田岡直博
0.はじめに
今年の3月25日、与党3党の提出した「特定非営利活動促進法案(いわゆるNPO法案)」がようやく衆議院で可決され、法律として施行されることが決まった。施行は12月になる予定だと言うが、このNPO法という法律いったいどういう法律なのか。この法律が施行されることで、NPOにとって具体的にどういうメリットやデメリットがあるのか。そういった疑問に答えるために、以下では1.NPOとは何か、2.法人とは何か、3.NPO法(案)とは何かについて順に見ていくことにしよう。
1.NPOとは
(1)定義
まずNPOとは何か。普段NPOに関わっている人でもこの質問に正確に答えられる人は多くないだろう。「現代用語の基礎知識(98年度版)」によると次のように説明されている。
NPO(Non Profit Organization/民間非営利組織)
非営利(利潤追求、利益配分を行わない)、非政府(政府機構の一部ではない)の立場から、自主的、自発的な活動を行う団体の総称。本来の語義から言えば、わが国でいうボランティア・グループやボランティア団体、市民団体、社団・財団法人、社会福祉法人などの公益法人の一部や協同組合などまでも含む幅広い概念である。ただし日本では実際にどのような団体を指すのかについての社会的合意はまだない。
つまりこの定義に従えば@非営利A非政府でB自主的、自発的な活動を行っている団体はすべてNPOということになる。ただしこの定義に当てはまるNPOが全てNPO法により法人格を取得できるというわけではない。(その要件は3章で扱う)
ここでNPOと類似した概念としてのNGOとの区別にも触れておきたい。NPOとNGOはどこが違うのか。むしろユニセフクラブにおいてはNGOという言葉の方が通りがよい。NGOとは通常おおよそ次のように説明される。
NGO(Non Governmental Organization/民間非政府組織)
本来は国連が政府以外の民間団体との協力関係(協議取極)を定めた国連憲章第71条の中で使われた用語。しかし一般的には開発問題、人権問題、環境問題、平和問題などの地球的規模の諸問題の解決に非政府かつ非営利の立場から取り組む国際組織及び国内組織をNGOと総称している。
つまり簡単に言えば、NPOの中で開発問題、環境問題などの地球規模の問題に取り組む団体がNGOであるということである。NPOとはNGOを包摂する概念なのだ。それゆえNGOも当然NPO法による法人格付与の対象になる。ただし日本においては現在厳密には使い分けがなされていないし、また使い分ける実益も乏しいと言うべきだろう。
(2)日本のNPO
それでは日本のNPOの現状を簡単に見ていこう。と言ってもNPOという概念に包摂される団体は多種多様であり、いくら言葉で説明したところでとても実態を正確に把握することができるとはおもえない。ここでは経済企画庁が1996年12月に行った興味深いアンケート調査があるので、それを元に実数と勝つ同分野について概観するにとどめる。
まずその実数だが経企庁の調査によれば8万5427団体だったそうだ。どのような方法により調査したのかは不明だが、先ほどの定義に従えば厳密な実数などそもそも分かるはずもなく、8万という数は少なすぎはしないだろうか。ただ阪神大震災以降のボランティア気運の高まりによってその実数が確実に増加していることは間違いないだろう。
実数
- 法人格を持たない団体(任意団体)…8万5427 (経済企画庁/1996年12月)、3万3384 (自治省)
- 財団法人、社団法人、特別法による社会福祉法人、学校法人、宗教法人、医療法人など法人格を有するNPO…26万
- 農業協同組合、消費生活協同組合(生協)、管理組合法人、認可地縁団体など…1万6000
次に活動分野だが経企庁のアンケートによれば社会福祉系が最も多く37%を占める。何を持って社会福祉系と言うのかは疑問だが、この分野分けは、NPO法において法人格取得の要件として掲げられている12の活動分野に対応している。つまりNPOが法人格を取得する際には、同法において掲げられている12の活動分野のいずれかに該当することが必要であり、その申請は各NPO自らが行うことになっているので、社会福祉系だと自認する団体が37%であったという話だということだろう。
