陸上自衛隊守山駐屯地 第10師団廣瀬師団長及び隊員の皆様へ
10月以来繰り返しの申し入れを受け入れてくださり、感謝しております。
この正門前に顔をさらして立つことは、無力な市民である私たちにとってはかなりの勇気を必要とします。廣瀬師団長以下隊員の皆様の立場からすれば、気楽な立場の、気楽な物言いと、私たちが見られてしまうのも当然のことかもしれません。
こんなことを繰り返して本当に役に立つのかという思いがないわけではありません。けれども、私たちは戦後何十年間もかけて平和や人権について訴え続けた人々の意志を受け継ぎ、こういうときに自分たちが動かなくて誰が動くのかという必死の思いで、本日も正門に立つことにしました。私たちの目の前で、これから隊員の皆様の生命や人権が軽く扱われていくことを黙って見過ごすことはできません。これを見過ごせば、やがては市民・県民・国民の命や人権が軽視されることにつながると考えるからです。
第五次派遣に向けて、その訓練と同時に心の準備もせねばならない廣瀬師団長や隊員の皆様に、派遣絶対反対の立場から申し入れをすることは大変心苦しいことですが、取り返しのつかない事態になってからでは遅いのです。そうなったときに、誰がどのように責任を取るのでしょうか。私たちに十分な説明もないまま、多くの懸案を積み残したままで第五次派遣が強行される前に、皆様にぎりぎりの立場でお考えいただきたく、申し入れに参りました。
派遣延長一年が閣議決定された12月9日前後に、外務省や防衛庁内で次のような会話が各所で交わされたということです。「どこまで持つんだ」「一桁なら持ちそうだ」自民党・公明党の幹事長をサマワ現地へ送り込み、帰ってきて安全宣言をさせたその裏で、このような会話が公然となされているのです。これは先月24日の防衛庁幹部の「迫撃砲を数発撃たれたくらいで危険だとは判断しない」という発言に対応するものだと考えます。自衛隊員一人一人の命を道具としか見ていない者の発言としか言いようがありません。
つい一昨日、12月24日の中日新聞に航空自衛隊小牧基地の隊員がクウェートから家族に電話をした言葉が載りました。「俺たちは政治の道具、コマかもしれない。でも、任務に誇りを持っていることは、お前たち家族だけでも忘れないでくれ」と。そして、一方的に電話は切れたそうです。
12月16日、19日と、小牧基地からクウェートに向けて第五次派遣隊の空自前期部隊が飛び立ちました。送る方も送られる方も余裕のある笑顔を見せていましたが、秘められた内心を思うとたまらない気持ちになります。笑顔でいられるようなイラク情勢ではないからです。アメリカのブッシュが勝手に始めたイラクへの攻撃。それを「イラク派兵反対60%」の世論調査に反して、派遣をやめようとしない小泉首相。ご承知でしょうが、武装勢力に拘束されたフランス人が解放されたのは、フランスがイラク攻撃に反対していたからです。それでもブッシュと小泉の二人が前線に立つ自衛隊員や家族の皆様を苦しめている構造は何ら変わらないどころか、来年一月のイラク選挙を前にして、さらに厳しい情勢を招いています。その中へ派遣されるのが皆様、陸自第五次派遣隊です。
私たちは派遣に断固として反対します。その申し入れの第一として、廣瀬師団長に以下のお願いを致します。部下に対し、政府に対し、国民に対し、次の絶対安全宣言をしてください。
「部下の命を預かる第10師団長の責務として、第五次派遣隊からは一人の犠牲者も出さない。全員が無事に帰って来ることを最優先の責務とし、身を以ってその責務の完遂に務める」と。命令への服従が第一だということはわかります。しかし、全ての命令が法律上、憲法に規定されている以上、憲法第99条「憲法尊重擁護の義務」のほうが上位にあります。日本国憲法ある限り、全自衛隊も法治国家の一組織に過ぎません。どの組織も人の命に関わる命令を出せば、憲法違反となります。日本は今、どこの国からも侵略されていません。その脅威もありません。にもかかわらず、なぜ自衛隊員やご家族が命にかかわる脅威にさらされねばならないのでしょうか。明らかに戦時下への派遣そのものが憲法違反なのです。この矛盾をなんとか現実的に解決できるのは、廣瀬師団長しかおりません。絶対安全宣言を出すことが、仮に部隊が出発して、サマワの情勢が1月30日以降ぎりぎりの厳しさになった場合でも、クウェートで部隊をストップさせるという勇気ある選択につながります。
サマワのシーア派サドル派のマハティ軍団は、12月16日の集会とデモの宣言で、「選挙が終わり次第、日本の自衛隊に対し行動を起こす」と宣言しています。マハティ軍団は5人や6人のゲリラではなく、組織された武装勢力です。12月21日、モスルのアメリカ軍基地に対する攻撃が、サマワでは起きないという保証など全くないのです。こうした現実を直視してください。
小泉総理を除くすべての日本国民は、この絶対安全宣言を支持します。せざるを得ません。もちろん、全自衛隊員のご家族も絶大な支持をするはずです。私たちは派遣自体に断固反対ですから立場は違いますが、最大限の支持をします。するか、しないか。廣瀬師団長の決断にかかっています。
申し入れの第二は、8月29日まで航空自衛隊小牧基地司令をなさっておられた溝口一佐の残された以下の言葉をどのように受け止めるかに関わります。
「平和時における活動が海外派遣の大原則であり、米国が勝手に始めた戦争に日本はどこまでつきあうのか」・・・この問いは今も価値を失っておりません。それどころか、12月14日に派遣延長が閣議決定されましたが、今サマワにいる第四次派遣隊にとっても、これから派遣される第五次隊にとっても、また全自衛隊員にとっても重要な問いかけとして向き合わねばならないと思います。部下の生命を預かる責任者として、政府に対し、いったいどこまでアメリカに付き合うのか、撤退の基準は何かということをきちんと質問し、一人の犠牲者も出さない前に撤退すべきであると意見具申すべきです。そして、今後のイラク情勢を考えたとき、部下の生命を守る責任が果たせないから派遣を中止して欲しいと、強く意見具申をしてください。それが溝口元基地司令の問いに答える同僚としての道であると、私たちは考えます。
2月5日が刻一刻と近づいています。
おそらくその前後に皆様はクウェートへ出発されるのでしょうが、私たちは何としても食い止めたい、派遣をストップさせたいという思いが高まっています。何かあってからでは遅いからです。万一のことがあるかもしれない危険は高くなる一方だからです。抗議行動は、小泉首相と防衛庁に対し行ってきましたし、これからも行います。皆様には憲法第16条の請願権に基づき、「イラクへ行かないでください」というお願いの行動を繰り返し行います。行かないでくださいという思いの市民や県民がこの正門前に来ることは、第10師団の皆様にとって大きなプラスになると信じます。そのときは、どうか声をかけてください。厳冬の一月、この正門前に立ち続けることは勇気も忍耐も必要です。けれども、私たちは皆様の命を大事にしたいのです。
人の命を軽んじる小泉政府に激しい怒りを覚えるのです。どうか私たちの気持ちをご理解ください。願いが聞き届けられるまで何度でも参ります。
今日も申し入れを受けてくださってありがとうございました。参加者一同、心より感謝しております。
以 上
2004年12月25日
有事法制反対ピースアクション
名古屋市昭和区白金1−13−10
TEL 052−881−3573