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白井聡の著作を読む

松岡 勲


 

 



1)『永続敗戦論/戦後日本の核心』(白井聡)



 白井聡著『永続敗戦論/戦後日本の核心』(太田出版)を読んだ。この本は「週間文春」の池澤夏樹さんの書評で知った。読んでみて、大変刺激的な本だった。「永続敗戦」というタームは、戦後日本のレジームの核心的本質であり、「敗戦の否認」を意味する。国内及びアジアに対しては敗北を否認することによって「神州不滅」の神話を維持しながら、自らを容認し支えてくれる米国に対しては盲従を続ける。敗北を否認するがゆえに敗北が際限なく続く、それが「永続敗戦」という概念の指し示す構造である。今日、この構造が明らかに破綻に瀕している。(本の帯より)特に本の中の「対外関係の諸問題」についての分析(尖閣、竹島、千島、北朝鮮関係等)がおもしろかった。30歳代後半の若き研究者のようだ。一度、じっくり話を聞く機会があるといいなと思った。

(2013・7・22) 

2)『「戦後」の墓碑銘』(白井聡)



 白井聡著『「戦後」の墓碑銘』(金曜日)を読んだ。白井さんには今年2月28日に友人たちとやっている会(不連続講座「リゾナンス」)で講演いただき、「戦後」を透徹した目でとらえる「知性」を感じ、感激した。この本は『永続敗戦論』出版後に雑誌等に書かれた文章が収められていて、大変興味深い本だった。本の内容は、「戦後」の「墓碑銘」のために書かれた文章、独特の仕方で「永続敗戦レジーム」の時代を終わらせつつある第二次安倍政権を分析した論考、戦後をいかにして乗りこえるべきか考えた幾人かの知識人(石橋湛山、江藤淳、野坂昭如)についての文章、政治の現状を分析しつつ、いま何をなすべきかについて著者の見解を示した章から構成されている。(「序に代えて」)一番最新の書き下ろしの「抵抗だけが新たな社会を創出する」で著書は、「私は『永続敗戦論』において、同書の目標を「『戦後』を認識において終わらせる」ことであると書いた。いま、政治情勢の急迫が告げているのは、『戦後』を実践においていかに終わらせるか、という課題にほかならない。(中略)安倍政権は、まさしく『永続敗戦レジーム』の純化・徹底化、その最後の砦として成立・活動してきた。ゆえにその打倒は、永続敗戦レジームの打倒、永続敗戦にほかならなかった『戦後』に始末をつけることとして企てられなければならない。それは(中略)あらゆる領域での一種の民主主義革命であらざるを得ない。」さらにこう言う。「追い詰められているのは、われらの方ではない。奴らの方が追い詰められているのである。(中略)すでに勝利は確定している。真の問題はその勝利からどれだけ多くのものを引き出せるのか、ということにほかならない。」引用が長くなったが、実に読ませる本だ!

(2015・10・27) 



3)『戦後政治を終わらせる/永続敗戦の、その先へ』(白井聡)



 白井聡著『戦後政治を終わらせる/永続敗戦の、その先へ』(NHK出版新書)を読んだ。この本は以下のように論述され、『永続敗戦論』の新たな展開となっている。最初に敗戦の否認は何をもたらしたかと問題設定をし、五五年体制の実態とその崩壊後の世政治体制構築の失敗(第1章)、国内的的文脈における対米従属(第2章)と日米関係における対米従属の諸相(第3章)そして80年代以降の新自由主義の席捲が日本の政治に与えた影響(第4章)、ポスト五五年体制を本当の意味で構築するための方向性を提起する。特に第2章、第3章、第4章が力が入っていて、読み応えがあり、おもしろかった。

(2016・5・20)

  4)『日本劣化論』(白井聡×笠井潔)


 白井聡・笠井潔著『日本劣化論』(ちくま新書)を非常に興味深く読んだ。白井聡さんについては『永続敗戦論』(太田出版)に注目していて、この対談本を読んだ。この本は、戦後史から見える日本の弱点を日本の保守の劣化、アメリカと天皇制との関係性、アジアで孤立する日本、左右の劣化の原因、反知性主義批判、沖縄を中心とする独立論の可能性等と縦横に展開される。私が強く感心を持ったのは、安倍政権と日本の保守の劣化(「戦後レジーム」を脱却するといいながら、その実「永続敗戦」と白井さんが呼ぶ「戦後レジーム」を強化していること)である。また、アメリカ占領軍と戦後の天皇制の関係についての討論で、「戦後天皇制は、アメリカによる属国支配の有力な政治装置」であるとの白井さんの分析には強いを興味を覚えた。さらに戦後におけるアジアのなかの日本の位置についての討論も鋭かった。ただ現天皇夫妻の肯定的評価には疑問を感じた。対論の相手の笠井氏の考えについて、具体的には近代戦と国家論(特に戦後のアメリカの評価)と「国家民営化論」に違和感を感じた。ただ笠井氏の本は読んでいないので、『8・15と3・11』(NHK新書)から読んでみようと思った。春に白井聡・内田樹さんの対論を聞きに行ったが、その時徳間書店よりおふたりの対談本が出ると聞いた。これも楽しみだ。

