足りる話・足りない話

  −鶴岡市水道の地下水量は限界か?−

    環境カウンセラー  桑原 英夫

 鶴岡市水道が、水源を月山ダムに頼ることになる2001年を前に、「おいしい地下水」を守りたいと願う市民の動きが広がっています。一方、そのように願いながらも、「地下水量が限界に近づいている」という度重なる市の宣伝を信じ、あきらめている人も少なくないようです。地下水量が限界に近づいているというのは本当なのでしょうか。

 鶴岡市水道は、1975年から1980年にかけて、第三期拡張事業が行われました。その際、水源計画の安全性を確認するための調査を、当時の東海大学教授・柴崎達雄先生に依頼しました。
 先生は、1977〜79年の3年間をかけて、綿密な調査結果に基づくコンピューター・シミュレーションを行い、1日量で52,700 m3の計画揚水案を示されました。さらに、水源地が属する地下水区880 haに対する持続性補給量は、1日に25万m3程度あり、計画揚水案が最大52,700 m3であることから、持続性補給量は十分にあると結論されました。ちなみに、1998年度の実績1日最大給水量は50,183 m3です。つまり、現在程度の水の使い方ならば、水源地のある地下水区には、持続的に補給される十分な水量があるのです。
 「水」は足りるのです。

 では、なぜ鶴岡市は、「取水が困難になった」というのでしょうか。
 どんな施設でも、造っただけで、いつまでも使えるものはありません。機能を維持するためには、手を加え続けなければなりません。
 鶴岡市水道の地下水源施設は、1980年9月に「庄内広域水道計画」を市議会が承認して以来、広域水道移行までの「つなぎ」としての取り扱いしか受けていないのです。したがって、十分な手入れが加えられていません。機能が落ちて当然でしょう。井戸の老朽化と地下水の枯渇とは別問題です。
 さらに重要な問題は、鶴岡市が、「地下水保全」のための努力をしていないことです。
 柴崎先生は、『報告書』の中で、「地下水の乱開発による障害の発生を未然に防止し、市民の生活用水を安定確保するため、良質・低廉な地下水資源は、できるかぎり上水道水源として優先させるべきである」として、鶴岡市域を5地域に分け、それぞれの地域での地下水利用のあり方を示されました。
 中でも、水道水源地を含む地域は、「第1種上水道水源保全地域」として、次のような厳しい条件を付けました。
 @他用水のための水源井は、既存のものを除いて原則として新設を禁止する。
 A地域内での地表水の水質悪化を招くような行為(たとえば、汚水のたれ流し、廃棄物の投棄または処理など)は認めない。
 B水源地上流部での砂利採取は好ましいものではない。何らかの規制が必要となろう。
 そして、「水源保全地域の設定は、急を要するものがある」という言葉で、『報告書』を結んでいます。
 しかし、鶴岡市は、この「提言」の存在すら忘れているようです。先ごろ、学校給食などの残飯を豚の飼料にする「エコピッグリサイクル運動」の実験施設を、水源地の近くに設置しようとして、地区住民の反対に遭い、計画を撤回した事件がありました。
 鶴岡市には、貴重な「おいしい地下水」を守ろうとする「心」が足りないのです。