禁断の極秘文書・日本放送労働組合 放送系列
『原点からの告発 ~番組制作白書'66~』1

メルマガ Vol.1(2008.01.29)準備号

編集から42年目、全文公開!!
(まぐまぐメールマガジンとして、2008.1.29~4.24に発行したものです。)

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┃取扱注意┃       原点からの告発
┗━━━━┛     ~番組制作白書 '66~

1966年11月15日
日本放送労働組合 放送系列

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目  次

はじめに

第1章 空洞化すすむ「国民のための放送」
 プロローグ 三つの断章
 1 提案・企画の採否
  A 提案―採否決定の機構
  B 提案の蒸発
  C 「ヘソ」を奪われた提案、核を失った企画
  D 船頭多し イコール 船頭不在
  E 「枠がない」というカクレミノ ―横行するおしつけ企画―
 2 番組内容と評価
  A ビジョンなき編集方針 ―基準なき評価―
  B 「平均的国民」「期待される人間像」への傾斜
 3 規制と考査
  A その底流は何か
  B 規制から自己規制へのメカニズム
  C おびえるだけの考査体制
  D 見識を失った職制群
 4 政策優先の番組制作
  A 現場無視の拡張路線
  B 国民不在の合理化体制

第2章 制作条件をめぐって
 1 制作条件の悪さ
 2 製作現場の実態
  A 業務量に追いつけない定員
  B 番組単価
  C 制作条件としての職場環境
 3 合理化要請と管理体制
  A なんとかなるだろう
  B ともかく形だけは ―パターン、その他―
  C あるから仕方ない
 4 我々の主張

第3章 人と機構
 1 プロデューサーからの訴え
  A なんでも屋PD
  B 特級酒を作らせてもらえないPD
  C 創造と自由
  D PD労働条件の改善には
  E 「命をかける」PDたち
  F 合理化の前にゆらぐPD ―放送人構想の美名の陰に―
  G 国際局アナプロ合理化の問題点
  H PDは強く抗議する
 2 専門職群の位置づけ
  A 我々も制作スタッフの一員だ
  B 創造性と人間性の回復
 3 もう黙ってはいられない ―サービス部門は訴える―
  序説(1) ある原体験
  序説(2) ある現体験
   A サービス部門のコンプレックス ―フィード・バックの欠如―
   B サービス部門の冷遇 ―職場環境と人事管理―
    (1) 職場環境
    (2) 人事管理
   C 業務内容、業務形態への圧倒的な不満
    (1) サービスする番組への不満
    (2) 放送料サービスに対する不満
    (3) 改善がおざなりにされているサービス業務
    (4) サービス部門の典型としての総務部
   D 経営者側のビジョンの欠如と我々の諸要求 
                 ―あるべき現場の姿を求めて―
 4 プロダクション・システム
  A 新しい組織 ―プロダクション・システム発足のいきさつ―
  B 合理化への道 ―プロダクション・システムの構造―
   (1) 企画の貧困―企画部の問題
   (2) 分業の進行―制作部と演出室 ~下請けムードの危機~
  C プロダクション・システムの行方
                 ―番組技術システムへのつながり―

おわりに

編集後記

資料
 (1) 1966年度放送系列活動方針抜粋
 (2) 放送系列組織表

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■◆■ はじめに ■◆■ 

 我々の日放労はここ数年来、「国民のための放送」のスローガンをかかげて、公共放送としての役割を守り抜こうではないかと叫びつづけてきました。

 また、NHKに働く我々自身を放送労働者として自覚し、団結していこうではないかと組織に訴えてもきました。

 そしてこのような努力がしだいに積みあげられていった結果、確かに我々の組織は強化され、総評を中心とする日本の労働運動の中で、いささか画映ゆいくらいにそのエネルギーを評価されてもきました。

 確かに今年度のベア闘争などに結実した日放労の団結の力は、組合活動に寄せる我々の信頼と勇気とを高揚させるものでした。

 しかし、一方、年々膨張していく協会の事業の拡がりとそれに対応する合理化政策は、我々の制作条件(労働条件)に対する厳しい締めつけとなって現れてきています。

 そのためにこの数年、番組制作者を中心とする組合員の創造意欲、放送への参加感はとみに衰弱して、さらに放送内容の質の低下という最も憂うべき状況に追いつめられてきてしまいました。

 それは公共放送の担い手としてのNHKの責任を放棄喪失しなければならないような危険につながり、もっと広い展望に立てば体制側がマスコミ支配を強めようとする政治的状況の中に我々がいやおうなしに今立たされていることを意味しているのです。

 本年度のベア闘争に先立って開かれた最高経協において、「NHKにひそむ不安と停滞」というテーマをかかげて協会に烈しく迫ったのは、このような危機的情勢に対して我々が深い憤りと不安をもっているからなのでした。

