岡本 京子
昨年12月22日、仕事納めのちょうど一週間前に、東京乃木坂の日本学術会議講堂で、総理府が主催して『北京行動綱領の実施状況に関する回答に盛り込むべき事項等について聞く会」が開かれた。同時に『少子化への対応を考える有識者会議」についての説明があり、21日に小渕総理に手渡したぱかりという『夢ある家庭づくりや子育てができる社会を築くために」(同会議の提言)が印刷された資料が配られた。◆『聞く会』は『聞かれる会』だった。
日本語はこうして主語が省かれると、とんでもない誤解が生じる場合がある。ということを身をもって体験した。しかし私と同じように、政府が国連に回答する内容を説明するのだと思って参加した人は少なくない。みそは「盛り込むぺき」の「ぺき」であった。自分の早とちりを棚に上げて言わせてもらうなら、またこういった会に不慣れな、地方人の(在京でない)ひがみも交えて言うなら、総理府の案内の仕方には問題がある。トップダウンの役所意識は相手に対して礼を失することもあるのだ。(と、あの場でガツンと言えなかった。)◆名取室長の『ウッソー!』という話
「政府に質問状が来たのが(国連から)11月5日のことです。4月30日までに報告しなければならないので、どうぞご意見を出して下さい。今ここで出ないようであれぱ、1月12日までにFaxで意見を寄せて下さい。なお、この回答は実質(2000年会議での)日本のレポートとなります。」 (日本のNGOをなめたらあかんで。これからクリスマスも晦日も正月も迎えんならんのに、右手でワーブロ打ちながら左手で鍋かきまわして、やれとでもおっしゃるのでしようか。月曜日に一週間分の下着を持って出勤する(こともある)という霞ヶ関の役人とは意識が違いまっ! 家族的責任を有する大人は、盆暮れは天下の休日をとる、という真理を貫いて生きてますのや。)◆各NGO代表の意見・質問・要望
出席者は、北京JAC・ソロプチミスト・国際女性の地位協会などの各NGOの代表の他、学会関係の人も含め70人ほど で、後で分かったのだが、なぜか地方自治体の関係機関には案内が届かなかったらしい。しかしこの日、具体的に「盛り込むべき事項」を準備してきている所はなかった。(だって、「では意児をどうぞ」と言われてしぱらく会場はシィーンだったモン。)数分の沈黙の後、以下のような一つの『べき」と、いくつかの質問・要望が出された。
- *95年当時、国内ではほとんど認識されていなかった「女児」に関する問題について、DVへの取り組みが活発化する中 で認識されるようになった。
- *回答に盛り込む具体的な「数値」については行政が出すのだろうが、もうできているのか?
- A. 1996年に作った「2000年ブラン」は国際的にも成果として認められている。また、「現状と施策」は白書の性格を持っもので、「2000年ブラン」のフォローアッブとなっている。(答になっでないが、つまりこれらの資料を基にして書くということらしい。)
- *4月に(国連に)書類を送る前に、私たち(NGO)の手元にその最終報告書は届けてもらえるのか?
- A. 日程日に無理だ。(場内、ため息!)
- *国連で毎年出ている「合意結論」については、どう扱っているのか?
- A. 拘束力のあるものとは思っていない。今回の回答には「ナイロビ」と「北京」のフォローアッブの取り組みについてのみ書く。
- *(北京では)政府代表団の団長(主席代表)は男性(内閣官房長官野中浩賢氏)だったが、次回は(2000年)女性にして欲しい。また活躍しているNGOから人を加えて欲しい。
- *学校での家庭科の共修は93年から実施していることになっているが、実態はというと…内容を考えていかなければならない。
- *今回の【新学習指導要領】には、まったく取り入れられていない。(『ジェンダーフリー』などの)言葉としても、ひと言も触れられていないのはなぜか?政府の重点政策だというなら、そんなことになるはずがない。「縦割り行政」のせいなのか?文部省には優先的にこの問題を盛り込むぺきという考えはないのか?
- ・【小学校と中学校については、98年12月14日、文部省告示が公示された。全面実施は2002年。高等学校については3月までに告示される予定で、2003年新入生から順次実施となる。これに伴い、教育課程の墓本的枠組みが大幅に変わる。目玉は「総合的な学習」の時聞が中学校でいえぱ年間70〜130時聞組み込まれたこと。同時に週5日制が完全実施となるので、今までの各教科の時間数は大幅に削減され、例えぱ中学校技術家庭科は現行2/2/3(各学年週単位時間数)が2/2/1に、国語は5/4/4が4/3/3となる。これにあわせた教科書の編集が、まさに現在進行中です。】
- *意志決定機関における女性の割合について、「北京」での目標は30%だったのを、「ブラン」では2000年までに20%という値にした。現在その20%を越えたらしいが、どういう報告をするのか?
