ワークショップ「バファバファ」報告
6月13日、ユニセフクラブ新観合宿2日目に行ったワークショップ、異文化交流ゲーム「バファバファ」の報告です。参加者は14人、例のごとく昨夜の飲み会で疲れ果てた状態でのワークショップでした。
2つの文化を設定し、擬似的に異文化に遭遇する状況を作り出す事で、自分と異なる文化への感じ方、行動を振り返り、異文化間の交流のあり方を考えることが目的です。
参加者にα国、β国の2つのグループに分かれてもらい、それぞれ別の部屋でカード交換のゲームをしてもらいます。
両国にはそれぞれ以下のようなルールを説明します。
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α国 |
β国 |
目的 |
楽しむ |
カードを色ごとにそろえる |
雰囲気 |
明るい |
競争的 |
カード交換 |
αじゃんけんによるかけ |
一定のルールによる交換 |
カードの枚数 |
女王様からいくらでももらえる |
常に一定 |
言葉 |
日本語。お世辞や笑いが絶えない |
β国語。カード交換時以外は無口 |
このルールにしたがってしばらくカード交換をしてもらった後、一人ずつ観察者を他国に派遣、帰国後見たことと印象などを報告してもらい、その後グループの3分の1ずつ訪問団を出し合います。ここで違う文化に遭遇したときどのような行動をするか、どのように感じたかを後でシェアリングします。
以下の経過説明は、α国分は福田、β国分はβ国ファシリテーターの石原によるものです。
●カード交換
カード交換よりも「お世辞を言う」方に注目が集まっていた。歯の浮くようなお世辞をぺらぺらとしゃべれる人、よくよく考えたらあまりいつもと変わらない人(いつもから人のことをよく言う)… 全体的に(徹夜明けのせいもあって)ハイになっていて、後半はずいぶん疲れていた。私自身は女王様役で、一方的にお世辞を言われる立場だったのでずいぶん気持ちよかった?
●観察者の派遣
β国の観察者の原田くんは、部屋に足を踏み入れるなり(α国人との遊びに飽きた?)みんなに取り囲まれ、お世辞を言われたりかけを申し入れられたりで、大変恐れた様子で帰っていった。α国の人たちは「善意でしているのに…」とちょっと残念そう。
●訪問団の交換
訪問団がやってくるころには、観察者石川くんの報告もあり、だんだんとβ国の様子が分かってきたこともあって、積極的にこちらからかけのルールを説明しようとする人たちも出てきた。また、β国の人たちが欲しがっているカードを気前よく渡していた人が多かった。ただ、あくまでこちらのルールを説明しようというだけで、向こうのカード交換のルールを学ぼうという気はあまりないようだった。やはり少数者が多数者に合わせるしかないのだろうか。
●ルール説明
β国はα国に比べ、固くまじめなので、私はルール説明のときから厳しい雰囲気で進めようとした。そのとき、α国から笑い声が聞こえてきて、β国の人は「ああ、むこうは楽しそうだな」と思っていたかもしれない。
●カード交換
カードの交換はβ語のみを使って行われるので、α国の笑い声が聞こえる中、β国は異様に重苦しい(疲れた?)雰囲気の中、たんたんとカードの交換が続けられた。参加者は、「この後いったいどうなるのだろう」と思っていたのかも。一方、その時、私としてはなかなか同じ色のカードがそろう人が出てこないので、心配していた。参加者は、カードを交換する相手に、自分の持っているカードを親切にも見せていた。やさしい人が多かったのか。
●観察者の派遣
その後、α国人(石川くん)が来た。β国人が、α国人がβ語やカード交換のルールを理解していないことを利用して、α国人のカードをうばい取るのではないかというのが、私の予想であった。しかし、β国人は、一方的に自分の欲しいカードをもらうということはせず、必ず自分のカードも相手に渡していた。さらに、α国人のルールに答えようとする人もいた。「β国人になりきっていないぞ」と私は思い、途中で「相手がもたもたしてたら、積極的に交換してもいいです」など、いろいろ補足を入れてしまった。そのため、私が銀行の役割であるというよりも、ルール説明者として参加者に思われたようだった。それに、β語しか使えない国なのに、銀行役の私は日本語をしゃべり、それを他のβ国人も理解するということも、矛盾していると言えないこともない。
さらに、今度は逆に、β国から原田くんがα国を訪問した。原田くんはβ国に帰ってきて報告したが、一生懸命β国人の価値観でα国人を評価しようとしていた。
ここに、このワークショップと現実の異文化体験との違いがあるような気がした。まったくの異文化に一人で行った場合、その人も、受け入れる先の文化の人も、自分の属している文化が普遍ではないと、理性ではわかっていることが多い。しかし、「それぐらい常識だよ」という言葉に表されるように、実際は気づかないうちに自分の文化を普遍的なものと感じている。あるいは、自分の文化を文化として意識していないと言うべきか。
