田岡 直博/福田 健治
1. 学習会の趣旨
例年新歓学習会の最初は「南北問題入門」でしたが、去年の反省で@最初に概論的なことをやるのにどれだけの意味があるのか?A具体的なケースを取り上げることなしに一般的に話すのは無理、という問題提起がなされており、検討した結果、その反省を踏まえて今回は「フィリピン・ネグロス島」の具体例をもとに、「南北問題」という構造の問題について伝えていこうということになりました。
さらに「何が問題となっているのか?」について伝えるだけでなく、「どうすればいいのか?」「ぼくたち/わたしたちに何ができるのか?」まで伝えようということで、具体的に「フェア・トレード」や「PAP21(民衆自立農業創造計画)」という取り組みを取り上げました。
2. 学習会の内容
@ ネグロス島ってどんなとこ?
面積(13300q2)人口(315万人)産業(砂糖産業が盛ん)等の客観的なデータや地図上の位置(ビサヤ諸島の1つ)を示し、スライドを使ってネグロス島の風景を見ることにより、ネグロスに対するおおまかなイメージを思い浮かべてもらった。
A ネグロスで何が起こったのか
1985年に飢餓発生。直接の原因は国際的砂糖価格の暴落(4年間で7分の1)だが、なぜ他の砂糖諸国と違いネグロスだけがそこまでの大被害を受けたのか?
もっと根本的な問題が背景として存在。ネグロスでは70%の人が砂糖に家計を依存しているが、植民地時代から残る大土地所有制によりほとんどの農民は土地を持っていない。アメリカに対する特恵的な砂糖輸出政策とマルコスの砂糖政策も問題。
さらに追い打ちをかけるようにアキノ大統領が全面戦争政策を展開。ゲリラのみならず一般人まで巻き添えになり、大量の国内難民が発生。
B ネグロスを救え!
飢餓が起こった当時のおおまかな状況を把握してもらったところで、何をすればよいかと思うかを話し合ってもらう。援助方法が書かれた10の選択枝に優先順位をつけてもらい、他人のランキングと比較してディスカッション。緊急性の高いもの、農業労働者の自立支援のもの、産業転換をはかるものなどがあり、援助のあり方や多様性について考えてもらう。
具体的な選択枝:「工業化のためのインフラ整備」「農村開発をしているNGO支援」「予防接種」「農業研修」「砂糖、手工芸品等を輸入」「フィリピン政府の政策に反対してODAをストップ」「食糧支援」「農業技術者の派遣」「広報・教育活動」「留学生・研修生の受け入れ」
<議論の内容>
- 「緊急支援とその次に来るやつ、最後に来るやつで分かれるのでは。」「『広報・教育活動』は緊急性が高い。まず知ってもらわないと援助しようにも協力が得られない。」
- 「ODAを止めるのは解決になるの?」「でもミャンマーや天安門事件のときにはやってたやん。」「内政干渉にならないの?」
- 「このNGOがまともかどうかが問題。」「農村開発って何やってるか分からん。」「この時期に地主が作ったNGOにかなりの額のお金が流れ込んだらしい。」
- 「日本は食糧送れるほど自給できるの?」「北朝鮮には米送ってるで。」
- 「『優先』」ていうのが『急ぐ』っていう意味やったら、『食糧支援』や『予防接種』が上に来るはず。」
- 「緊急支援だけでは依存が生まれる。」「今日の米は受け取るが、明日の米は自分で作りたい。」「人に一匹の魚を施せ。そうすれば彼を1日だけ養える。魚の取り方を教えよ。そうすれば彼を一生養える。」
C どうやってつながっていく?フェア・トレード。
実際にどのような援助が行われたかの歴史を見ていく。ネグロスの人たちは「土地」「農業技術・農業資本」「流通経路」の3つから切り離されていた。その流通を自分たちの手に取り戻していくという試みが「フェア・トレード」。フェア・トレードとは向こうで輸出された砂糖・バナナなどを仲買人を通さずに日本に輸入して、生協などを通して販売することにより、現地の生産者に正当な金額が支払われることになり、日本の人も無農薬の安全でおいしい砂糖・バナナなどを食べることができる、という試み。
しかしバナナに病虫害が発生。単一の作物を作りすぎたため。自然環境と共生可能な農業を求めて…。
D PAP21とネグロスのこれから
これまでのプロジェクトがなぜ継続的でなかったのか?
