静岡県知事 石川嘉延様
1999年7月の青少年環境整備審議会の答申で、有害図書として指定された「タイ買春読本・全面改訂版」「タイ夜の歩き方」について、私たちは下記の理由により指定は不適当と考えますので、「静岡県青少年のための良好な環境整備に関する条例」(以下「条例」)第19条の規定により、資料を添えて取り消しを申請します。
当該資料の1冊は、すでに絶版になっていて、一般書店での入手は不可能であり、有害指定したとしても有効な規制はとれません。青少年を保護するという条例の目的からいって、どのような法的利益(効果)も期待できません。
現在唯一閲覧可能なのは静岡市立図書館所蔵の資料ですが、それに対しては、過去に廃棄要求が起こされた経過があります。
この事件に関して、私たちは公開討論会を開き、「図書館蔵書への廃棄要求は、利用者が自ら読んで是非を判断する機会を奪おうとするものであり、知る権利の侵害である。また、現代史資料の廃棄要求でもあり、歴史を隠蔽しようとするものである。」と反論しました。参加者の意見も、多くは、「この本をどう判断するかはともかく、それは自分で決めたい。」というものでした。
私たちは今回の有害指定申請を、この、図書館資料への介入の一環であると考えざるを得ません。それは申請された図書がタイにかかわる2冊のみであり、類似図書が同じ出版社から数多く出ているにもかかわらず、それらが申請されていないことからも明かです。
このような歴史を背負った図書を有害図書に指定することは、この条例が、公共図書館資料への介入(検閲)という、言論の自由にかかわる大問題を招く行為の道具とされた、と見なされてもしかたありません。
また、売買春を許容するような状況は現在の日本に広く蔓延しており、特定の図書のみを有害指定して青少年から隠すことで解決するような問題ではありません。むしろ問題の所在を認め、青少年自ら売買春について深く考え、自らの責任において判断する力を養うよう導くことが必要です。
私たちは、青少年が当該図書のような資料を自ら読んで判断する機会を閉ざすことなく、あわせて他の情報も広く提供することで、自己決定能力を高める援助をすることこそが、真の健全育成事業でもあると考えます。最近「メディアリテラシー」の必要性が言われているのも、同じ文脈からです。
そしてそのためには、図書館のような生涯学習施設が、さまざまな見解の資料を幅広く収集し、誰にも公開しているという環境が欠かせません。
以上のような理由から、有害指定を取り消すのが妥当であると考えます。
なお廃棄要求事件の経過に関しては、『静岡市立図書館への「タイ買春読本」廃棄要求問題資料集』がありますので、審議の際にあわせてお読み下さいますようお願いします。この資料集の記事の一部は、日本図書館協会出版の『図書館と自由 第16集 表現の自由と「図書館の自由」』にも収録されております。
私たちは今回の有害指定を、それ自体が知的自由にかかわる歴史的事件であるととらえておりますので、記録を残すべく、教育委員会や審議委員の方々に質問書を出しました。また、県民の知る権利を保障し県の説明責任を果たすため、そのような事件をどう処置したかについて、経過を記録した資料と当該図書を保存するよう、県に要望書を提出しておりますので、それらも参考にしていただきたいと思います。