活動分野
- 社会福祉系…37.4%
- 地域社会系(まちづくり、防犯活動など)…16.9%
- 教育・文化・スポーツ系…16.8%
(3)アメリカのNPO
日本でのNPOの実態と言われても、他の国と比較した上でなければ、その実数が多いのか少ないのか、あるいは力があるのかないのかということは言えないだろう。さらに今回成立したNPO法を理解する上でもアメリカのNPOに関する法制度を理解しておくことは有意義であると思われる。そこでNPO先進国と呼ばれるアメリカのNPO及びNPOに関する法制度を見ておくことにしよう。
アメリカにおけるNPOの実数は100万団体を超え、GDPの約6.3%を占めると言われる(1990年)。非営利部門における雇用者の総就業者数に占める割合は6.8%であり、その社会的役割は日本と比べて格段に大きいということができるだろう。GDPの約5.3%というが非営利なのにどうしてそんなに金持ちなのだ、と疑問に思われる方がいるかもしれないので、収入の内訳を示しておく。
収入の内訳
- 事業収入…51%
- 寄付金…18%
- 政府の助成金31%
次にNPOに関する法制度を見ていこう。今回日本で成立したNPO法と比較してみると面白い。
まずアメリカで言うNPOは一義的ではないと言われる。広義の方から順に@〜Cに分けて説明する。
1.州法に定められた法人登記申請をした団体が最も広義のNPOである。手数料数100ドルを支払い(税免除団体の資格を得れば返却される)、定款を提出するだけで成立する。ただしこれだけでは税制上の優遇措置を受けることはできない。
2.さらに税制上等の優遇が受けるためには、州の租税控除の内国歳入局に申請する。日本の国税法にあたる内国歳入法(the Internal Revenue Code)第501条(c)(3)項〜第501条(c)(21)項の条件を満たすと、連邦の法人所得税が免税になる。
3.このうち、501(c)(4)〜(21)の団体は「共益団体型」のNPOで、寄付の税控除は認められない。501(c)(3)と(c)(4)、特に(c)(3)に規定された団体が典型的なNPOである。
※「共益団体」…構成員相互の利益を目的とする(=受益者があらかじめ特定されている)
4.通常NPOといわれる時には、(ファイブ・オー・ワン・)シー・スリー(c3)団体と呼ばれるこの団体が想定されている。「アメリカでNPOというと、「あぁ、501(c)(3)のことですか」といわれることがよくある」らしい。
501(c)(3)団体の定義
「法人、共同募金、基金、財団のうち、おもに次の目的において設立され運営されているもの。宗教的、慈善的、科学的な目的、公共安全のための試験の目的、文学的な目的、あるいは教育的な目的、または全米あるいは国際的なアマチュアスポーツ競技を育成する(ただしその活動が運動設備や器具の提供を含まない場合に限られる)目的、あるいは、児童や動物の虐待を防止するために組織運営されているものであって、その純利益が一部たりとも民間の株主や個人の利益に帰属することなく、その活動が立法に影響を与えるようなプロパガンダにつながることなく、あるいは公職を目指す候補者のために政治的なキャンペーンに参加したり干渉(声明の発行や、配布を含む)することのないもの」
この読むのも面倒な長い定義によって定められる501(c)(3)団体(≒NPO)は、結局次のような特徴を備えることになる。
501(c)(3)団体の特徴
1.公共サービス提供の目的を持っている
2.非営利または慈善の団体として法人化されている
3.組織管理の構造が自己利益や私的な財産的利益を不可能にしている
4.連邦税の支払いを免除される資格を得ている
5.その団体に寄付を行った場合税控除の対象になる特別な法的地位をもっている
6.政府の助成金や企業や個人からの寄付が収入の一定以上をしめている
7.政治活動が制限される
※寄付に対する課税控除の限度額は類型に応じて異なるが、個人なら調整後所得額の30%あるいは50%まで、企業なら10%まで課税対象から控除できる。これらには5年間の繰り越しも認められている。他に得られる優遇措置として郵便料金の割引がある。多くの場合10円以下で、ニュースレター等を送ることができる
