禁断の極秘文書・日本放送労働組合 放送系列
『原点からの告発 ~番組制作白書'66~』23

メルマガ Vol.23 (2008.04.02)

第3章 人と機構

3 もう黙ってはいられない
   ――サービス部門は訴える――

B サービス部門の冷遇
   ――職場環境と人事管理

1 職場環境

 サービス部門は冷遇されている。このことを裏付ける様々な事実がある。その具体的な例を職場環境の軽視にみることができる。

 職場環境の悪さという点で代表的なのは写真課である。

―― 写真課の人間は自分たちのことを「もぐら」と自嘲的に呼んでいる。地下の穴倉のような所に1日こもって仕事をしているからである。我々にとって太陽光線はむしろ害になる。地下の暗室の闇に慣れた目にそれはあまりにも眩しく目をくらませるからだ。東京都千代田区のスモッグに汚れた空気でさえ我々にとっては贅沢な代物である。「もぐら」には人間並みの部屋を与えられていない。地下倉庫を多少改造したぐらいが適当というわけだ。部屋として設計された場所ではないから湿度温度の調節は不完全でも仕方がない。このところしばらくトラックが飛び込んで来なくなっただけでも天下泰平である。最も暴走事故が再発しないという保証はどこにもない。「もぐら」の鼻は特別にできている。他部の人が一歩室内に入っただけでツンとくる悪臭にはとっくに慣れている。検査によれば微量であるとはいえ目に見えない有毒ガスのあることは確かである。地下の暗きょから蚊やゴキブリが出没しても、ネズミの群が横行してもちっとも驚かなくなった。またありとあらゆる騒音、特に資材搬出入の車の音にも平気である。部屋の中だって電送器の音で相当うるさいのだから。我々は刑務所に入れられても密室恐怖症にはかからないかもしれない。なぜならいつも四方の壁に囲まれて生活しているのだから。(業4)――

 この写真課に9月来のカラー化問題に関連して、皮膚中毒を起こすガスの発生する装置、即ちカラーラボを隣接設置しようという計画が強行されようとした。たとえ最良の排気設備を取り付けると保証されても、写真課の人々が納得しなかったのは当然である。永年の劣悪な環境に甘んじさせられてきた反感が一度に爆発した。

 同様の声は資料部からも上っている。本館やセンターの所々方々に分散している資料部の部屋の在り場所を知っている人はどれだけいるだろう。資料部が1カ所に集中していれば便利なことは利用者でなくても分かる。サービス部門の悲しさ。所々方々に間借りするしか方法はなかったわけである。

―― 人員の不足、定員の不合理は今や深刻である。あるべき労働条件を考える前に現実の条件を少しでも正常なものにする方が問題である。理想的な諸条件を考えさせるだけのゆとりが、現在の職場には存在していない。人間の居住条件など考慮にも入れてない事務室、資料の保管条件を省みない保存庫。廊下にカード・資料を放置せざるを得ない状態が資料部の発足の時から続いているのである。我々の「陽の当たらぬ者意識」はこういう事実も裏打ちされているのだ。(業5)――

 また職場環境ではないが、機材の保管場所が分散したり、離れているために担当者が余分な労力を費やしていることが多い。

―― 映画課のフィルム倉庫は新館3階にあって、本館6階とはかなり離れている。フィルムの出し入れの毎に運搬車を借用したり、大の男が腕一杯にかかえて汗だくになったり、大変な労働力である。(業4)――

―― 撮影課が保有する機材は3000点以上にのぼるが、これらを保管する倉庫は第1新館地下、第2新館地下、本館6階の3カ所に分散されている。数量も増えスペースも限界に達している。管理上も、また使用上も機材をエレベーターに載せて上ったり下りたり大変不便である。ぜひ本館の1カ所に集中させ、機材運びに消耗する現状を改善して欲しい。(業4)――

 どの声もサービス部門の優先を求めているのではない。機能的になるべく便利な配置を行うべきであり、あまり急を要しない、または分散していてもそれほど不便を与えないセクションが〈力関係〉という神話によって主要地域を独占し、そのしわ寄せをサービス部門が受けるような事態に反対しているのである。現実に一部セクションの放送センター移行の際、サービス部門は冷遇され、改善の絶好の機会であったにもかかわらず改善されず、むしろ一部には悪化した先例のあったことを我々は忘れてはいない。

2 人事管理

 サービス部門の人事交流はまるで亀の歩みのようにスローモーである。他部門に大幅な異動があったときでも、我々のセクションまで波及してくることはめったにない。5、6年前に入局した人が未だに最も新しい人だったりするところはざらにある。

