禁断の極秘文書・日本放送労働組合 放送系列
『原点からの告発 ~番組制作白書'66~』28

メルマガ Vol.28 (2008.04.17)

第3章 人と機構

4 プロダクション・システム

B 合理化への道
 ――プロダクション・システムの構造――

 芸能第1分会(第1制作部)、第2分会(第2制作部)、第3分会(演出部、企画部、総務部)はこの番組制作白書運動にあたっていずれも現在のプロダクション・システムに対する批判を中心とした職場討議を丹念に展開してきた。

 芸能番組における企画、提案や評価の在り方、その制作諸条件、また人と機構の問題点等については既に提起されてはいるが、プロダクション・システムについて十分な認識を得るためにあえて重複をいとわず芸能の3分会の主張を紹介することにしよう。

(1)企画の貧困―企画部の問題

 企画部と第1制作部との連係がうまくいっていると答えた職場グループはどこにもなかった。そしてその主な責任は企画部の在り方に帰せられている。企画部の人数の少なさからくる同情的なしてきもあったが

 1.企画部は何をやっているのかわからない。
 2.良い提案。企画が出ない。

という批判が圧倒的で、なかには企画部不要論さえ出てきている。

―― 企画部ができてから良くなった点としては、作者のリサーチが若干進んだことぐらいしか評価されなかった。(芸1)―― 

―― 芸能局の機構運営に問題がることはほとんど全員が指摘している。その問題点として独創的な提案が通りにくく、企画の採否の過程が不明朗であることを指摘するものが多く企画部の存在意義を問う者もあった。(芸2)――

―― 企画部はアイデアを開発する部門であるにもかかわらず、現在あまりにも事務局化していることが大きな不満である。形式化したディスカッション、有名無実な企画委員会、アンバランスな人員構成、企画マンとして責任のとれない多忙なノルマ……(芸3)――

 つまりプロダクション・システムを論ずる声がまず企画部の在り方に集中して、いずれも現在の企画部をなんとか見当しなおさなければならないと批判している現実は、ただに芸能局のPDたちに限った問題としてではなく、この番組制作白書に寄せた全ての職場のレポートに共通しているものである。さらに芸能第1分会のレポートは企画部の仕事がテレビドラマ偏重になっているため演芸、クイズ、ラジオドラマ等の部門から多くの不満が出ているとして、企画部が個々の番組企画にかかずりあって企画部の本来の役割を失っているのではないかと述べたのち

―― 大多数の組合員が番組は生き物であり、手作りの良さを失ってはならないと考えている。この考えからすると企画はやはり全番組制作者のものであるということになる。つまり全員が企画者であり、企画部はその企画を生みやすくさせるもの、企画の懸け橋的存在ということになる。

 ところが現在は企画と企画部を混同する傾向があり、これが「企画部の職能―すなわち企画」という考え方となって現れている。

 ある職制は「君たちは工場の職工なのだから企画などは企画部に任せれば良い」などという暴言を吐く始末である。(芸1)――

 ところが肝心の企画部の組合員の声はどうだろうか! 彼らのレポートによると

―― 現在24名の構成人員のうち半数は職制である。しかも5名のCPの担当は長期計画ということになっているから組合員の多忙さを救うことはできない。現在のように若手の1人が番組数本から十数本の企画、本取り、配役を並行的に行っている状態では個々の番組に最後まで付き合うことは物理的に無理であり、企画については最終的な責任をとることは不可能である。(芸1)――

ということになっている。確かにこのようなバランスを欠いた、しかも絶対量のたりない定員では企画部そのものが破局的な状態である。再び芸能第1分会のレポートに戻ってみよう。

―― 企画と企画部の区別ははっきりさせておく必要がある。企画部とはそこだけが企画をたてるセクションではない。企画部、演出室、制作部のどこに所属していようとも企画を出す権利があるはずである。

 だから企画部の重要な仕事の一はいかに全職員のアイデアを吸い上げる窓口かということになる。(芸1)――

 プロダクション・システムの構想の中に企画部独立が打ち出された時、芸能局のPDたちは従来の班とか部とかいった企画提案上のさまざまな余計な関所がこれによって解消し得ると期待した。そしてPDたちはプロダクションに所属しながらも、企画・提案に関しては企画部に直接アイデアを持ち出して説明をし、意見を聞き十分な討議の場を持つことができるであろうと期待もしたのである。またプランがまとまってさらに上級の機関で検討される場合にも、企画部を通じてその可否の判断の内容が正確にフィード・バックされるだろうと予測したのである。

 しかし、その期待は残念ながら裏切られてしまったのだ。芸能第2分会のアンケートはその不満を数量的に明らかにしている。

―― 企画提案に対するアンケートの回答中、企画の採否の過程が不明朗とする回答が46の数に達していることは、企画の内容変更の過程が不明朗とする回答は11、企画意図が捻じ曲げられることが多いとする回答とともにきわめて注目に値する。なお独創的な企画が通りにくいという回答は42であり、以上あわせてこの質問に関しての全回答数143の77%に達している。(芸2)――

 そしてさらに芸能第3分会は

―― 局内の最高決定機関である企画委員会には提案者またはCPが出席してアイデアの説明を責任をもって行うようにしないといけないのではないか。現在の部長の代理発言という形式は考慮し直す必要がある。(芸3)――

 そしてその企画委員会では

―― 一体何を基準にして企画の取捨、選択がなされ、どういう討議がなされ、どういう方向が打ち出されているのか下部への伝達は皆無に等しい。(芸1)――

 状態がつまり提案の蒸発現象は教育局や報道局と全く変らずに生じているのである。そしてプロダクション・システムという新しい組織であるにもかかわらず「企画の主体は誰なのか」という基本的な問いかけが繰り返されているのである。最後に芸能第1分会の声を上げておこう。

―― ある企画が放送になる場合、個人の企画から集団の企画へ、集団の企画から組織の企画へと進むのだし、組織の方針が個人の企画を誘発する場合にも、それ相応の段階を経るわけだが、企画部の仕事とはこういったサイクルをより活発に、よりスムースに行う機関なのではないか。

 企画の問題を考えるときには企画の主体が誰なのかを深く考える必要がある。(芸1)――