- A. 国の審議会での女性の割合は、まだ(9月末で)18.3%だ。平成12年度までに20%を越えたい。
- *この分野については、遅れている理由をどう書くのか?この国の男性の伝統的な意識の改革をどうするのか、という問題だと思う。
- *(国連への回答について)是非、事前に皆で協議するぺきだ。そうしないと安易なレポートになってしまう虞がある。
- *国の審議会でのうんぬんという話が出たが、官僚より一般の女性たちが苦しんでいるのが現状だ。
- *企業の中のこともしっかりレポートして欲しい。企業内では賃金格差はむしろ広がっている。政府の出すレポートにはいつもカウンターレポートを出さなくてはならない。
- *(ジュネーブの)「子どもの権利条約」の問題では政府と民間のレポートがあまりに違っていた。そいういことにならないようにして欲しい。
- *NGOの横のつながりができる場がほしい。今回も、どこがどんな意見を出したか知らせて欲しい。
- *省庁もどこがどうたいへんなのか知らせてほしい。(省庁の感度の鈍さ?)
- *「カイロ十5」も来年(1999年)ある。そのレポートを各省庁は作っているはずだ。それらの「日本のレポート」を集めて検討して欲しい。
- *女子差別倣廃条約に【個人通報制度】を取り入れる運動が出ている。1999年3月のCSW(国連婦人の地位委員会)で作られる予定だ。そうしたら、日本も批准して欲しい。
- ・【国内的救済手段を尽くしても救済されない権利を、女性が直接CEDAW(女子差別倣廃委員会)に手紙を出して訴えることができるというもの】
- ◆「絵に書いた餅」提言
- 「少子化への対応を考える有識者会議」の出した提言について、内閣審議官から説明があった。以下はその要点。
- ★この会は、98年6月に出された厚生白書の1.39%(合計特殊出生率)の報告を見た閣僚から、中でも特に橋本総理からの強い要請で、同年7月17日に発足した会。
- ★初の試みとして一般公募の委員を加えた(291名の応募)。理由は、あらゆる分野の人から実体験に基づいた意見を出してもらうため。(子ども連れの委貞が選出された場合を想定して、永田町で保育所探しまでしたそうだ。役だったのかな?)
- ★少子化の問題はひと言でいえぱ、環境整備にかかっていると認識している。
- ★これだけの内容を一つひとつ法制化していくには何十年もの月日がかかる。それよりも、各担当主体が個別に検討して欲しいと思い、(各担当主体を)項目ごとに[]を付けて示した。
- 21日に出席した大臣は熱心に提言に目を通した後それぞれ次のように言ったそうだ。
- ★労働・厚生大臣:「できる施策をやる。」、建設大臣:「ゆとりある住空間・町づくりをやる。」、通産大臣:「明るい未来が築けるようにやる。」、文部大臣:「中教審で、少子化への取り組みを考え始めている。」
- 最後に、説明した内閣審議官が「少子化の問題というのは「女性たちがようやく‘産まない権利’を行使できるようになった」ということだと思う。」また「これからの未来においては‘産む権利’と‘産まない権利’が同等にあって選ぺるようになるといい。jと私見を述ぺた。会場から、「’絵に描いた餅’で終わらぬように」と檄が飛んだ。
- この提言はA4版14ぺ一ジに150項目を越える施策がぎっしりと諸まった、まさに「夢の提言」となっている。本当にこれらがすべて、いやこの中の半分でも実施されたら、どんなにか生きやすい社会になるだろう。私ならずとも、誰もそんなことを本気で期待はしないだろうけれど、一つだけ。感心したのは、これに記載された「基本的な留意点」の事項だ。当時の橋本総理がこの3点をとても強調していたと聞いて少しほっとした思いだ。以下に紹介する。
- ●結婚や出産は当事者の自由な選択に委ねられるものであり、社会が個人に対し押しつけてはいけない。
- ●少子化が進めぱ労働人口の減少と高齢者比率の上昇や市場規模の縮小などを通じ、経済成長へのマイナス効果や市域社会の活力低下が懸念されるなど、将来の国民に深刻な影響を及ぼす。安易な楽観論はふさわしくない。
- ●出生率昇のためには女性が家庭に戻れぱ良いとするのほ非現実的。易女共同参画社会の理念に反するとともに、労働力人口が減少に転じる見通しの中で、女性の就労機会を制限することは不適切・不合理である。