受けました。
広島の知人である児童文学者の中澤晶子さんに佐伯さんの消息を調べてもらい、一昨年3月に28年ぶりに佐伯さんに再会しました。一昨年お会いした時には、佐伯さんは車イスに乗ることができましたが、今はベットに寝たままで、すでに両眼は見えません。それでもご自身の被爆体験を語り続けられている。その一念には感服させられました。
「死者の言葉を聞きとらねばならないですね」との朗読劇「十三人の死をみつめて」で佐伯さん役の三原和枝さんの問いかけに、佐伯さんは「私は死者の言葉を聞き取りたいと願ってきたけれど、私のいたらなさゆえに、今まで一度も死者の言葉を聞けていません。」といわれた。その時、私は虚を突かれた感じがしました。私はしばらくその言葉の意味を考えていました。被爆死した人の思いを長年考え続けてこられた佐伯さんであってこそ、生者が死者の思いをくみ取ることの不可能性を言われているのではないかとまずは思いました。
また、違ったことも浮かびました。被爆した近親者を探しつづけられた71年前の被爆当時の思いに、佐伯さんは戻られているのかも知れないとも思いました。どちらもありうることで、ほんとうはどうか分からないという思いでした。来年も8月に佐伯さんを訪ねてみようと思います。
佐伯さんの最近の様子については、「産経新聞」の8月6日朝刊に詳しい。
「広島の叫び今に伝える 『死者の言葉を聞きに来て』 原爆供養塔の“守り人”佐伯敏子さん」