 とりわけ1968年に具体化しようとしている番組技術システムを中心とした合理化政策が、このような政冶的状況に応じた経営意志を露骨に象徴するものなのですから、我々はこれとの対決を曖昧にしてしまうわけにはいきません。

 つまり、賃金や労働条件への闘争を基調にして、いよいよ日放労が制作条件や放送内容の改悪を阻止する闘いを通じて、放送の自由を守る闘いを展開しなければならない時がきたのです。

 そこで、これらの問題を集中的に背負っている放送系列としては、日放労の新放送構造論活動の一環として反合理化の闘いを是非とも組織化しようとして、「番組制作白書運動」を始めようと決意したのです。

 それはたまたま勤務変更原則の試行期間の開始とともに、我々が協会に向って宣戦を布告した番組制作条件改善闘争の具体的な第一歩を意味するものでもありました。

 また、この運動によって集約される放送系列の主眼を、日放労の中軸組織である放送系列の抱えこんでいる課題として、その重みとその深みを全組織に正確にアピールすることによって、これからの我々の反合理化闘争――放送の自由を守る闘いにテーマを提起したいとも考えたのです。

 この「番組制作白書運動」は放送系列の全組織の支持を受けて、9月上旬から32の分会、職場で精力的な組織討議が始まりました。

 そして膨大なレポートが系列執行部の机上に山積され、系列執行部はこの運動に寄せた全組織の並々ならぬ努力に感動させられるとともに、いささか遅きに失したのではないかという反省を含めて、この運動、この闘争の重要性、必要性を改めて、認識させられたのです。

 そして放送系列執行部を中心に専門委員数名の参加を得て作られた編集委員会は10月に入ってから、番組制作白書の編集の仕事にあたってきました。

 それは全てのレポートを丹念に読み、問題を整埋、分析したのちに白書全体の構想の中に正しく位置づけようとする試みでした。

 そしてこの作業を通じて、編集委員会のメンバーはいまさらのように、NHKにひそむ不安と停滞の実態を知ることができました。

 PDばかりでなくカメラマンもアナウンサーも、直接間接の差別なく番組制作に参加している組合員の誰しもが抱いている自分たちの仕事や、経営に対する深い絶望と怒りを感ずることができました。

 そんな仕事のさなかに、J・P・サルトル氏が日本を訪れて、「知識人の役割」というテーマでわが国のインテリゲンチュアに呼びかけた時、編集委員の間では、サルトル氏はわざわざ「番組制作白書」のためにNHKに働く我々のためにフランスから来てくれたのではないかと語り合ったものでした。

 今さらここで彼の主張を紹介するまでもないことですが、

―― 知識の専門家には二つの可能性が生ずる。支配階級のイデオロギーを受入れて、普遍的なものを特殊に奉仕させるか、あるいは権力の原理を否定して、自己内心の不快感の正体を見きわめて、自分自身の矛盾に思いあたるか。 それはいうまでもなく、この第2の可能性をつきつめて、自分の知らぬ目的の手段であることを拒否すれば、その時、初めて彼は知識人となるのである。――

という彼の主張は、マスコミ文化の担い手である我々知識人の心に深くつきささります。

 今回の「番組制作白書運動」に集った全組織のレポートは、残念ながら我々のビジョンをすら明らかにするまでには至らず、サルトル氏のいう「不快感」にあふれたものが多いのです。

 我々が本当に欲しいのは「不快感の正体を見きわめて、自分自身の矛盾に思いあたり、」我々は何をなすべきか、どうあるべきかまで論じ合う知識人としての姿勢なのです。

 しかし、我々はあわてず、あせらず、この第1回の「番組制作白書」を手がかりに次々と白書を作りだしていくべきだと考えています。

 そしてこの第1回の白書をもとに、いよいよ本格的な制作条件改善闘争を具体的に開始して、協会の合理化政策に有効なバリケードを築きあげていく闘いを展開していくつもりなのです。

 おそらくこの白書は放送系列ばかりでなく日放労の全組織に討議のきっかけを誘い、やがては日放労全体の「番組制作白書」を作りだし、反合理化闘争――放送の自由を守る闘いを強化していくことに役立つものと信じます。

 しかしこの種の闘争には、ただちに具体的な果実を獲得できるようなめざましさを期待することはできません。長い時間と不屈のエネルギーをかけた執拗な闘争に耐えていかなければならないのです。

 我々放送系列執行部はこの運動に真剣に取組んだ全組織に心から感謝するとともに、これからの長い困難な闘争に強い決意をもって参加して行くことを組織に要請したいと思うのです。

1966・11・15 放送系列執行委員会