2002年9月21日
ロザール事件高裁有罪判決に抗議する
1997年、千葉県松戸市の会社員Tさん(30才)が自宅で殺害された事件で、殺人罪に問われたフィリピン人女性のマナリリ・ビリヤヌエバ・ロザールさん(30)に対する控訴審判決公判が2002年9月4日、東京高裁で開かれました。判決はきわめて異例かつ異常なもので、懲役8年とした一審・千葉地裁判決を破棄。その上で「現場の状況などから被告の犯行と断定できる」として、改めて懲役8年を言い渡しました。 私たち移住労働者と連帯する全国ネットワークは、日本に生活する、移住労働者・移住外国人の権利を守り、自立への活動を支え、多文化・多民族が共生する日本社会をつくること目指している、市民団体のネットワークです。現在日本では、外国人を犯罪者あつかいするような情報が日常的に流されています。また、言語のハンディキャップをもつ外国人は、仮に嫌疑をかけられても、自分の潔白を充分主張できないことが少なくありません。つまりきわめて冤罪におとしめられやすい状況にあります。このようなことから、私たちは、本ロザール事件にも、重大な関心を持って、裁判の経過を見守ってきました。 (経過)1997年11月10日午前8時過ぎ、フィリピン人女性マナリリ・ビリヤヌエバ・ロザールさんは恋人Tさんと同居していた松戸市のアパートのベッドで恋人が刺されいるのを発見しました。すぐにY病院に駆け込み、助けを呼びました。Tさんは既に死亡していましていたため、救急隊員は警察に通報しました。その直後午前9時50分頃、ロザールさんは松戸署に連行され、その後逮捕状もないまま拘束され、二度と釈放されませんでした。ロザールさんはその後逮捕状の発布のないまま警察に10日間拘束されました。10日目、彼女は自分が犯人であると供述し、逮捕されました。その後、勾留質問や検察官の面前では否認しましたが警察官に責められて再度自白しています。けれども弁護士に面会してからは否認供述を維持し、起訴後裁判でも一貫して犯行を否認しています。 2002年6月7日、東京高等裁判所、ロザールさん本人への弁護人・裁判官の尋問、弁論(弁論は書面で補充)が終わり、結審となりました。「私は犯人として疑われても仕方が無いかも知れないが、私が今までで一番愛した人を自分で殺すことは絶対に出来ないことだけは分かって欲しい。」と自ら無実を訴えています。 (無罪を示す証拠)ロザールさんの無罪を指し示す証拠は、たくさんあります。自白に至るまでの違法な身体拘束。返り血を浴びていない。無数に残された刺し傷など犯行の態様と、ロザールさんの体格との食い違い。当日のロザールさんの様子に関する証言。その中でもっとも注目されるのが、死体を解剖した法医学者の当初の推定死亡時刻とロザールさんの自白に基づく死亡時刻との食い違いです。このように、ロザールさんを犯人とするには、あまりにもつじつまの合わない客観証拠がそろいすぎています。 (異常な高裁判決)一審千葉地裁刑事第3部(田中康郎、荒川英明、有賀貞博)では、検察側の犯行時間の特定に関する鑑定が変更されたり、ロザールさんの自白の内容と客観証拠の食い違いなどが露呈していきます。しかし(1)ロザールさん本人の自白、(2)ロザールさんの夫の供述、(3)被害者の胃の内容物や、ロザールさんの衣服に付いた血痕などを理由に懲役8年の実刑判決を言い渡しました。それに対して東京高裁11刑事部(中西武雄、木村烈、林雅彦)はこの1審を破棄した上で、(1)違法性は重大であるとして、自白の証拠能力を否定し、(2)ロザール被告の夫の供述についても信用性を否定した。結局(3)胃の内容物、血痕に加え、被害者宅の鍵の施錠状況、血中・尿中アルコール濃度などの状況証拠と可能性の推論によって、有罪判決を導き出しました。 (私たちはロザールさんに公正なる裁判を求めます)このように、ロザールさんに対する有罪判決は、有罪推定の元に、警察の違法な取り調べや違法な手続きが積み重ねられたこと。さらに、高裁判決は、ロザールさんの自白内容と、客観証拠の食い違いが露呈してくると、一転し「自白の証拠能力」を否定し、状況証拠からの推論の積み重ねのみによって「有罪」を導き出したこと。などの経過を見ても、とうてい真実が明らかにされたとは言えません。状況証拠による「可能性」をいくら積み重ねても、真実が見えてこないのは当たり前のことです。 (上告審で闘う)判決後、ロザールさんは上告し、最高裁で真実を明らかにする闘いを進める決意をされました。愛する人を失い、その人を殺した罪をかぶせられ、同時に子どもも奪われたロザールさんの思いに至るとき、あくまでもこの事件で「無実」を主張し「真実」を明らかにすることがロザールさんの人生の課題であると、彼女が自覚したのだと思います。 以上の理由により、私たちは、本高裁有罪判決に強く抗議するとともに、最高裁での公正な判断を強く求めます。 以上
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