目 次 | |
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第1章 家族の近代 1 国家の基礎単位としての家族の成立 2 私的存在としての家族 3 近代的な性別役割分業 第2章 家庭の成立 1 言説としての家庭 2 新中間層の登場 3 女性雑誌における生活への関心 4 児童博覧会と家庭博覧会 第3章 家庭生活に対する国家の関心 1 新中間層の生活難 2 副業と節約・倹約の奨励 3 生活改善への国家的関心 4 生活改善運動 第4章 生活改善運動がめざす家族像・生活像 1 展覧会を通した生活に対する視線の形成 2 生活改善同盟会が語る近代家族像 3 教育対象としての助成 第5章 家庭から政治へ 1 女性委員の登用 2 消費経済への女性の動員 3 家庭教育への女性の動員 4 参政権をめぐる議論 |
現代に生きるわたしたちにとって、家庭は自明の存在である。多くの人は、家庭という言葉を聞くと、ごく当たり前のこととして、社会や国家とは一線を画したプライベートな時間や空間のことを考えるだろう。場合によっては、「男は仕事、女は家庭」という性別役割観にのっとって、家庭は女性に深く関わる場であると考える人もいるかもしれない。あるいはまた、家庭は子どもを育む空間であるとともに、一日の労働を癒す場でもあり、情愛や安らぎに満ちた情緒性あふれる空間であると考える人も多いだろう。
しかしながら近年における家族史・女性史研究は、このような家庭のあり方は、戦後社会に生まれたものでもなければ、時代を超えた普遍的なものでもないことを明らかにした。家庭は、近代社会に特有のもの、つまり歴史的産物であり、戦前の日本においても存在し、その家庭は新しい家族のあり方として登場してきたものであることが、明らかになっている。
本書はこのような視点を継承しつつ、さらに、家庭と近代国家とがどのような関係にあったのかを論じたものである。なぜなら、家庭が近代という社会に特有のものであるならば、それが近代国家と無関係に存在していたとは、とうてい考えられないからである。 本書では大きく三つのテーマを論じている。一つは、家族にとって近代とは何か、という問題である。すなわち、近代国家の成立は家族のあり方に大きな変化をもたらしたが、それは何だったのかという問題を考えている。
二つには、家庭の形成にどのように国家が関わっていたのか、という問題である。政府は第一次世界大戦後、社会教育を通して「よりよき」生活のモデルを提示し、家庭こそが新しい家族のあり方であると啓蒙活動を展開していった。いったいなぜこのような啓蒙活動が行われたのだろうか。そしてそこではどのような家族像が提示されたのだろうか。しかも、この啓蒙活動は女性たちを主たる対象として展開されていった。それはいったいどのようなものだったのだろうか。これらの問題を検討している。
三つには、女性に対して啓蒙活動が行われたことが、女性にいったい何をもたらしたのかという問題である。女性は家庭内存在とされていたがゆえに、社会や国家、あるいは政治とは直接的な関係性をもたないものと考えられていた。しかし、国家が家庭に介入し、家庭のあり方を啓蒙していくということは、女性と国家との間に直接的な関係性が生まれてくるということである。いったいどのような政治的視線が女性に対してなげかけられ、女性たちは国家の政策にどのように関わっていったのだろうか。このことを検討しつつ、女性はいかにして近代国家の国民となるのかという、女性の国民化の問題を論じている。
本書は、これら三つの課題を考察することを通して、家庭の成立に国家が果たした役割や、家庭内存在としての女性や家庭の政治的側面を明らかにしたものである。