本当にまったく制度も文化も言葉も異なる、α国とβ国があったとるす。β国人がα国に行った場合、その人は本気で、「α国人は野蛮だ」と思う可能性が高い。(笑うことがよくないとされるβ国で育った人が、よく笑うα国に行ったときに、α国の明るい雰囲気に好印象を持つことも、ありうるとは思うが。)さらに、この人がβ国に帰ってきて、報告することで、α国人は野蛮であるというイメージが、β国人に広がるだろう。しかし、このゲームではβ国人が本気で、そう思うことはないだろう。これがゲームであるという前提は、そう忘れられるものではないからだ。
逆に、α国人がβ国に来た場合、β国人は、カード交換のルールは常識だろうと考え、α国人に一方的にβ国のカード交換のルールを適用するかもしれない。特に競争社会であるβ国では、α国人からカードを騙し取っても、「ルールを理解していないのに、β国に来るから悪いんだ」と考えてしまうのではないか。
現在、一国に一つの文化ということはないし、文化というもの自体を定義するのもむずかしい。一国に複数の文化が存在する場合は、さらにマジョリティがマイノリティに「常識」を当てはめがちである。α国人がβ国にきても、β国人は「この人は外国人だから、私たちのルールは通用しない」と考え、相手のルールを理解しようとする可能性は比較的大きい。しかし、α国人がβ国でマイノリティとして生活する場合は、α国人はβ国の常識を適用されてしまうのではないか。それに、この場合、α国人はβ国人にとって競争相手であり、相手がβ国のルールを知らないことをいいことに、α国人を利用することもある。
●訪問団の交換
その後、β国内にカードをそろえて金持ちになったものほど、カードの交換で優先権があるというルールがいつのまにか出来上がってきた。中には、α国に行って、たくさんカードをそろえて帰ってきて、急に他のβ国人よりお金持ちになった人もいた。これらは、設定されていたルールにはなかったので、面白かった。
[α国]
・β国に行くと向こうの人に喜んでもらうのがとても難しかったので苦労した。
・こちらがあれだけ善意でやさしく接しているのに、その結果お互いのルールを全く分かり合えなかったというのは、(現実に置き換えてみたときに)ショック。
・マイノリティーの立場に立たされると、本来の性質を発揮できないものだなぁと感じました。
・相手の文化が分からないと、こちらの歓迎したいという気持ちをうまく伝えられず困った。結局こちらのやり方を押し付けてしまったけれど、それは相手を不安がらせるばかりだったようだ。
[β国]
・相手国に行って、ルールを知らせてくれるのはとても親切だと感じた。知らないところに行ったとき笑顔でフレンドリーというのは、無関心を装っている対応よりずっと嬉しい。
・外国人が日本で固まって生活するのがわかる気がした。
・β国の自分がα国に行ったとき、みんなの歓迎ムードに戸惑った。相手側のルールが分からないと、相手の気持ちを正確に把握できないとわかった。
ゲームとしてはなかなかよくできている。ぜひ私もα国人かβ国人をやってみたかった。それに、もっと人数が多く、みんな元気なときにできたらよかった。
(いしはらまさえ)
・なんにせよ、徹夜明けでファシリテーターをするのはしんどい。自分のテンションをファシリテーションできるレベルまで持ってくるのに一苦労した。次回は精神的・肉体的に余裕があるときにやりたい。
・β国の番号付カードが、α国に入ってきた当初は貴重品として珍しがられていたのに、すぐにたくさん出回るようになって、価値を失っていく過程が興味深かった。
・どうしてもマジョリティー側がマイノリティーに自らの文化を押し付ける形になるのはやむを得ないのだろうか。
・振り返りで、α国とβ国どっちがいいと思うかと聞いたとき、「目的がある分β国のほうがいい」という意見が大勢を占めていたのが新鮮だった。私自身はこのワークを体験するのは3回目だが、今までは「α国のほうが楽しくてよさそう」という反応が多かったのに比べると実に印象的。何につけても競争したがりの京大生特有の反応なのか。「人より早くカードをそろえる」という目的意識が与えられていたほうが楽しめるのは若干寂しくも思う。
・多くの人が、振り返りや感想シートで「相手の文化が分からないと分かり合えない」ことを指摘していた。私もフィリピンに初めて行ったときは、そんな経験だらけでびっくりした覚えがある。今バイト先で私よりずっと年上の中国人留学生に指示を出す立場にあるのだが、私の(仕事に厳しく、年上にも厳しい)やり方は彼にどう思われているのだろうと、ちょっと不安になる。まぁ同じ職場の日本人高校生だって私には外国人並に理解できないが…
・来年の今ごろは初めての外国暮らしをしている事だろうが(希望的観測)、特定の人との親密な人間関係を好む私が、外国人や外国文化にどういう反応を示すのか、不安であると同時に興味深くもある。
直前になって2日目のワークショップを押し付けてくださったことでこのワークを行うきっかけを作ってくれた合宿担当の段原志保さん、そのとばっちりを受けて「明日までにワークショップの資料を下さい」という迷惑な依頼を受けたアジアボランティアセンターの荒川共生さん、忙しい中準備とファシリテートを手伝ってくれた石原正恵さんに感謝します。
(ふくだけんじ)