京大ユニセフクラブ2002年度11月祭研究発表
「水家族」
1 日本の工業用水について
第2章 工業用水(文責:高垣)
水は人の生活と農業、産業を支えるために利用されていますが、ここでは産業で用いられる水、つまり工業用水について取り上げます。日本において工業用水の利用は、産業の発展と同じく明治初期から始まりました。しかし、工業用水が統計として現れるのは戦後1958年のことでした。工業用水管理の重要性に気付いた通産省が、従業員30名以上の製造業を対象に調査をはじめたのです。通産省の「工業統計表」の中で水に関して最も代表的で重要な資料は「業種別淡水使用量の推移(表1)」と「業種別回収率の推移(表2)」です。表1からは水を必要としているのが鉄鋼業・製紙業・化学工業であることが分かります。また、表2からは鉄鋼業・輸送機器産業・石油製品製造業が約90%という高い回収率を誇っていることが分かります。全産業を通して工業用水の回収率は約80%であり、これは同じ水が4回使い回されることを意味しています。
さて、今度は日本の工業用水の特徴を考えてみましょう。日本における工業用水の水源として最も重要なのは地下水です。これは、日本の地下水が他国よりも豊かであることもひとつの理由ですが、工業が発展してきた過程において、地表水は伝統的にほとんど農業用と民生用の灌漑用水として割り振られていたことも関係しています。そのため、工業のために使える地表水は量が少なく、大規模に地下水をくみ上げる動機付けともなったようです。また、もうひとつの特徴としては、国や地方自治体によって工業用水道が完備されていることです。工業用水道から供給される水は飲み水ほど浄化されていないため、一立方メートルあたり約25円(上水道は同約150円)と割安です。そのためか、近年工業用水の渇水はあまり起こっていません。工業用水道がまったく存在しないアメリカやヨーロッパ工業諸国とは対照的です。
ところで、工業用水とはどのような使われ方をしている水なのでしょうか?「工業用水の用途別使用割合(グラフ1)」からお分かりのように、冷却に使われいる割合が約70%もあり大半を占めています。表中の「製品処理」用の水とは製紙業等で紙を作る過程で必要となる水などを指しています。また、使用量はわずかですが「ボイラー用水」も重要な役割を果たしています。これは、火力発電所や原子力発電所で使われている水です。冷却用水が熱を伝えるために使われている水ならば、ボイラー用水はエネルギーを伝えるために使われているとも言えるかもしれません。
(グラフ1)
また、ここでは大きく触れませんでしたが、歴史的に工業用水が人々の生活を脅かした例はたくさんあります。足尾銅山鉱毒事件や水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病は工業排水を適切に処理しなかったことが主だった原因です。生活に必要な産業と上手く付き合っていくために排水の処理はとても重要な問題だと言えるでしょう。