深夜に電話のベルが鳴る。「こんな時間は和子さんかな」と思 いながら受話器を取ると必ず彼女だった。「もう寝てた?」「寝 てても電話で起こされたんやないの」なんてやり取りから始まって 、延々と話は続き何の用で掛けて来たのか判らなくなって二人と も「では眠いからもう寝るわ」で終る。不思議な人だった。思っ たら行動に移し、あっという間に活動やネットワークを立ち上げ ていた。和子さんの一番いいところは、疑わないまっしぐらなと ころだった。それだけに度々トラブルも起こしていたけれど、彼 女を誰も憎めない。色々あっても考えてみたら皆あの純な心を愛 していたのだ。和子さんは、世界中に友人を持っていて早くから情報通だったが 、彼女の一言が、我がウイメンズブックストア開設のきっかけと なった。
「アメリカやイギリスなんかじゃフェミニ ストの本屋があって、そこが女たちの拠点のようになってんのよ。日本にも 出来たらいいのにねえ。」本屋を始めて8年を過ぎた頃だった私は 、それこそ私の仕事だと身を乗り出していた。それが日本初の女 の本屋の始まりだった。彼女との出会いがなければ、あんなに早 くウイメンズブックストアは誕生していなかった。その後、マイッチングマチコ先生に抗議する会から始まって、 実に様々な数え切れない運動を共にしてきた同志だった。いつも 明るく元気いっぱいの彼女がこんなに早く逝ってしまうなんて!
深夜の電話がふとかかってきそうな気がして、あ、もう帰って こないと改めて実感する。和子さんはもういない!
友人を失う のはなんと辛いことだろう。でも彼女は案外シラーっとあの世で 「きたわよー」なんて先輩に挨拶してるかも。ご冥福を祈るばか りだ。
(ウイメンズブックストア松香堂書店 代表取締役)