新入生読書会の感想

石川 雄久


1.バナナと日本人(6/3・6/9)

 まずこの本は、バナナという日本人にとって大変なじみの深い食べ物を通して、フィリピン・ネグロス島のバナナ農園の実態を明らかにするとともに、日本とこれらの地域との関係を明らかにしようとした本です。はじめに、バナナに関する基本的な知識と大まかなバナナ輸入の歴史と現在の輸入の状況が書かれていました。バナナと言えばフィリピンというイメージが強いのですが、フィリピン産のバナナが日本の市場を独占するようになったのは1973年からで、それ以前は台湾やエクアドルが市場を占めていたそうです。っていっても1973年は僕らが生まれる前であるから僕のイメージに間違いはなかったのですが…。最初から意外な情報に驚きました。それから、本の1/3ほどを使ってアバカ麻について書かれていたのですが、何のためにそのことについて触れていたのかはっきりとしませんでした。なんだかページかせぎにすぎないような気が…。多国籍企業のミンダナオ島への進出と輸入ルートの独占についての章では、そのあくどさについて様々な面から実証的に説明していましたが、廃棄率計算やCWTからkgへの変換方式にペテンがあるのでは?という部分の説明がはっきりとせずにわかりずらかったです。しかし、企業がフィリピン政府や大地主と結びついて農園を拡大していく様は、戦前の植民地主義的なものを感じざるをえませんでした。そして、この本で最も印象的であった、農園で働く人々についての章では、彼らが過酷な労働条件のもと、低賃金で、時には武力を用いた圧力を受けながら、構造的に農園に縛りつけられて働かさせられている状況が書かれており、農薬による農園労働者への被害や公害輸出とブーメラン現象の問題とともに先進国の側(企業の側)から、真剣になって考え直さなければならない問題だなと思いました。最後の、われわれ日本人が「価格」「栄養価」だけを考える身勝手な消費者のままでいいのか?という問いには、このままではいけないと思いながらも、それはどうしようもないんじゃないかという思いをぬぐいきれず、はっきりとした答えが出せませんでした。僕としては、消費者が「価格」や「栄養価」を考えてものを買うのは当然のことであり、その何も知らない消費者にバナナの背後にある状況への認識を求めるのは無理なことであり、むしろ、バナナ産地の状況を知らせるということが大事であり、消費者にとってはそのようなことを知った後どのような行動をとるかが問題なのではないのかと思うのです。読書会の後、バナナを食べるべきか否かということについてディベートを行ったのですが、やはり結論は出ませんでした。結局一人一人が正しいと思う行動をとるしかないのではないのでしょうか。そして、われわれが何をするべきかということについては、「知る」ということしかないのではないのでしょうか。

2.台所からアジアを見よう バナナ(6/17)

 この本は、僕がはじめてレジュメを担当した本です。発表のときはレジュメの棒読みになってしまって、反省するところが非常に多かったのですが、それだけに印象の強い本です。

 ネグロス島におけるバナナ(バランゴンバナナ)のフェア・トレードの試みの過程をこの本から知りました。フェア・トレードによって流通過程を現地の人たちが取り戻し、日本の生協運動などと結びつき、労働に対する「正当な」対価を安定して手に入れる様子は、現地の人たちの頑張りや活力というものを感じられるとともに、われわれ日本人にとっても「援助」という形以外にもっと対等な形で彼らの生活向上の役に立つことができるのではないか、とわくわくさせられました。そして、病害や虫害を通して、経済的自立の偏重から環境と調和した自立を目指していく様子は、困難に直面しながら正しい方面へと進んでいく人間の本質を感じました。

 しかし、ここでもやはり問題になったのは、「バナナと日本人」のときと同様、日本側(日本の消費者)の姿勢についてでした。この本では「安全性」や「おいしさ」でバランゴンバナナを選ぶ日本人の姿勢(本の中で堀田氏は「優生に立ったもの」といっている)を問題にしていました。僕にとっては、今度の場合は前回の場合(日本人が「価格」と「栄養価」だけを考えてバナナを買うこと)以上に、このことはしょうがないことなんじゃないかな?むしろ、これはこれでいいのじゃないのかな?と感じたのです。確かに、バナナの購買を通じて日本の人たちがバナナの産地で起こっていることを知ることは大切なことだと思うし、すべての人がそうなるにこしたことはないと思うのですが、日本人とフィリピン・ネグロス島の人との「対等な」貿易ということを考えたときに、バナナを作った人がセールスポイントとしている「安全性」と「おいしさ」を買う人がそれを認めて、その商品を正当な値段で買うということはそれはそれですばらしいことなのではないかな?と思ったのです。

3.さいごに

 ユニセフクラブの新入生読書会の前半として、バナナ農園の問題を扱った「バナナと日本人」とその解決策の一つとしてのフェア・トレードを扱った「台所からアジアを見よう バナナ」を読んだわけですけど、共に日本との関係が明確にされていて、単なる第三世界に関する知識の詰め込みとその整理で終わるのでなく、結局は自分の問題として解決しなければいけないな、と感じさせられたのがたいへんよかったです。しかし、その一方で、こういったいわゆる「南北問題」の解決法(対処の仕方)がなかなか見えない点に歯がゆさを感じるとともに、問題の難しさを感じました。

(いしかわ たけひさ)

 

 

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