VOW特集 「渡辺和子さんを偲んで」


No.218 (2001.2.5) から

渡辺さんから取り残されてしまって…


和田里子

 

 21世紀に足を踏み入れたことが、なぜか間違っていたような、 私も20世紀に去っていくべきだったのではという思いを拭い去る ことができません。渡辺さんと同じ世代でもあるからか、お正月 以来、私も、もうすぐこの世界から一人で出ていくのだという気 分が居座り、そこから抜け出すことができないままです。

 渡辺さんとは親しくおつきあいしていた間柄ではありませんが 、研究会員として、翻訳グループの一員としてお教えいただき、 また、論文や書物を通して、ほんとうにいろいろ学ばせていただ いておりました。

 十数年前、私が夫や子どもたちの家を出て一人暮らしを始めて いたころ、渡辺さんも家族との問題を抱えてられることを知って いましたが、例会でお見かけしたときは、外国の人たちとにこや かに談笑しておられ、学問や運動の世界ではつらつと生きている 人、私などとは別世界の人なのだなあと思っていました。私のほ うは再就職を始めたばかりで、それこそ日々の生活に追われてあ まり例会にも出られないころでした。

 でも、扇町の映画館を出たところで偶然お会いしたとき、私の 独り暮らしについてどうしているかと心配して聞いてくれました 。そのときは、私のほうから彼女の問題を心配することなど思い もよらなかったのです。でも、2年前の離婚例会のときに彼女の 体験を話していただいて、私などよりもずっと大変な問題を抱え 、屈折した心情をもってられたということを知りました。私は自 分の問題で頭がいっぱいになり、周囲の人たちのことも、社会の こともまったく見えていなかったのです。

 社会的な問題も自分の問題が出発点だと思いますが、私はいつ までたってもそこに安住していたのです。渡辺さんは自分の問題 からずっと遠くに行っていたのに。

 もう、道の終わりに至って反省も何もないのですが、ただ、私 に残された21世紀の日々は、この世界を去っていく時の気分を 抱えたまま、むしろ積極的にこのような気分を受け入れて暮らし ていくのがいいのでは、と思えるようになってきています。渡辺 さんのようになどと、まったく手の届かないことなのですが、せ めて彼女のような生き方、去り方があったことを忘れずにいきた いと思っています。

 渡辺さん、いろいろお世話になりました。私の残ってしまった 日々も、どうかご指導くださいますように!