「おいしい水・安全な水」の話
環境カウンセラー 桑 原 英 夫
わが国では、現在、約300種もの「ミネラルウォーター」が流通しているそうです。ある雑誌が、これらの中から水源や成分がしっかりしていて、信頼できると思われるものを選んで、「ミネラルウォーター・カタログ45種」というのを掲載しています。
この45種のうち、原水が国産のものが16銘柄あります。産地は北海道から鹿児島県にまで及んでいますが、そのすべてが「地下水」です。このことからもわかるように、「おいしい、安全な水」は、地下水にとどめを刺すのです。
羽黒町の赤川河畔に工場のある製菓会社が売り出している「天然名水・出羽三山の水」も、この16銘柄の中に入っています。そして、この工場の対岸にあるのが、鶴岡市水道の水源地です。
地下水は、地表からしみ込んだ水が、土壌でろ過・浄化されて、細菌や不純物が取り除かれ、有機物も大部分が分解・除去されている、衛生的に最も安全な水です。しかも、地層中のミネラルがほどほどに溶け込んでいる、おいしい水が多いのです。
この地下水を汲み上げ、法律で義務づけられている最少限の塩素を加えただけで給水しているのが現在の鶴岡市の水道です。まさに、第一級の水道水なのです。
月山ダムの水について、『広報つるおか(1998.6.1)』には、「梵字川は平成8年度に県が行った水質調査で、水源の川の中で「きれいな川」の第1位になっています。今の鶴岡の地下水と比べて、有機物等が若干多く、夏に水温が高くなることを除いては、大変良質な水です」とあります。
これは事実です。雨が降らないときの谷川の水は、流れ下る途中で、木の葉や腐植、生物の影響などで有機物が加わりますが、本来は湧水が集まった良質な水です。
しかし、雨が降ると様子が変わります。雨水が、流域の地表に溜まっている、さまざまな物質を洗い流してきます。さらに、土砂を流してきます。雨が降ると川の水が濁るというのがこれです。つまり、川の水は、状況によって水質が変化するのです。平成8年度の県の調査で、「きれいな川」の第1位だった梵字川(立岩橋地点)も、平成10年度の県の調査では、最上川下流(両羽橋地点)の水と同程度の水質になってしまっています。加えて、流れている川の水と、ダムによって貯えられた水とでは、水質が変化する例が多いのです。
しかし、何といっても最大の問題は、その浄水方法です。「庄内南部広域水道」は「急速ろ過法」を用いることになっています。急速ろ過法とは、一口でいえば、原水を薬品の力で浄化する方法です。
ここで、寒河江ダムの水を急速ろ過法で浄水している「村山広域水道」と、汲み上げた地下水を消毒するだけで給水している鶴岡市水道とで、使用している薬品がどれほど違うかを、『平成9年度水道統計』所載の数字でお目にかけましょう。
平成9年度、村山広域水道の年間浄水量は3,122万m3ですが、これに使った薬品は次の通りです。
前処理および後処理(消毒)剤:次亜塩素酸ナトリウム 357.02 ton
凝集剤:ポリ塩化アルミニウム 843.98 ton
アルカリ剤:カセイソーダ 292.16 ton
一方、鶴岡市水道の年間浄水量は、前者のほぼ半分の1,553万m3。使った薬品は消毒剤だけで、浄水1m3当たりの使用量は村山広域水道のそれの約4分の1に過ぎません。
消毒剤:次亜塩素酸ナトリウム 46.27 ton
浄水に際して投入された薬品が、そのまま給水される水道水に残留するわけではありませんし、水道水の水質基準には合格しているのですが、その味にはかなりの差が出ましょう。
「おいしい水」と「衛生的に安全な水」とは別のものと考えられるかも知れませんが、実は、おいしい水こそが安全な水なのです。長い人類の歴史の中で、安全な水をおいしいと感じる人だけが生き残ってきたに違いないからです。
緩速濾過法:薬品を使わず、自然の浄化力を使って浄化する方法
おいしい水:湧水や地下水。河川上流の谷川の水
おいしい水は、天然の中で最も衛生的に安全な水である
浄水方法の違い
消毒のみ 20.5%
緩速ろ過 4.0
急速ろ過 75.5
鶴岡市水道(消毒のみ)
年間浄水量15,530千m3
次亜塩素酸ナトリウム 46.272ton
(2.98kg/千m3)
村山広域水道(急速ろ過)
年間浄水量31,221千m3
次亜塩素酸ナトリウム 357.015ton
(11.44kg/千m3)(3.84倍)
凝集剤 ポリ塩化アルミニウム 843.98ton
アルカリ剤 カセイソーダ 292.16