日本のNPO法との比較では、ここに挙げられている7点のうちではC、Eの点で異なると言えるだろう。特に税制上の優遇措置(結局日本のNPO法では見送られた)が注目に値する。ニュースレターが10円で送れるというサービスはまったくもってうらやましい限りである。個人的にはぜひ日本でも導入を検討してもらいたい。
2.NPO法人について
(1)法人とは
さて、これまでNPOについて概観してきたが、今回成立したNPO法はそのNPOに法人格を付与するものである。ではその法人格とはいったい何なのか。既存の社団法人や財団法人などの法人格とはいったい何が異なるのか。さらに現在NPOにはどのような法的保護が与えられているのかということについて見ていくことにしよう。
まずNPOが自然人とは異なる法的保護を受けたいと思うとき(例えば、団体名義で契約がしたい、税制上の優遇措置を受けたいなど)、現在の法制度の下で利用できる制度としてはどのようなものがあるか。まず問題になるのが法人である。
法人とは「自然人以外のもので法律上、権利義務の主体たりうるもの」である。自然人とはつまり人間のことで、現在の民法は自然人を基本に考えられている。しかし自然人しか権利・義務の主体になれないとすると、会社自信が契約したり、借金する(これも一種の契約だが)ことができず、とても不便である。そこで法人という制度を作り、権利義務の主体になれるように定めたのである。さらに法人は「公益法人」、「営利社団法人(会社)」、それ以外の「中間法人」に分類することができる。
法人の種類
- 公益法人…社団法人、財団法人
- 営利法人…会社
- 中間法人…学校法人、宗教法人、社会福祉法人
また法人に類似した法制度として共益信託というものがある。助成財団と同様の機能を持つが、システムとしては財団より単純で、設立にともなうコストは財団設立より少なくてすむ。目的別では、奨学金給付29.1%、医学研究・医学教育振興11.9%、学術研究助成 8.4%と、教育関係の助成が多い。(e.g.富士フィルム・グリーンファンド)
さらにここで「権利能力なき社団」という非常に重要な概念が登場する。権利能力なき社団とは、「実質的には法人格びある団体と同じような活動をしているが、法人とはなっていない団体」を言う。NPO、サークル、同窓会、町内会などはすべてこれに該当していることになる。つまり現在のNPOは権利能力なき社団に分類され、自然人とは異なる法的保護を受けられるということだ。
それでは、権利能力なき社団と法人の違いはどこにあるのか。それはすなわちNPOが法人格を取得することにより、法律上いかなるメリットがあるのかということである。権利能力なき社団は、その性質上法人とできる限り同じように扱うことが要請されており、法律上(法律解釈上)ほとんど法人と同じ法的保護を受けることができる。次の一覧表を見てもらえば分かるように、事実上の違いは、団体名義での登記ができるか否かという点のみである。
ここで「NPOは契約できないのではないため、代表者名義で借金せねばならず、そのため返済不能に陥ったとき、代表者が個人的に責任を負わねばならないのではないか?」という風に思っておられる方がいるかもしれないが、法律上(法律解釈上)はそんなことはないはずである。権利能力なき社団(NPO)は法人格を取得せずとも、契約の主体となる(団体名義で借金する)ことができるし、その責任は有限責任であると解されている。つまり返済不能になっても債権者(貸し金業者や銀行)は個人財産にとってかかることはできない。また代表者も個人責任を負うことはないと解されている。
ただし通常NPOには信用がないため、そのままではNPOにお金を貸してくれる貸し金業者や銀行はあまりいないと思われる。それゆえ結局は代表者を保証人にしたり、代表者の個人財産を担保にするなどするだろうから、事実上はたいして違いがないことになる。だが、それは法人格を取得したとしても同じことである。
E.法律上の差異
権利能力なき社団 法人
団体名義での登記 × ○
団体名義での銀行口座開設 ○ ○
団体名義での訴訟行為 ○ ○
構成員の債権者による構成員の持分の差押 × ×
