陸上自衛隊第10師団長 廣 瀬 清 一 様
先月10月30日、申し入れ書を受け取ってくださってありがとうございました。
あれから約一ヶ月、イラクはさらに深刻な状態になり、それとは反対に小泉首相以下日本政府は、イラクの人々や自衛官の生命にかかわる問題であるにもかかわらず、なんら配慮のない発言を繰り返しています。ブッシュ政権のみ肯定できる発言内容です。「第五次イラク派遣の中止」という私たちの切実な願いは、本来小泉首相と大野防衛庁長官に対してこそ強く求めねばならないことですが、12月14日の期限切れを前にして、また残念にも派遣期間が延長された場合、最も過酷な任務を押し付けられてしまう10師団の皆様のことを考えるとき、なんとしても部下の命を預かる廣瀬師団長に、一度立ち止まって、司令官として一人一人の隊員の皆様の生命と幸福について再度考えていただくことが何よりも重要と思い、ご迷惑をかえりみず二度目の申し入れに参りました。
私たちは次のように考えます。
自衛官も制服を脱げば、私たちと同じ市民であり、県民であること。その生命と人権は、私たちと同じように守られねばならないこと。自衛隊法によって「身を以って責務の完遂に努める」ことが求められているとしても、命を投げ出していいという法律はどこにもないこと。たとえ、日本が外交問題で急迫する事態になったとしても、それを外交努力によって解決するのが政治家や外交官の責務であり、自衛官の命を犠牲にしてもいいという発想はどの法律にもないこと。またその発想からの発言や命令が、公務員から出されるならば、それは公務員の安全配慮義務違反になってしまうこと。そして、何よりも大切なことは、制服時であろうとも、本人の命に関わることについては、最大限の言論の自由が保証され、何らその発言によって差別的処遇があってはならないこと。「お国のためには自衛官の多少の犠牲はやむを得ない」と、市民や県民がちょっとでも考えるならば、その言葉はいずれ私たち県民・市民に多大な犠牲を伴ってはねかえってくること。私たちは、日本国憲法下の常識として、以上のように考えてきました。
自衛隊発足以来50年間、自衛隊員の皆様はただの一人も殺したり殺されたりしていません。『鉄道員(ぽっぽや)』という小説で有名な自衛隊出身の直木賞作家・浅田次郎さんは、東京・市谷の陸上自衛隊第一師団第32連隊におられた方ですが、繰り返し発言されておられます。「長い間、半世紀にわたって敵に向けて引き金を引いたことのない自衛隊に誇りを持っています」と。
しかし、小泉首相は、アメリカ軍のファルージャ住民への攻撃を支持し、「成功させねばならない」とまで平然と言いきりました。人道支援と言いながら、片方で人殺しを支持しているのです。さらに、防衛庁・大古和雄運用局長は、11月24日「迫撃砲を数十発撃たれれば別だが、数発で危険だとは判断しない」と、自民党本部で言いました。これは宿営地内の隊員たちに数発当たってもいいと言っているようなものです。自衛隊員が傷つき、死ぬかもしれないのにまるで他人事のように考えているとしか思えません。日本政府の発言はその日のうちにイラクに伝わります。武装勢力に対する挑発発言の連続です。
サマワの自衛隊員の皆様は、そのたびにより強い危険にさらされ続けます。隊員たちの生命をどう考えているのでしょうか。安全配慮など、どこにもありません。12月3日の国会閉会の後、期限切れの14日までに延長決定をやるつもりです。十分議論を尽くし「国民的納得」を得ようとする姿勢はどこにもありません。
11月に入ってからの現地は、隊員の皆様にとってぎりぎりの状態になってきました。宿営地内へのロケット弾着弾の軍事的意味は、皆様のほうがよくご存知のことと思いますが、外ではサマワ住民の「自衛隊撤退要求」のデモがあり、サドル派の責任者による「日本の自衛隊をアメリカ占領軍と同じとみなす」という声明があり、「自衛隊の宿営地には、やがてアメリカ軍が入ってくる」といううわさが広がっています。
このような状態の中、第6師団を中心とする第四次隊が12月からサマワで活動するわけですが、もう限界です。引きこもっているとかえって危険なくらいです。さっさと引き揚げるべきです。十分にロケット弾の射程に入りながら、それを防ぐ手立てはありません。今が残された撤退の最後のチャンスだと考えます。「期限が来たから撤退する」・・これをなんとしても小泉首相に言わせなくてはなりません。
この撤退の機会を逃したら、10師団の皆様こそが来年の2月以降、アメリカ軍と共に泥沼に入っていくことになります。
ハンガリー軍は、時期を早めて今年中に撤退。オランダ軍は3月末をめざして2月から撤退の準備に入ります。ポーランド軍も、肝心のイギリス軍ですら来年までの撤退を言い出しています。オランダ軍の支援のない中で第五次隊を強行派遣するならば、小泉首相は、皆様に全く新しい過酷な任務を押し付けてきます。今までとは全く逆に宿営地から出て「自前で人道支援を続けるための安全確保行動」任務が押し付けられます。オランダ軍と同じように、サマワ住民に直接銃を向けることになります。ブッシュのためだけの小泉首相の暴走を考えるとき、強く危惧せざるを得ません。そのしわ寄せは、すべて街中の前線に立つ若い隊員の方々が背負うことになり、ご両親やご家族は、ただそれをじっと見ていることしかできなくなります。
市民であり、県民でもある廣瀬師団長、すでに10師団からの派遣隊員の志願も募り、部隊編成も終わった段階かもしれませんが、もう一度現在のイラクの状況を隊員全体によく説明し、志願したあとでも考え直すことができること、そのことでなんら差別的処遇はないことをどうか周知徹底させてください。雑則というサービス任務で戦地に派遣されるのはおかしいと言ってください。師団長を交えて、ご両親やご家族や志願する本人との自由な話し合いの機会を繰り返し持ってください。
イラクの人々に対し、銃を向けさせたくありません。私たちと同じ愛知県民である隊員の中から戦死者を出したくありません。どうか私たちの願いに少しでも沿うように勇気ある選択をお願い致します。派遣中止となるまで私たちは何度でも申し入れに参ります。よろしくお願いします。
以下、申し入れます。
一 派遣延長の中止、イラクからの即時撤退を防衛庁長官に対し意見具申してください。
一 志願した隊員にイラクの現状を詳細に説明し、家族とも話し合う機会を持ってください。
一 第五次派遣への準備を中止してください。
以上
2004年11月27日
有事法制反対ピースアクション
名古屋市昭和区白金1−13−10
TEL 052−881−3573