―― 色々の不満に加えて人事交流の停滞に対する強い不満がある。具体的に言えば他部課への異動希望を何回となく出しても一向にかなえられない。転出希望者でまだ満たされていない先輩が大勢いるからである。入局以来6~7年間全く同じ仕事を、それもきわめて単調な管理業務をやらされていることへの憤りに似た不満である。(業4)――

 それでなくても沈滞ムードをかこっているところに加えて、人事の停滞ときては職場の空気は淀んでしまう。業務量が相対的に減ったのに人員改正がなされず要員がダブっている例がある。

―― 40年8月1日をもって機材管理は報道と映画関係に二分された。この分割により業務量も10分の3に減少した。他の機材管理運用、センター編集室管理業務などを合わせても現行4名は不要で2名で十分足りると考える。(業4)――

 もちろん多くのセクションが人員不足にあえいでいる。

―― まず人員不足である。各種の撮影、焼付、電送は1日平均100件の量で入ってくる。ニュース、広報、資料、一般番組等の内容に応じて機材、印材、人員が配置されなければならないのに、現在の業務は人員不足ということで全くのゴチャマゼであり、その都度内容の把握、業務遂行の態度を切り換えねばならない。(業4)――

―― 定員の不合理、人員の不足は深刻である。センター分室設置に際しても人員増なしに二分された勤務体制を強いられて労働強化は著しい。(業5)――

 一方で余り、一方で足りない。定員のアンバランス状態は慢性化の状態にある。また部内での配置転換も無定見で、場当たり主義的なものが多い。ここ数年の間に同一業務が二つの部課の間で交代に管轄され、担当者もその度に両方の課から出向し合うという変則的な人事の歴史を見ることができる。

年月担当者所属 
35年以前A氏
B氏
35・4B氏撮影課
C氏管理課撮影課へ出向
36・4B氏撮影課
D氏管理課撮影課へ出向

 上記の期間は撮影課の職務に属し、映画課から1名が出向という形で補
助した。

37B氏映画課
E氏撮影課映画課へ出向
38・6B氏撮影課 〃
F氏映画課
38・8G氏映画課
F氏映画課
40・8F氏映画課
H氏映画課
40・9H氏映画課
I氏映画課
41・4H氏映画課撮影課へ出向

 それが37年以来映画課の管轄に変り、撮影課から1名出向してきた。現在では撮影課に出向した1名が担当している。

―― 時の職制の思いつきや政治力によって以上のような業務の移動が行われた。その度に所属の変った担当者にしてみれば大変不安でもあり、職制の思惑一つで点々とする。(業4)――

 さらにこの報告は配置された人材が適材適所でないことを訴えている。

―― 一口に撮影機材と言っても、録音照明などを含めて備品消耗品ともども3、000点にのぼる。この膨大な機材を適正に運用・管理するには相当な経験と専門的知識を必要とする。ところが指名された本人は撮影機材には全くの素人であり、本人も望んでいなかった。仕事の質と本人の適性ということに全くの考慮がなされず突然命令されるということ。この仕事の適格者が例えば地方の老カメラマンの中にいないわけではないことなどはぜんぜん無視されている。(業4)――

 NHKは人材を資産とする企業でありながら人事行政は皆無といっても過言ではない。入局した新人の適正な配置が行われないことは以前にも述べた。その不適正な配置をされたままの人材を開発する対策についてはゼロに等しい。わずかに個人的つながりや僥倖が、狭くもか細い登竜門になっているだけである。 ましてや、陽の当たらない場所、サービス部門においてはほとんどの人が、一生に一度の機会さえも与えられずに終る。人事は人間を管理する上で最大の要諦である。将来に見通しの立たない状態でいくら士気を鼓舞してもモラルの向上は望めない。

―― 通信部には他の職種から報道の記者やPDを希望してきたのに通信部へ回されてきたもの。速記者として入ったものの機械化についていけない者。高卒で入ったけれども報道マンとしての適性がなく、他の職種に変りたい者など種々の矛盾を抱えている者が多い。しかも通信部の内勤者は若い年代が多く、この道の先輩は少ない。そのため将来に非常な不安を持っている。記者のようにはっきりした仕事、内容でもなく意欲が持てないという声が全員から洩れていた。通信部の内勤者は使命感が足りないと言われるが、前述のような矛盾が皆の胸底にあるためである。(報9)――

 EDPSの導入など合理化には先頭を切る協会である。人事管理の面でももっと人材を生かす試みをやってみる必要があるだろう。夜間の演出研究所の開設とまではいかなくても、局内留学や養成を目的とした出向制度、あるいは関連セクション同志が交流する研修、人事交流などはやってみるだけの価値がありはしないか。人材開発に時費を惜しむことはかえってNHKのために大きな損失である。陽の当たらないサービス部門でコツコツと研究している有為の人たちのためにも、いや何よりも職場のモラル高揚のために、もっと思いやりのあるかつ合理的な人事管理を施行すべきである。