1998.11 報告

1998.11 例会
「わたしからフェミニズム」発刊記念シンポジウム&バースパーティー
ノラの方舟 〜フェミニズムの未来戦略〜


報告 part1

超・高齢社会と女たちの反逆

中西豊子さん



 みなさんこんにちは。中西豊子です。ドーンセンターの1階にある松香堂書店のオーナーです。日本女性学研究会の初期の頃は、京都の松香堂書店の2階に事務局があって、運営会もそこでやっていました。今、とても懐かしいような、ついこの間のような気がしますが、この研究会でいろんなことを学ばせていただいて、とてもよかったと思っております。これまで、私はいろいろな会にたくさんかかわってきたのですが、今からちょうど17年ぐらい前に樋口恵子さんが代表になって「高齢化社会をよくする女性の会」(当時)が東京で立ち上がりました。京都でも10年前にこの会ができました。

 介護保険というのを、みなさんご存じと思いますけれども、40歳以上の方は2000年になりますと介護保険料を払わなければなりません。私たちは、活動の一環として、介護保険の実施に向けての提言書というものを京都府全域に出しました。そのために、どういうことが行われていて、何が問題なのかということを地方自治体に聞いてみようということで、大がかりなアンケート調査をしたところ、京都府全域で44の市町村があるんですが、26市町村が割合に丁寧に書いてくれたのでいろんなことがわかりました。

 女性問題というのは、行き着くところ高齢者問題ではないのかというぐらい、女性の問題と高齢者の問題は重なり合っております。在宅で介護をしている人も、ヘルパーさんも、施設や病院で介護をしている人も、看護婦さんも、みんな女性です。男性の看護士さんやヘルパーも出てきましたけれど、まだ本当に少ないです。連れ合いを看護している男性もやや増えてはきておりますがこれも数字にしたらほとんどないに等しいようなものです。

 実際に京都府で見ると、京都市という大都市と、中位の都市、農漁村に当たるところも抱えており、だいたい日本の平均的な感じではないかと思いますが、高齢者率は平均して20.2%に上っております。最高は伊根町、漁村なんですが35%。これはすごい数字なんですよ。厚生省なんかが試算して、2025年には4人に1人が高齢者と言っておりますが、こういう数字を見ますと、そういうのんびりしたことではなさそうで、非常に速いスピードで高齢化が進んでいます。少子化がとても進んでいるということとで、高齢化率がどんどん進むということです。

 ここに平均の数字をあげましたけれど、女の平均寿命が延びて83.59歳。男の人はそんなに伸びていなくて、男女差は6.58歳。これは世界では類を見ない男女差なんです。女の人の寿命が非常に伸びているということで、女の人が子育てとか、家の用事とか、夫の世話だけで一生を過ごすなんていうことはもう幻想にすぎないですね。人生の20年間をぴったりそれに充てたとしても、後60年は自分自身の時間ですよ。それに、夫を亡くした人の数と、夫を亡くしてからの時間が非常に長いんです。日本の女の人のライフスタイルと、ライフサイクルそのものが本当に変化しているということを理解しておいて欲しいのです。

 介護者はほとんどが女性です。それにもかかわらず、今回の介護保険についても、京都府の例で見ましても、事業計画の策定委員に女性は24%しか入っていない。これは、女性の介護に対するかかわりから考えてとてもおかしな数字です。本当は80%が女性でなくてはならないとわれわれは思っているんですが。そしてこういう委員になる人は、その地方のボスやおやじたちで、こういうところで決まることが、女性の介護者たちにいいのかどうか。介護される人も女性が多いわけですが、そういう人たちに親切にやさしい介護ができるのだろうか、いろいろ心配の種は尽きません。

 そこへもってきて、現金給付はしないということが国会で了解されていたにもかかわらず、介護保険に現金給付をせよという説が急に出てきました。施設やらヘルパーやら、そんな邪魔くさいことを言わんでも、とにかく安上がりに家にいる女にお金やって使ったらよろしいという考え方です。しかし本当にひどい話です。実際問題として、90歳の親を70歳代の人が見ているというような時代に、家にいる介護者に無条件に払うというのではなくて、家族介護している人たちにヘルパーの資格を取ってもらって、それに払うと言っているわけです。隣の奥さんはヘルパーの資格が取れたから現金給付が来る、資格を取らなければ自分には来ない。現金給付というのも施設のヘルパーよりも低めに抑えて、お金やるから看護してくれという形になるから、女性にとっては許しがたき問題です。だから、この考え方には女性はこぞって絶対反対をしてほしいんです。

 そんなことが急浮上して、今本当に強い力で押し返しがきております。樋口恵子さんたちと一生懸命そうならないように運動しているわけですが、なかなか相手は手ごわいです。元首相の橋本龍太郎の弟の橋本大二郎という高知県の知事などが、現金給付に積極的です。これが一番安上がり。女はもっと使ったらいい。家族の愛が一番やなんていうんです。けれどもそういうことを言い出した人たちは、自分がヘルパーの資格を取って家族の介護をするわけではない。自分達が決して介護をすることがないだろう人たちが、決定する場に入っていって、大きな声で述べたてることに非常に大きな問題があります。私たちはそのことが一番残念ですが、おやじネットワークのすごさに押されて、危機感を募らせているところです。

