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内田洋子のイタリア関係の本を読む



 

 

1)『ミラノの太陽、シチリアの月』(内田洋子)  

 内田洋子著『ミラノの太陽、シチリアの月』(小学館)を読んだ。イタリアを舞台にした10本の短編小説集であり、そこに造形される彫りの深いイタリア人の姿に目眩く感がした。いずれの短編も北イタリアのミラノに住む日本人女性の主人公がさまざまなイタリア人と出会い、北イタリアと南イタリアの風土と気質のちがいに驚くと共に深い共感をもつ話だ。とくに私が好きな短編は、南イタリアの貧困とそこで育まれた強靱な人間性を描いたもので、珠玉の短編群だと思った。たとえば。南イタリア出身で北イタリアで鉄道員として生きた「鉄道員オズワルド」、南から訪ねてくる友人と90歳になるその父親を持てなす躍動感溢れる大宴会を描いた「祝宴は田舎で」、これも南イタリア出身の老船乗りの語りの「海の狼」、シチリアの青年と母がシチリア出身のミラノに住む女性の結婚を華やかに描いた「シチリアの月と花嫁」だった。また、シチリアの9月は「まだ真夏のような陽気」だそうで、「日差しは強烈で目を開けていられない」そうだ。今年の9月にはぜひシチリアに行きたいので、気をつけておこうと思った。

2)『ジーノの家 イタリア10景』(内田洋子)

 内田洋子著『ジーノの家 イタリア10景』(文藝春秋社)を読んだ。この本は日本エッセイスト・クラブ賞、講談社エッセイ賞を同時受賞したものだが、読んでみて、決してエッセイでなく、小説そのものだった。2冊の内田洋子の本を読んで、彼女の小説が大変好きなになった。本の表題になっている「ジーノの家」は、場所はミラノから近いリグリア州インベリアで、売り家を探して、出会った(両親がイタリア半島南部最果ての地のカラブリア出身である)家主ジーノと弟の悲恋の物語である。「キリストはエボリに留まりぬ」という映画にもなった小説があるが、カラブリアはそのエボリよりもさらに南にあり、キリストでさえ進もうとしなかった場所だ。そこを出自とする「ジーノの家」の物語には涙せずにはいられなかった。10編の小説のなかで、そのほかに気に入ったのは、「黒いミラノ」「リグリアで北斎に会う」「サボテンに恋して」「初めてで最後のコーヒー」「船との別れ」だった。(タイトルを見て、読みたくなりませんか。)内田洋子の小説で印象深いのはイタリア南部にからむ物語だ。『ジーノの家 イタリア10景』を読んで、今年はイタリア南部に行きたいと思っているが、イタリア南部を軽く考えたらいけないなと思った。ナポリを中心にしたイタリア南部と、シチリアとはまた別にして、最低2回ぐらいに分けて旅行をしないといけないだろうと思った。






3)『破産しない国イタリア』(内田洋子)『イタリア人の働き方』(内田洋子、シルヴィオ・ピエールサンディ)『ジャーナリズムとしてのパパラッチ』(内田洋子)

 内田洋子の新書本、文庫本を読もうとして、チェックしたが、ほぼ2000年代の前半までに発刊された本は絶版か、品切れだった。それでアマゾンの古本を注文して3冊入手し、3日で3冊ともあっという間に読んだ。

内田洋子著『破産しない国イタリア』(1999年、平凡社新書)・・・この本はイタリアでユーロが導入される直前の状況が書かれている。家族・家庭、学校・教育、住宅、医療・病院、犯罪、車社会、コネと推挙、不法入国・移民、母親崇拝主義、狡猾(法令無視)、性、定年・年金、食生活にわたってイタリア社会の実態がよく分かる。それぞれが現実にあった話もとに小説風に書かれ、それぞれの項目で現状が要領よくまとめられていて、興味深い。最近、ローマを旅行した知人の話では、バスの乗客が運賃を払わず下車していくことに驚いたと聞き、国家債務危機の現状を反映して、人々の心が荒れているのかなと思った。しかしそうではなかった。「狡猾」の項では昔からそうだったと書いてあったので、あらためてイタリア社会が日本の<常識>では計れないものと分かった。(ちちなみに、バスや市電、地下鉄に切符を買わずに乗る客のために、各交通機関が受ける損害は千七百億リラ(当時)だそうだ。)内田さんに現在のイタリア社会をこのようなオールラウンドの形で書いてもらえないかなと思った。

内田洋子、シルヴィオ・ピエールサンディ著『イタリア人の働き方/国民全員が社長の国』(2004年、光文社社新書)・・・内田洋子は「イタリアで<奇跡>が起こるのは、外部には見えない無数の強固な屋台骨があって、それが底から支えているからである。その屋台骨とは、零細企業群のことである。」という。(「あとがき」)人口5700万人の国で法人登録が2000万社、国民全員が社長の国がイタリアなのである。この本の書かれた時期はユーロ導入後である。登場人物は、サービスの達人たち(イタリア一の靴磨き、ヴェネツィアの水上タクシー運転手、本人に代わり買い物をすべて決めてくれるパーソナル・ショッパー)、手仕事の達人たち(鉄打ち名人、絵画修復士、自転車作り名人)、食の達人たち(生ハム工場主、ラガー・ビールメーカー)、プロジェクト・リーダー(ファイアット社の女性エンジニア)、ユニークな経営者(カシミア製品メーカー、玩具メーカー、板金プレス業界のリーダー、スポーツ用ネットメーカー)、イタリアならではの職業(悪魔払いの第一人者。世界一のパパラッツイ)だ。大概は庶民に手が届かない高級品だが、イタリア社会の底力が感じられ、おもしろかった。

内田洋子著『ジャーナリズムとしてのパパラッチ/イタリア人の正義感』(2005年、光文社新書)・・・パパラッチという呼び名の由来には諸説あって、よく分からないそうだが、最初にパパラッチを登場させたのはフェリーニの映画「甘い生活」であったとのことだ。日本ではゴシップだけを追いかけるハイエナカメラマンというイメージの強いパパラッチの報道姿勢と人物像を紹介した大変おもしろいドキュメントだった。<キング>の愛称で呼ばれるパパラッチはじめ実際に活躍する4名のパパラッチの人物像は大変魅力的だ。その他にパパラッチに関わる3名の編集者へのインタビューで構成されていて、イタリアの報道業界の様子がよく分かる。「パパラッチの仕事を、ゴシップばかり、と馬鹿にできない。彼らの追うネタは、世の中を形づくるモザイクなのである。好奇心あっての日常、人生ではないか。(「まえがきに代えて」)内田さんはイタリアの通信社の代表で、主にヨーロッパの報道機関、記者・カメラマンをネットワーク化して、ニュース・写真を配信する仕事をされている。それだからこそできた本だと思った。 

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