構成員の債権者による構成員名義の団体財産の差押 × ○
(2)NPO法人格の必要性
それでは以上のような現在の法制度を前提として、なぜNPO法人という新たな法人格が必要になったのかを見ていくことにしよう。まず公益法人の法人格をNPOが取得しない/できない理由として一般的には次のようなことがあげられる。
1.主務官庁による許可制。全国で活動する公益法人となるには中央省庁のいずれかが監督官庁としてつかなくてはならない。そして、その設立許可は監督官庁による自由裁量であり、不透明で恣意的であるといわれている(法人格取得までには2〜3年かかる)。また、団体の活動に関してもその監督官庁の指導を受けなくてはならなくなり、行政の枠を超えるような活動は不可能である。実際、公益法人として活動している団体は市民的なボランタリーな活動というより、主務官庁の役人の天下り先となり、政府の下請け的な活動をする外郭団体である場合が多い。
2.財団法人を作る場合、法人格を得るためには基本財産が5億円は必要と言われている(客観的な基準はない)。東京都内に事務所を構えるとしたら、実際は10億円は必要だろうとも言われる。
なぜ、これほどまでに厳格な基準と監督が要求されているのであろうか。もっと簡単に法人格を取得させてもらえればいいと思うかもしれない。しかしこれは(少なくとも建前上は)公益法人の美名に隠れて所得隠しや脱税を行う輩を排除するためであり、今回NPO法において税制上優遇措置が見送られたのもまさにそのことが最大の理由であろう。
実際にNPOがどう考えているかというと、さきほどの経企庁のアンケートが参考になる。そのアンケートによれば、11.8%の団体が法人格が必要だと解答している。(全国85,876団体のうち無作為抽出した1万団体に郵送。有効回答4152件、回収率42%)
法人格の必要な理由として挙げられているのは次の3つである。
1.社会的信用…任意団体のままでは、活動の非営利性や継続性を理解してもらえず、会員や協力者の確保が難しいなど。
2.資金的な問題…寄付や助成の申請に対して法人格が要件となる場合が多く、任意団体のままでは資金調達の面で難しい。
3.契約の主体になれない点…任意団体は契約行為の主体にはなれず、代表者が個人的に行うことになる。このため契約の責任が代表者個人の負担となり、また代表者が代わった場合は、契約の改定などの手続きが必要になる。さらには寄付などを受けた場合、個人としての税務申告と団体としての決算処理が必要となる。
このほか法人格がないと海外での開発協力に伴うワーキングビザの取得や国際組織への加盟などに支障が生じることも指摘されている。
3.特定非営利活動促進法
(1)成立までの流れ
さて、ここまで見てきたことでNPOが法人格を必要とした理由が分かっていただけたと思う。そこでようやく実際のNPO法はどのような経緯を経て成立し、どのような内容になったのかという核心部分に入っていくことになる。
次の年表を見ていただければ分かるように、NPO法案と呼ばれるものには、与党3党(自・社・さ)案、新進党案、共産党案、平成会・太陽党案の計4種類があったことが分かる。そして与党3党案が国会に提出されたのは1996年12月である。これは阪神大震災後のボランティア団体の活躍により法制度の不備が認識されたことが直接のきっかけと言われる。そして途中何度か修正協議を重ね(重要な法案が多くほっとかれたというの実状だが)、衆議院→参議院→衆議院と送られ、提出から1年3ヵ月を経てやっと成立したのである。修正については市民団体は基本的には歓迎すべき方向に修正が進んだという捉え方をしているようである。(例えば監督官庁の監督権限を弱めたり、法人格取得の要件が緩和されたり、ということ)これは与党の中でも自民党が保守的に抵抗したが、社・さ及び民主党の働きかけで修正されたという風に言われる。
また、NPO法案の注目すべきもうひとつの点は議員立法であることである。
年表
通常国会
1996年12月 与党三党が「市民活動促進法案」を衆議院に提出。新進党も「市民公益活動を行う団体に対する法人格の付与等に関する法律案」と「法人税法等の一部を改正する法律案」を提出。どちらも衆議院の内閣委員会に付託された。
