nanumuII

人間への眼差し

ナヌムの家II

姜恵楨（カン・ヘジョン）

　元日本軍「慰安婦」女性の語りに耳を傾ける、または彼女たちの日常を描いた映画を見るといった時、人々はどんな物語を期待してそれらに向き合うのだろうか。辛かった過去の体験、歴史の生き証人としての当事者が今何を望んでいるのか。私たちが一番聞きたがったのは、そういったところだろうか。そして、被害当事者の存在を受け止めたいとの思いから、証言台の上に彼女たちを立たせてきたのは、もう何度になるのだろう。

　だが、私たちが必死になって彼女たちの存在に向き合ったつもりのその場で、私たちは「問題」への理解と共感とはちがった、「人間」への眼差しとふれあいというものを合わせ持ち得ていたのか。そんな問いが、恥ずかしくも心の中にわき起こってくる映画に出会った。

　韓国のビョン・ヨンジュ監督によるドキュメンタリー「ナヌムの家II」である。９５年に完成し、日本でも大きな反響を呼んだ「ナヌムの家」の続編であるこの作品は、前作の完成後、「次の映画を撮ろう」というハルモニたちの誘いに応える形で製作された。そういった経過を耳にするまでもなく、「人間としての私たちを、丸ごと見て欲しい」というハルモニたちの強烈な自己アピールがカットごとに滲み出ており、泣いたり笑ったりしているうち、上映七一分があっという間に過ぎてしまう。

　五〇年もの間、自らの一生を恥じてきた女性たちが、最期をいつ迎えてもおかしくない年齢で語りを始めた。そして、自己表現の喜びを知った。そんな時、人間はこれほどまでに輝かしい存在になり得るのかと、とことん感じさせてくれる映画なのだ。

　この人たちは、集会の証言やマスコミ報道を通して私たちが接してきたハルモニたちと同じ人物なのかと思わせるような、お茶目な表情がそこにはある。働き者のハルモニもいれば、食べている時こそ極楽だというハルモニ。家の運営をめぐって会議もすれば、些細なことでケンカもする。「体が臭うと男が逃げる」と大声を出す人や、男とのケンカの仕方をコーチする人もいる。また、お酒が入れば陽気に歌うが、友の死を前に自らの生も死と隣り合わせであることに恐怖する。

　深い信頼を得た者の前でこそさらけ出せる、ありのままの喜怒哀楽を、カメラは確実にとらえていた。だが映画は、こんな様々な横顔から溢れんばかりの魅力を感じさせる彼女たちの体と心に、あの間違った時代に、そして今もなお、同じ痛みが走っていることを忘れさせない。映像の中のハルモニたちが見せる涙と笑いに捕らわれながらも、一人一人の個性が豊かであるが故に、彼女たちが背負っている共通の「痛み」のことが頭を離れないとは、なんと腹立たしい逆説なのだろう。

　ハルモニたちは創造的な意志で自らの生を転換し、春の大地に新たな種をまいていた。

　持ちうる感性を全開にした多くの人が、このすがすがしい「癒しの物語」の前に立ち、ハルモニたちの魅力にたっぷりと身を任せて欲しいと願う。そうした後の余韻が深ければ深いほど、性暴力の実態を告げるラストの字幕は、ハルモニたちの存在と同じ重さを持って、この時代の現実を私たちに厳しく問いかけてくるであろう。

　　　　　　　　　初出：「民権協ニュース」