片田 真志
日雇い労働者・野宿生活者について、ある程度まとまったものを書こうと思っていたが、試験が来るまで何もせず、結局時間的に厳しくなったので、私が参加した調査のことに限定して、主観的な、感想文を書くことにした。調査というのは、昨年夏に行われた、『大阪市における野宿者概数・概況調査』と、それに続いて年始に行われた、『臨時宿泊所入所者への面接調査』である。
前者の結果については、新聞などで報道され、知っている人もいると思うが、市内だけで、野宿生活者数は8660人に上った。その数は予想を大きく上回り、同時に野宿生活者は釜ヶ埼を中心に、大阪市ほぼ全域に広がって生活を営んでいることが明らかになった。私自身が何をやったかというと、深夜に割り当てられた範囲の道という道を、自転車でくまなく回り、見つけた野宿生活者の数とそれぞれの宿泊状況を記録するということであった。閉店したガソリンスタンドに50人以上の人が何も敷かずに寝ていたり、大きな公園に廃棄車やブルーシートで作られたテントが隙間なく並んでいたり、マンションのゴミ捨て場で、ダンボールや金属を集めていたり・・・。昼には何度も行ったことがあり、話にも聞いていた私も、実際に見たその夜の姿は驚かされることだらけだった。
その調査の責任者であった、大阪市立大学の島教授を父に紹介してもらい、次回の聞き取り調査にも参加させて欲しいと頼んで、臨時宿泊所(以下、臨泊と略)での調査にも加わることができた。臨泊とは、大阪市が毎冬設置している、市内の野宿生活者のための、宿泊施設で、今年は12月30日から1月7日まで南港に設置され、2700人が利用した。事務担当者の話では、女性利用者は一人もおらず、最も若い人は28歳だったらしい。
施設では、市の職員と学生アルバイトが掃除や弁当の支給などをしており、施設利用者は、テレビを見たり、本を読んだり、おしゃべりをしたり、散歩をしたり、煙草を吸ったり、風呂に入ったりと、それぞれが好きなことをしていた。宿泊所から出ることもできたが、所内での飲酒は禁じられていた。何でもおいしいという私だが、ここで出た弁当はまずかった。
元日から行われた聞き取り調査は、あらかじめサンプリングされた人のベッドまで行き、調査の依頼を受けてもらえれば、30分程度の聞き取りを行うものだった。予想以上に、調査依頼を受けてくれる人が多く、中には自分から「俺の話を聞いてくれ」と言ってくる人もいた。ふだんの生活で極端にコミュニケーションのない人が多いためか、歩いていると、挨拶を頻繁に受けた。
質問事項は、昨年12月の就労日数・野宿日数から始まり、野宿するに至った理由、野宿場所、現在の健康状態、職探しをしているか否か、最終学歴、初職、日雇い労働の経験の有無、最近5年間の大まかな生活状況、貯蓄の有無、家族との連絡の有無、臨泊出所後の予定等など多岐に及んだ。質問事項以外のことも話してくれる人もいて、中には、「寝ていたら、毛布に火をつけられた」と訴える人もいて、うーんひどいな、と思いながらも何も言えなかった。後で父に聞いた話によると、今ではましになったが、少し前までは、酔っ払いが憂さ晴らしに、ホームレス(ここでは敢えてホームレスと呼ぶ)を殴ったり、襲ったりするのは日常茶飯事だったらしい。
まだ全体の調査結果は集計中なので全体がつかめているわけではないが、私が調査した範囲で感じたことを挙げておく。
やはり野宿生活者には、釜ヶ埼で日雇い労働をしていて、仕事にありつけなくなって野宿をはじめた人が多く、そういう人のほとんどが、昨年4月から突然仕事がなくなった、と言っていた。不況の影響がやはり大きいが、公共事業を含めた建築産業全体が、労働力として日雇い労働者を用いることを避け始めている、と島先生は言っていた。中には、一般企業のサラリーマンをしていてリストラを受けた人もいた。かなりのインテリもいて、面白い本を紹介してくれたりもした。
高齢者が多く、けがや軽度の障害を持つ人もいた。貯蓄のある人はやはりなく、家族と連絡をとっている人もいなかった。(宿泊施設内には、家族からの人探しの掲示がいくらか出ていた。)これまた父の話によると、凍死者や事故で死亡した人には、どこから知ったのか、家族が現れることが少なくないらしい。臨泊出所後は、全員が野宿に戻るしかないと答えていた。
国内での南北問題は、ユニセフクラブの活動範囲から外れているのは確かだ。が、私は幼い頃釜ヶ埼で暮らし、そこで働く父の話を聞いて育った。さらに、好む好まざるに関わらず日本という行政組織を支える一員である。どうやら私はこの問題に目を背けて暮らしていけそうにない。いくら帰属意識が薄いといっても、実際の距離が想像力を阻むことは確かであり、アフリカの飢餓以上にこの問題は私に近い。どのように関わっていけるかは、まだ分からないが、今のところは現状の正確な情報をより多くの人に伝えたいと思っている。
この寒空の下、一体彼らはどこで眠りについているのか・・・。
今回は、参加した調査の感想のみに留まりましたが、近いうちに、統計なども用いて、日雇い労働者と野外生活者についてのちゃんとした文章を書くつもりです。どうぞ、お楽しみに。