京大ユニセフクラブ2002年度11月祭研究発表
「水家族」
2 水の民営化
第5章 水の将来(文責:佐藤)
世界的に水が不足するだろうと言われている今、水を効率よく使うために、水道事業の民営化が進められています。公的事業体の非効率性を民営化によって解消し、さらに合理的に水を使おうというものです。しかし、水道事業は従来、その極めて高い公共性から自治体などの公的な事業体がその事業を担ってきました。そのため人間の命に直接関わる水が、営利団体によって供給されてよいのかという不安もあります。私たちの暮らしに欠かせない水道はこれからどうなっていくのでしょうか。
2−1 発展途上国における水の民営化
発展途上国では水道の民営化はいろいろなところで行われ、大規模なものだけでもアジア・太平洋地域で55件、アフリカ・中東地域で13件の民営化事例が存在します。途上国において公共水道の民営化が進められる理由として、公共水道の非合理性が挙げられます。途上国では多くの場合、水道管を流れる水が途中で漏れたり盗まれたりして、ひどいところでは半分の水が失われていると言われています。その理由は、古い水道管を新しくする資金の不足や、料金徴収や水道の修理など職員のきめ細やかな対応がなされていないことなどです。また、インフラ整備の点からも民営化は注目されています。水道のインフラ整備を民間企業に任せてしまおうというもので、資金不足に悩む途上国で水道の整備が進むのではないかと期待されています。
世界銀行やIMF(国際通貨基金)も水道の民営化を推し進めています。途上国の中には世銀などから借金をしている国が多くあり、その額は近年膨大になっています。そのような国に対し、世銀やIMFは政府の支出を減らし債務返済を進めるために構造調整政策を進めていますが、その中に水道などの公営事業の民営化も含まれているのです。
しかし公共性の高い水道を民間に任せることには当然問題が出てきます。まず、事業者の経営状態が安定的であり続けるかどうか懸念されます。水道という大規模な事業では、政情や経済状況の不安定さなどさまざまなリスクが伴います。政情不安や通貨危機のときに経営状態が悪化し、企業が水道事業から撤退することも考えられます。こうしたときに、人が生きていくのに欠かせない水の供給が止まってしまうこともありえます。
インフラ整備にしても、水道事業が営利目的となる以上、すべての場所のインフラが整備されることはなく、採算の取れるところ以外は見捨てられてしまうでしょう。また民営化後の水道料金の値上げも実際に起こっています。構造調整政策の場合、水道事業にかかる資金はすべて水道料金でまかなうことが求められるため、例えばガーナでは世銀から水道料金を2倍に上げるように要求されています。また他の国からは、水質が悪化したり断水が続いたりしているという報告もあります。
裕福な人々が安全な水を安く手に入れられる一方で、スラムなどに住む貧しい人々は水道が整備されていないために、民間の水販売業者から水道の数十倍の値段で水を購入しています。しかもその水は安全とは言えません。水道が民営化されるとこの状況がさらに悪化する可能性があります。民間企業は貧しい地域のことなど考えないため、そうした地域での水道の整備は進まないでしょう。また今までは水道が使えた人々も料金が上がることで、不衛生な川の水を直接使わざるを得なくなることも考えられます。
現在、途上国の多くの水道事業は先進国の多国籍企業による寡占状態となっていて、世界各国で数億人に水を供給している巨大企業もあります。世界全体で30兆円規模とされる水道事業は大企業にとっては今後も大きな魅力であり、そうしたグローバル企業によって途上国が実質的に支配されるということも起こるでしょう。
2−2 先進国における水の民営化
先進国でも水道事業の民営化は進んでいますが、民営化する意味は途上国の場合とは少し違います。先進国の場合は、経済が成熟期を迎えこれまでほど税収の増加が見込めないため、国の財政支出を抑えるために水道事業も民営化してしまおうというものです。
各国の事例を見ると、イギリスでは1980年代のサッチャー政権時代に行政改革の一環として上下水道が民営化されました。一方、フランスでは19世紀から上下水道が民間の会社に委託されています。最近では民営化の動きがアメリカにも広がりました。
民営化の形態はいろいろあります。現行の公社が民間企業に事業の一部または全部の管理・運営を委託するもの、企業が設備を借り受け資本投資以外の事業に責任を持つもの、資本投資も含めて事業に責任を持つもの、資産も含め全てを売却し完全に民営化するものなどです。契約期間は5〜10年前後、資本投資にも責任を持つ場合は25〜35年になります。イギリスは完全民営化型、フランスは外部委託型です。
2−3 日本の水道は民営化されるか
国の財政状況が厳しくなる中、日本でも世界の動きに合わせて水道事業が近い将来民営化されるかもしれません。現在日本では水道事業は主に市町村が担っています。しかしながら、2002年4月に水道法が改正されました。今でも上水場や下水処理場では管理など業務の一部が民間に委託されている所もありますが、法改正により水道事業の外部委託がさらにしやすい環境が整いました。
水道の民営化の必要性が叫ばれる理由は、やはり現在の水道事業のコスト削減です。現在、日本全体で水道事業の累積赤字は一千億円を超えます。また、下水道普及率は約6割と諸外国と比べて低く、その割合を高める必要がありますが、それには莫大な資金が必要なため、下水道の普及を民間にやってもらうという方策も考えられています。
もし、日本が水道事業を民営化した場合、その形態は民間企業への事業の委託が予想されます。しかし、上下水道合わせて日本の水道事業規模は5兆円と言われ、人口密度が高いこともあり、日本の水道は海外の巨大水道企業にとっても大きな魅力です。そのため、そういった企業が今後日本に入ってくる可能性は十分高いと言えます。
日本の場合、水道を民営化することがよい状況を生むか悪い状況を生むかは、今のところなんとも言えません。しかし水は私たちの暮らしに最も影響を与えるものの一つです。今は水道事業も大きく変わろうとしている時代です。安定的な水の供給を維持するために私たち一人一人がその動向を見守っていく必要があるでしょう