1997年 2月 民主党修正案が与党三党に対して示される。
3月 新進党が自ら新進党の修正案要綱を作成。共産党が「非営利団体に対する法人格の付与等に関する法律案」を提出。
6月 与党三党と民主党の修正合意。与党3党と民主党の修正による『市民活動促進法案』が衆議院本会議で可決され、参議院に送られた[1]。
臨時国会
11月 参議院自民党が法案名変更および修正を要求。
12月 平成会が内閣委員会の理事懇談会をボイコット。
通常国会
1998年 1月 与党3党と民主党が提案した「市民活動促進法案」、旧平成会・旧太陽党が提案した「市民公益活動法人法案」、共産党が提案した「非営利法人特例法案」の3本のNPO法案が審議入り。
3月 [2]参議院での修正合意委員会で全会一致で可決。参議院本会議でも賛成多数で可決される。衆議院でも可決。公布される。(3月25日)
12月 施行予定
主な修正点
[1]1997年6月(衆議院)
1.社員の無報酬性の要件及びこれに係わる社員名簿の提出及び閲覧規定を削除する。
2.外国人については、住民票に代わる証明手段を追加する。
3.認証の際に経済企画庁長官が所管大臣に意見を求める規定を削除する。
4.認証又は不認証の決定までの期間を「公告期間を含めて3月以内」に変更する。
5.認証又は不認証の決定の際の「書面による通知規定(不認証の場合の理由の通知を含む)」を追加する。
6.会計簿に記帳する際の「複式簿記の原則」を「正規の簿記の原則」に変更する。
7.立入検査の際の書面の扱いを提示だけでなく、「要求があれば交付」するよう変更する。
8.所轄庁に対する申出の条項を削除する。
9.活動分野の「地球環境の保全」の「地球」を削除、及び「前各号(1〜11号)に掲げる活動を行う団体の活動その他の運営に関する連絡、助言又は援助の活動」を追加する。
[2]1998年3月(参議院)
1. 法人の名称を「市民活動」を「特定非営利活動」に、「市民活動法人」を「特定非営利活動法人」に改める。
2. 法律の目的(第1条)中「市民に開かれた自由な社会貢献活動」とあるのを「市民が行う自由な社会貢献活動」に改めること。
3.特定非営利活動法人の定義(第2条第2項第2号ハ)について、特定の公職の候補者若しくは公職にある者又は政党を推薦し、支持し、又はこれらに「反対するものでないこと」としているのを、「反対することを目的とするものでないこと」と改めること。
4.所轄庁に関する規定(第9条第1項)について、「事務所が所在する都道府県の知事」とし、団体委任事務であることを明確化すること。
5.(1) 特定非営利活動法人の役員が本法律の定める欠格事由に該当しないこと等を「誓約する書面」を「各役員が誓う旨の宣誓書の謄本」に改めること。
(2) 当該法人が宗教活動を主たる目的としない等の要件に該当することを「誓約する書面」を「確認したことを示す書面」に改めること。
6.申請に係る縦覧期間を二箇月間に延長。
7.認証の基準に、申請に係る特定非営利活動法人が「暴力団又は暴力団若しくはその構成員の統制の下にある団体でないこと」を追加。
8.経済企画庁長官は、所轄に係わる特定非営利活動法人から事業報告書等の写しの提出を受けたときは、これらを当該法人の事務所が所在する都道府県の知事に送付しなければならないこととする。知事は、送付を受けた書類の写しを、条例の定めるところにより、閲覧させることができる旨の規定を追加すること。
9.報告及び検査の規定について、「立入検査」を「検査」に改めること。
10. 別表に掲げた活動のうち、「災害時の救援の活動」を「災害救援活動」に改めること。(別表)
(2)法律の概要
こうして難産の末に成立したNPO法の内容について見ていこう。これまでも何度か触れたが、最大の争点であった税制上の優遇措置については今回は見送られ、2年度に見直すという付帯決議がなされた。
1.法律の名称
特定非営利活動促進法
2.目的
ボランティア活動をはじめとする市民が行う自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な 発展の促進。
3.定義
次の12の活動分野に限定。