 老老介護が4分の1と書いてありますが、法律上扶養の義務なし、相続権なしの嫁―結局介護をした人が相続権もないわけですよ―に日本では一番負担がかかっているということにも問題があります。介護期間も平均7年以上になっております。これは大変な数字なんです。今、老人の虐待という言葉も出てきましたけれど、7年以上も介護しておりますと、どんなに優しい性質の人でもお尻のひとつもひねってやりたくなるし、水ぶっかけてやりたくなるんです。それはその人が悪いのではなくて、その状況が悪いのです。そういうことをなんとかやめたいということで、介護保険というのはいい策ではないけれども、私たちはこれに賛成せざるを得ない。消極的賛成ですけれども、中身をいかに良くするかということに焦点を移していかなければならないと思っております。実際に2000年にはもう始まりますので、各地で準備室ができております。このことを女性問題としてとらえて、私たちが大きな声を出していかなければならないと思います。

 それから女性の年金の問題。今は世帯単位の年金で、第3号被保険者というのはサラリーマンの妻ですが、いろんな税制上の優遇措置もあり、年金の問題もあって働く意欲をそがれ、ひいては全女性の自立を妨げているということになります。税理士会の女性の会であるとか、社会労務士の女性たちとかが、こういう制度そのものを見直していく必要があるということを言ってはいます。ただこれがなかなか通らないのは、専業主婦の妻を持っている人たちが決めているからです。そういう人たちの利害からして、改善されないというのが実態です。

 今の制度によりますと、サラリーマンには1人分の基礎年金で2人分が受給されているということになります。今は所帯の単位で、妻を持っている男に大変有利な制度になっております。国民年金の場合は、一人一人がかけるので個人の単位です。ほとんどの方が、共済年金とか厚生年金とかに入っておられると思うのですが、これは所帯単位の年金です。この年金制度には全く一貫性がなくて、男のご都合主義にしたがって成り立っているような気がいたします。

 それからこの年金で非常におかしいのは、夫の有無です。死に別れか生き別れか、離婚かでも違うんですよ。自営業かサラリーマンか、夫の就業の形態によっても奥さんの年金が変わります。夫の年齢、夫の仕事、夫の何々というのが付いて回りまして、女性の年金が独立していない。結婚している女性の年金は夫次第というふうになっております。個人が個人で払って個人でもらうという個人の年金の形にする必要があると思います。女性からそのような声がなかなか上がりにくいのは、現実に夫の年金で暮らしている人が多くて改善要求ができないというのもあります。

 夫が死んで女性が年金をもらう場合には、夫の方が大体長く勤めていて給料が多いですから、夫の年金をもらった方が有利になるんです。80%とか70%に下がりますけれども、それでもその方が女性自身の年金よりも多い場合がほとんどです。女性の賃金は男性の半分といいますが、賃金格差の問題が年金にモロに表れてきます。

 夫の遺族年金をもらった方がまだましだということで、遺族年金をもらいますね。そうしたらそれまで働いて払ってきた女性の掛け金はどこへ行くのか? 全然入ってきませんし、戻ってきませんからね。それは専業主婦の妻の分にもなる。専業主婦の妻が悪いというのではなくて、夫に行っているというふうに考えてください、その方が正確だと思います。

 あらゆる審議会とか政府の諮問機関は、全部男性優位です。紅一点現象というそうですが、だいたい女性が一人は入ってるんです。でも、一人では絶対援護射撃できませんし、前もって根回ししようにも一人ではどうにもならないです。一人が言ったら、こっちでそうだ、あっちでそうだ、という風に言ってもらったら勢いがつきますが、一人だけで言っていたら、「まあそういう意見もありますね」と少数意見としてお終いになるわけですから、とてもやりにくいというふうに聞いております。一人ということではなくて、半分は女性にというふうにならないと、制度を変えていくのも非常に難しいということになります。

 老人会の長とか、社会福祉協議会とか、ボランティア協会役員でも少しは女性が出てきたということも聞いておりますけれど、その数は微々たるもので、やはり男性優位です。実際、老人会なんかでも働いたり動いたりしている人は全部女性、だけど長は男。社会福祉協議会なんかもそこで働いている人たちは、ボランティアにしても、ヘルパーさんにしても、給食サービスをしているメンバーにしても、ほとんどが女性なのですが、実際にモノを決めるところになると男ばっかりで、女が一人という形になっております。こういうことを変えていく必要があるのではないかと私は思っております。

 私が本当に言いたいのは、「おばあさんは逆襲するぞ!」「おばあさんは黙っていないぞ!」「高齢社会をよくする女性の会」というのは全国規模になりまして、全国津々浦々にあります。私も会の一員として、厚生大臣室まで行ったことがあるんですが、これはアカンぞということがあったら、全国から寄ってきていろんな動きをしております。全国大会に集まってくる人は3500人を下らない。もうとにかく元気です。登録ヘルパーさんたちも、仕事がきつい悪い条件のなかで、実際に労働組合を作り始めた人もいます。皆さんも必ず高齢者にはなりますから、後へ続いてほしい。今の若い方たちが老いても本当に安心して暮らせる社会に、そう思ってわたしたち活動しておりますので、そのことをいろんな面からサポートしていただければありがたいと思います。こういう会のようなものが津々浦々にでき、圧力団体となっていくことを願っております。いろんなことを決定していく場に女の人がいなければ、というのを強く実感しますので、「出でよ!女性議員」ということで、あとは森屋さんにおまかせします。

 どうもありがとうございました。