- プロジェクト同士のつながりがなかった。(「規模」の問題)
- NGOではなく住民自身が主体となって考え、実行していく。(「主体」の問題)
- 援助になれてしまっていないか?(「依存」の問題)
バナナの病虫害から学び、循環型社会を目指す試み(PAP21)。
E ネグロスから日本へ、発展途上国へ
持続的な農業、循環型社会ということをいうとき、現在の日本の農業・社会のほうがより問題なのではないか。ネグロスを学ぶことは、日本を学ぶことでもある(発表者自身がそうだった)。
植民地支配による経済のモノカルチャー化、それによる貧困という構造は南北問題の典型例とも言える。ここから何を学ぶことができるか、ネグロス島の経験が他の発展途上国の抱える問題の解決に貢献できるのではないだろうか。
ぼくたちにできることは何だろう?「知ること。伝えること。」ネグロスキャンペーン京都の活動。
3. 反省
事前の準備に関して言えば、とにかく勉強不足、打ち合わせ不足、やる気不足。特に過去の学習会との違いや、南北問題入門としての意味合い、自分が何を伝えたいのかということについて漠然としか考えられていなかった。
学習会では、ぼくのしゃべり方がゆっくりすぎたし、レジュメで話す内容ををまとめてしまったためジュメの棒読みになってしまった。このことからも、事前に内部学習会を行った方がよかったと思う。学習会のおおまかな流れはよかったと思うが、ディスカッションではもっとうまくみんなの意見を引き出したかった。「南北問題入門」として見ると、もっと構造的なこと、日本と途上国の関わり、自分たちとの関わりの部分に時間を割いた方がよかったと思う。
この学習会では今まで自分が持っていた知識のあいまいさを再確認させられた。また、それ以上に自分がこの学習会で何を伝えたいのか、自分がユニセフクラブの活動を続けていく上での明確な信念を持っているのか、その活動の中で学習会というのはどのような位置づけになるのか、ということについて考えさせられた。ぼくにとって主体的に関わった初めての学習会であり、いい経験になったと思う。福田さんにはどうしても頼りがちになってしまったが、その都度やさしく突き放してくれたことに感謝したい。(田岡)
去年山田さんと行った「南北問題入門」の反省をもとに今回の学習会の内容を考えたのだが、そのあたりの田岡くんとのギャップがいささかあったようではある。狙いが成功したかどうかはいささか心許ないが、少なくとも1回生により具体的な問題を考えてもらうことができたという点では評価してよいと思う。ただ、1回生の人数が少なかったのが残念だ。
個人的なことを言えば、もう何度も話しつづけていることなので、いまさら準備も、と思いながら用意をしていたことは、田岡くんに申し訳なかったかもしれない。話しつづけていると、何を話せば伝わるのか分からなくなってくる、というのは森林破壊の学習会を担当していた河野くんと意見が一致したところだ。
オルタナティブな学習会を、という事を言い出して1年半ほどになる。様々な試行錯誤をくり返してきたが、「これだ」という手応えはまだ感じられない。「伝え方」という最も基本的なことだけに、これからも考えつづけていかなければならないのだろうが、予備知識がない状態から始めて内容部分から調べあげるような学習会はこの1年間担当していないのにも関らず、若干の行き詰まりを感じないでもない(そこについて詳述するスペースはここにはないので省略)。この問題意識と経験が下級生に伝わることを期待しながら・・・(福田)
4. 参加者の感想
参加者は7人(うち新入生2人)と寂しく、アンケートによると、新しく気づかされることが多かったが、すこし分かりにくかった、という評価を得られた。全体としてはおおむね好評だったとみてよさそうだ。
<アンケートから>
◇現地住民の立場で考える必要性を感じた。(1回生・男)
◇たおかとふくだんのはなすスピードを1/2(T+F)くらいにすればいいなあ。(M1・男)
(たおか なおひろ/ふくだ けんじ)