(1)保健・医療又は福祉の増進を図る活動
(2)社会教育の推進を図る活動
(3)まちづくりの推進を図る活動
(4)文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
(5)環境の保全を図る活動
(6)災害救援活動
(7)地域安全活動
(8)人権の擁護又は平和の推進を図る活動
(9)国際協力の活動
(10)男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
(11)子どもの健全育成を図る活動
(12)前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は 援助の活動
4.要件
・ 特定非営利活動を行うことを主たる目的とすること、「不特定かつ多数のものの利益」の増進に寄与すること
・ 営利を目的としないこと
・ 宗教活動を主たる目的としないこと
・ 政治上の主義の推進・支持・反対を主たる目的としないこと
・ 特定の候補者等又は政党の推薦・支持・反対を目的としないこと
・ 申請に係る法人が暴力団又は暴力団もしくはその構成員の統制下にある団体でな いこと
・ 10人以上の社員を有することなど
5.所轄庁
・事務所が所在する都道府県の所在地の知事
・2つ以上の都道府県に事務所を設けるものは経済企画庁長官
6.事務処理期間
所轄庁は申請書受理後4月以内に認証又は不認証を決定(うち、受理後2月間縦覧)
7.許認可
所轄庁は、(1)団体が認証の基準を満たしているときには「認証しなければならない」とされていること(第12条第1項)、(2)認証又は不認証の決定は、正当な理由がない限り、3月以内に行わなければならないとされていること(同条第2項)、そして、(3)これらの判断は、原則として第10条第1項所定の書面によって行うものとされていること、さらに(4)「認証」という文言が使われていること等から、準則主義的なニュアンスを強めた認可主義であると説明されている。
具体例 許認可の基準
特許主義 日本銀行 特別の法律の制定を必要とする
許可主義 民法上の公益法人 主務官庁の自由裁量
★認可主義 消費生活協同組合、宗教法人 法律の定める要件を具備していれば必ず認可しなければならない
準則主義 会社、労働組合 法律の定める一定の組織を具備した場合、当然に法人となる
強制主義 弁護士会、健康保険組合 国家が法人の設立または加入を強制する
8.監督
事業報告書等の徴収、検査、改善命令、認証の取り消し。
1.取り消し
所轄庁は、「特定非営利活動法人が、改善命令に違反した場合であって他の方法により監督の目的を達することができないとき又は3年以上にわたって所轄庁に提出すべき書類を提出しないときは、当該特定非営利活動法人の認証を取り消すことができる。
2.立ち入り
所轄庁は、特定非営利活動法人が法令、法令に基づいてする行政庁の処分又は定款に違反する疑いがあると認められる「相当な理由」があるときは、当該特定非営利活動法人に対し、その業務若しくは財産の状況に関し報告をさせ、又はその職員に、当該特定非営利活動法人の事務所その他の施設に立ち入り、その業務若しくは財産の状況若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させることができる。
所轄庁が、上記1の検査をする場合には、その検査をする職員に、「相当の理由」を記載した書面を、当該特定非営利活動法人の役員その他の当該検査の対象となっている事務所その他の施設の管理について権限を有する者に提示させなければならない。また要求があれば、それを交付しなければならない。
9.会計
正規の簿記の原則とは、本法で要求されている貸借対照表・損益計算書を作成するという前提の下に、かつ、正確な会計処理がなされるという前提の下であれば、必ずしも複式簿記にこだわる理由はない。つまり単式簿記による会計処理も選択できる。
更に、特定非営利活動法人が収益事業を行う場合には、その収益事業に関する会計は、当該特定非営利活動法人の行う特定非営利活動に係る事業に関する会計から区分し、特別の会計として経理しなければならない。
10.情報公開
