(98/04/27)

京大ユニセフクラブ新歓学習会第1回

「お父さんに会いたい−日比混血児は今」

田岡直博


1.JFCとは

(1)JFCとは

JFC(Japanese Filipino Children)…日本人とフィリピン人のあいだに生まれた子ども。 日本人男性とフィリピン人女性のケースを言うことが多い。日比混血児、日比国際児、ジャピーノとも呼ばれる。

(2)問題

父親の音信不通、養育費を含めた責任を取ろうとしない。日本国籍を取得できない(胎児認知がない場合)。アイデンティティーの喪失などの精神的な傷を負っている。

(3)実数

父親に見捨てられたJFCがマニラ周辺だけで1万人、フィリピン全土に数万人。日本での実数は不明。

日本人男性とフィリピン人女性の法律婚
・フィリピン : 5000 (組/年)
・日本 : 7000 (組/年)
フィリピン人の配偶者別統計で、アメリカを抜いてトップに。(男女比1:100) ('95)
 
婚姻届の届出(JFCを支えるネットワーク)
・日比両国に : 16%
・フィリピンのみ : 23%
・届け出なし : 61%

さらに事実婚・内縁、それ以外のケースもあわせるとすでに10万組を超えていると見られている。

(4)生活

母親の60%が非常に貧困かぎりぎりの生活をしている階層、23%はやや貧しい階層、17%が中程度の階層(BATIS)。たいていは母親の家族や親戚と暮らしている。

2.背景

日本人男性がビジネスや観光でフィリピンに滞在中にフィリピン人女性と交際する場合と、フィリピン人女性が日本に出稼ぎに来ることによって交際する場合の2つがある。

(1)外国人労働者の実態

JFCの母親の88%が日本への出稼ぎ経験あり。95%がエンターティナーと客という関係で知り合っている。(BATIS) JFCの両親の70%が日本で、30%がフィリピンで出会っている。(JFCを支えるネットワーク)

日本に出稼ぎに来るエンターティナーは「興行ビザ」。のべ40万人に上る。3ヶ月を延長して最長6ヶ月。
・興行ビザ : -20.5%
・配偶者ビザ : +303.1% ('96)

(2)フィリピンは今

(3)国籍の壁

@日本国籍取得の要件

[1]両親が結婚している場合(嫡出子)   父母いずれかが日本国籍の場合、日本国籍を取得できる(父母両系血統主義)
[2]両親が結婚していない場合(婚外子=非嫡出子) (A) 母が日本国籍の場合 国籍を取得できる
(B) 父が日本国籍の場合 胎児の間に父が認知すれば、日本国籍を取得できる(胎児認知)

生後認知でも、両親が結婚すれば国籍を取得できる(準正による国籍取得)

A重国籍による国籍喪失

3.子どもの権利条約の視点から

(1)子どもの権利条約とは

(2)9条「親子不分離の禁止原則」、10条「家族再統合のための出入国」

4.NGOの取り組み

(1)フィリピン

BATIS(BATIS Center for Women)
子どもの認知や養育費獲得などの法的支援。教育や文化活動、アイデンティティに関わるグループワーク等のプログラムの実施。

(2)日本

国際こども権利センター
  1. 広報活動
  2. 交流活動
  3. 資金協力活動
  4. アドボカシー(政策提言活動)
  5. 学習・調査活動
  6. 電話相談
  7. ネットワーク活動
JFCを支えるネットワーク
JFC弁護団と連携して父親探し、認知・養育費の支払、国籍取得などを求める法的支援。養育支援・奨学金制度。母親に対する生活自立支援。日本政府に対するロビー活動。

(3)いくつかの批判

5.具体的な事例を通して

(1)マリコ・オーロラ

マリコ:父親はJICAの職員、母はメイド。3000ペソ(約12000円)を渡し中絶せよと告げ帰国。翌年日本人女性と結婚。経済学を。

オーロラ:学校の先生をしながら大学で学ぶ。弁護士に。

(2)国籍をめぐる代表的な訴訟

@アンデレちゃん

父親は不明、母親が出産後行方不明。母親がフィリピン人であるとの推定により日本国籍、フィリピン国籍を取得できず無国籍に。国籍確認訴訟→東京地裁勝訴→東京高裁敗訴→最高裁勝訴('95.1)

Aダイちゃん

ダイスケの出生前に胎児認知承諾書を持参したが受領されず、結果「生後認知」となり日本国籍を取得できなかった。不服申立→市役所に落ち度なし(広島家裁)→抗告。国籍請求訴訟→法務省通達を受けて和解、日本国籍を獲得、母親に在留特別許可。

Cヨランダ・マリ事件

日本人男性Aと婚姻した後別居して事実上離婚状態に。Bと同居しているときにAの子どもを出産。Aの嫡出子として日本国籍を取得したが、Aの嫡出否認により遡及的に日本国籍を喪失。Bが認知するも、生後認知として国籍取得が認められなかった(最近はこのようなケース国籍取得できることがある)。

Bバルゴマイラさん

姉は生後認知のため日本国籍を取得できず、妹は胎児認知で日本国籍取得。国籍請求訴訟→一審敗訴。現在係争中。96年7月の法務省通達(730通達)で、在留特別許可の要件緩和(日本人の子の親権者であるか、実際に子を扶養している場合)。長女に対し在留特別許可が認められる。

(3)認知をめぐる訴え

[A]母親が懐胎可能性期間中に被告である父親と性交渉を持ったこと

[B]同期間中に母親が他の男性と性交渉を持たなかったことを認められること

[C]子と被告の間で血液型が矛盾しないこと

[D]被告が父であると認められるような行動をとっていたこと

(4)JFC弁護団の活動から

JFCの父親と母親が結婚しているケースは全体の3割未満(ほとんどがフィリピン式)。父親の年齢は20歳〜50歳。低学歴・定収入層に集中(支払能力なしが7,8割)。

父親の身元確認
交渉開始 復縁の可能性を探る
親子関係については認めるが認知は拒むことが多い。養育費を払わせることで父親が見捨てていないことを子どもに知らせる。認知を求める調停や裁判となると、DNA鑑定に最低25万円+母子を呼び寄せる費用。
復縁の可能性がない場合 復縁する場合
結婚している場合

離婚を前提として話を進める。妻のサインのある結婚証明書と出生証明書とそれらの訳文を持って市町村役場に提出、本籍地の戸籍に結婚が記載される(フィリピンで「父」としての身分で出生届を提出していた場合は、認知の効力が認められる)。日本で結婚していた場合重婚状態に(重婚罪・後婚を取消可)。

養育費の支払(月2〜4万円)。離婚の場合慰謝料として200万〜500万。(養育費の支払に応じたケースがわずか30/300件)

結婚していない場合

婚約の不当破棄として慰謝料(結婚していた場合より少し減額)養育費の支払を求める。

 

6.わたしたちにできること

 

主要参考文献

「日比国際児の人権と日本」(国際子ども権利センター編/明石書店)

「お父さんに会いたい−日比混血児はいま」(松井やより編/岩波ブックレット)

「国際婚外子と子どもの人権」(今西富幸・上原康夫・高畑幸/明石書店)

「解説・子どもの権利条約」(永井憲一・寺脇隆夫編/日本評論社)

「世界子供白書」(ユニセフ著・ユニセフ駐日事務所訳)

「子夢子明」(国際子ども権利センター)

「BATIS/BEEPER」(BATIS・国際子ども権利センター)

 

 

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