(2014・7・30)

5)『日本戦後史論』(白井聡×内田樹)


 白井聡さんと内田樹さんの対論『日本戦後史論』(徳間書店)を読んだ。白井聡さんの『永続敗戦論』が熱いまなざしで注目されている。先日も私たちが高槻市(大阪府)で行った講演会は150名を越え、盛況だった。休憩時間に回収した質問用紙の数の多かったことに驚いた。講演会の翌日にこの本を入手し読み終わった。内田さんという最高の相手を得て、実におもしろい対論だった。敗戦の否認とアメリカへの従属を柱とする『永続敗戦論』を、おふたりは「なぜ今戦後史を見直すべきなのか」「純化していく永続敗戦レジーム」「否認の呪縛」「日本人の中にある自滅衝動」と展開されていくのだが、その内容は戦後史を総括し、現在の政権の有り様を深いところから照射する。(戦後の対米従属と天皇制に関わる対論の部分は、昨年私は聴衆として参加していたのだが。)内田さんは白井さんの魅力を次のように「あとがき」で書く。「白井さんは若い論客の中で、僕が久しぶりに出会った『条理を尽くす書き手』でした。それは若者らしい情熱の温度の高さもかかわっているのでしょうけれど、基本にあるのはこの社会を共に生きている同胞たちの知性と倫理性に対する信頼だと僕は思いました。(中略)それは彼がレーニン研究者として出発したことと関係があるのかも知れません。革命家にとって最も重要な資質は『革命的大衆は必ず立ち上がる』という同胞たちの知性と倫理性に対する絶対的な信頼ですから。」白井さんの『未完 レーニン』(講談社)を読んで見ようと思う。
(2015・3・3)

6)『偽りの戦後日本』(白井聡×カレル・ヴァン・ウォルフレン)


『永続戦後論』の白井聡さんとオランダ生まれのジャーナリストで日本通のカレル・ヴァン・ウォルフレンさんとの対談『偽りの戦後日本』(KADOKAWA)を読んだ。白井さんの対談本は、内田樹さんとの対談『日本戦後史論』(徳間書店)、笠井潔さんとの対談本『日本劣化論』(ちくま新書)があるが、日本の戦後政治に深く関わった外国人のジャーナリストのカレル・ヴァン・ウォルフレンさんとの対談なので、非常に興味深い展開だった。討論は、日本はふたたび戦争に踏み出すのか、敗戦国の空虚な70年、右傾化する日本人、新自由主義が支配する世界、終わらない「敗戦」を乗り越えるためにと続くのだが、最後の所で述べられるウォルフレンさんの「絶望感」には強い印象を受けた。ウォルフレンさんは、50年以上にわたって日本に関わり、日本の政治システムについて問題を指摘されてきたが、その政治改革は潰えてしまった。「その後、民主党政権は崩壊し、自民党に政権は戻りました。そして、誕生した安倍政権によって、私が想像したよりもはるかに早いスピードで物事が進んでいます。特定秘密保護法の制定や集団自衛権行使の容認、さらには原発の再稼働・・・。近いうちに、安倍さんは憲法改正にも着手していくでしょう。(中略)そんな現状を目の当たりにすると、深い敗北感、いや絶望的な思いにとらわれてしまいます。」この対談には、日本の政治の「劣化」を外国人の目で見続けてこられたウォルフレンさんの「警鐘」がこめられている。

(2015・5・4) 

7)『属国民主主義論』(白井聡×内田樹)


 白井聡と内田樹との対談『属国民主主義論/この支配からいつ卒業できるのか』(東洋経済経済新社)を読んだ。前回の対談『日本戦後史論』(徳間書店)では「日本戦後史」がテーマで、白井の「永続敗戦論」が討論の中心だったが、今回は「現在」をどうとられとらえるのか、そして「現在」をどう乗り越えるのかが討論の重点であり、(「はじめに」白井)大変興味深かった。討論の展開は、アメリカの属国化する日本の民主主義、帝国化する国民国家と霊性、コストパホーマンス化する民主主義と消費社会、進行する日本社会の幼稚化、劣化する日本への処方箋と続く。「白井さんと話していると、『白井さん、一九六〇年代に生きていなかった?』と聞きたくなることがあります。」「読者のみなさんどうぞそういう『夕陽の荒野をとぼとぼと歩いて行く青年と老人二人の落ち武者』の姿を想像しながら、この対談を読んでみてください。」(「おわりに」白井)そういった「おもしろみ」のある本だった。

(2016・7・29) 

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