1.定非営利活動法人は、毎年初めの3月以内に、以下の資料を作成し、2年間これを主たる事務所に備え置かなければならないとなっている。当該特定非営利活動法人の社員その他の利害関係人からこれらの書類・定款・認証・登記に関する書類の閲覧の請求があったときは、正当な理由がある場合を除いて、これらを閲覧させなければならない。
2.上記1の資料は、毎年1回、所轄庁にも提出し、所轄庁はこれらの資料のうち、1.〜5.の資料については、その閲覧の請求があった場合には、閲覧させなければならないとされている。
1.前年(又は前事業年度。以下同じ。)の事業報告書
2.前年(末日)における財産目録
3.前年の貸借対照表及び収支計算書
4.役員名簿及び前年において報酬を受けたことがある役員の氏名を記載した書面
5.社員10名以上の氏名と住所
11.税制上優遇措置
「特定非営利活動法人制度については、この法律の施行日から起算して2年以内に検討を加え、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする」という、いわゆる検討条項が附則第2項に設けられています。この「特定非営利活動法人制度」及び「必要な措置」には、別表の12分野の対象拡大や税制上の優遇措置についても、当然に含まれているものと解されている。
※ただし地方税(「均等割税」、「事業税」)については条例で減免されることもある。次の団体委任事務を参照
寄付金の税控除は、政府による暗黙の補助金(an implicit tax subsidy)であるとも言われる。寄付金の税控除を正当化する理論として「補助理論」(Subsidy theory)と「公平理論」(Equity theory)がある。
「補助理論」とは、慈善団体の行う公益の供給は、一般の市場になじむものではないので政府からの補助を行う必要がある。これを政府から直接補助金を支出するのではなく、寄付控除という税制上の補助金とする方が経済的に見て効率的であるという考え方である。
「公平理論」とは、慈善目的の寄付はもともと自分の利益を求めるために行われるのではなく、所得課税は納税者の現実に享受する収支に対するものになすべきだとすれば、利他的目的で寄付をした場合と、自己の利益のために資材を費消した場合とを同等に課税するのは妥当とはいえない。したがって課税の公平という考え方に立ち、慈善目的の寄付金には課税せず控除をして公平を図るべきだ、という考え方である。
また寄付する側からすると、自分では直接使われ方を特定することができない政府への税金を納める代わりに、地元地域社会で公益的な活動をしているNPOに別の「税金」を直接収める選択権をもてる。
12.団体委任事務
・法人格を行政が認証する行政事務は団体委任事務とされているため、法律の定めにそって、都道府県毎に独自に条例を制定して対応することになる。しかも議員立法のため、法人格を認証するための条例づくりについて、統括する中央官庁がない。(とはいうものの経企庁が説明会とか開いている)
13.設立までの流れ
設立発起人会(既に団体が存在する場合は、総会でも可能)
↓
所轄庁に申請
↓
所轄庁が公告・縦覧
↓
所轄庁による審査
↓
認証・不認証の決定
↓
登記所への登記
↓
NPO法人成立
↓
所轄庁に登記簿謄本届け出4.最後に
さて、長々と見てきたNPO法だが、当のNPOの現場の反応としてはどうも「まぁ、取って取らんでもそんなに変わらんけど、一応取っとこかな」というくらいのもののようだ。ただ外務省の補助金や郵便ボランティア貯金、あるいはそれ以外の補助金について、その給付を受ける要件としてこのNPO法人格を挙げることが予想され、そのため法人格を取得するというNPOも多そうだ。国会に提出された当初の与党3党案の内容では、この補助金をたてに管理を強めてくるのではないかという恐れさえあったことを考えると、とりあえず満足できる内容的になったことは評価できるだろう。
結局税制上の優遇措置が最大の争点だっただけにそれが見送られたので、インパクトが弱くなってしまった。2年後の税制上優遇措置の見直しに向けて、今年12月までのNPO法施行条例作りに積極的に参加し、市民運動を盛り上げていくことが今は大切なのではないだろうか。