2007年7月23日
中央教育審議会生涯学習分科会制度問題小委員会
委員長
山本恒夫様
図書館問題研究会
委員長 川越峰子
公立図書館の無料制維持につい
て(要望)
以下の理由により,公立図書館の無料制の維持を求めます。十分,調査・
研究し,関係者の意見を聴取した上での審議を求めます。
1 図書館法における無料制とは,そもそも恩恵的なものではなく,むしろ,住民・利用者の権利を明示したものであり,また,教育機関としての図書館に対する行政を制限しているものである。そのときどきの状況で安易に変えられるよう
なものではない。
2 自己責任社会では,自分で責任を負うために必要な情報・資料に無料でアクセスできるチャネルが確保されていなければならない。
そうでなければ,社会的不公正となる。図書館はその機能を持つ社会的機関である。
3 自由主義・民主主義の基礎は,住民が自由にものを考え,自由にいろいろな考えに触
れ,自由に意見表明したり論議できることである。このような言論・思想の自由を保障するためには,情報・資料を無料で入手できるチャネルが確保されていなければ,公
正ではない。とくに,日本国憲法の改定が論議されているが,こ
のような重大な問題については,図書館で無料で様々な文献をすべての人が読むことができるようにす
べきである。
4 裁判員制度が導入される。現在の複雑な社会において,法的判断は,単に法に関わる分野の情報・資料のみな
らず,ひろく多数の文献にあたる必要がある。市民に多数の文献に無料でアクセスする権利を保障する
ことは必須である。また,選挙等様々な参政の場において,判
断材料となる多様な情報・資料が必要である。これらへのアクセスに制限があってはならない。これは,議
員も一般市民も行政担当者も同じである。このようなものにいちいち料金を気にしなければならないのでは,十
分な政治的論議や判断ができず,民主主義として不完全である。
5 インフォームド・コンセントが進む中,患者やその家族自らも,病気や医療について学ぶこと
が必要となっている。なぜなら,選択権・自己決定権が患者や家族にあるからである。しかし,十分に情報・資料にアクセスすることができなければ,選
択も自己決定もできない。自己の生存をかけた学習権は保障されなければならない。学習権とは生存に結びつくものである。
6 日本において,起
業率が低く,また,商店街の低迷,地方の衰退,ニートの増加など,ビジネスや仕事に関する問題が起きている。これは,ク
リエイティブな仕事とは,実は,徹底した情
報・資料の収集とその分析が基礎であるという認識の根本的欠如から来ている。「知財立国」の観点からも,社
会の情報基盤としての図書館にはフリー・ウェイとして知識・情報の流通を加速させる役割を担わせるべきである。
7 たとえ,無
料制を放棄したとしても,高齢者・障害者・子供は無料にすべきだろう。しかし,この判別は意外に困難な側面があると同時に煩瑣であり,ま
た,結局,このようにしたら,有料にしたところで,親が子供の券で借りる(あるいは,子供に借りさせる)など有名無実化するだけである。
8 今,公
立図書館は子育て支援に大いに役立っている。たくさんの絵本を借りていく親子が多数いるが,これは
まさに無料制の効果である。また,多くの高齢者も図書館を利用している。これが有料ならば,このように利用されないだろう。図書館の無料制は,子
育て支援や高齢者の生きがい保持や健康教育の推進など,少子高齢化対策としても意味のあるものであ
る。
9 図書館の無料制を放棄したら,図書館に対する予算は激減するだろう。すると,図書
館は極めて貧弱なものになってしまう。無料制とは,一定の水準の図書館資料という地域の知的資源を
予算で保障するということを意味している。これは,国民の参政権や学習権など基本的な人権の保障と,民主主義・自由主義社会の基盤の形成と自治に関わる重要な問題である。また,国や地域の文化水準や教育水準・学力を一定以上に保つために必要なことである。
10 そもそも「公共図書館」とは,名前のとおり,公共性のある図書館のことであり,特定の受益者を対象としたものではなく,ひろくすべ
ての人々に開かれたものである。従って,ここで,さ
らに有料化を導入すれば,税金の二重取りになってしまう。一方,税金をまったく投入せずに運営するならば,それは,もはや公共図書館でも公立図書館でもなく,私立や私
企業の図書館であり,これについては,すで
に現行法で有料も可能であることがはっきり認められているし、また、実例もある。
11 複雑な現代社会において,義務教育やその先の学校教育だけでは,仕事の上でも
生活の上でも,また,ひろく政治や経済の運
営においても対応できない。すべての人が,生涯において,学
習したいだけ学習できるようにすることがこれからの社会の条件である。無料の図書館はその条件の最も基礎を構成するものである。