アピール 図書館活動の理念を支える教育基本法「改正」に反対します。
権利としての「教育」の可能性を根こそぎ収奪する、教育基本法「改正」に断固反対します。
半世紀余り前、「国民精神総動員計画」などに象徴される偏狭な軍国主義の下、図書館は「地方改良運動」に協力することで、ヒロシマ・ナガサキ・オキナワ
の惨劇のみならず、アジアの人びとにも多大なる犠牲を強いた侵略戦争に、結果的に加担しました。戦後、図書館員たちはこのことを深く反省し、日本図書館協
会は1954年5月「図書館の自由に関する宣言」を採択しました。
中央教育審議会は2003年3月20日、〈21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成を目指す観点から〉「教育基本法を改正する必要がある」と
する最終答申を、文部科学大臣に提出しました。各地での公聴会を経て、国会に「改正」案が提出されようとしています。施行後50余年を経て、今まさに、図
書館法の上位法でもあり教育の憲法とも言うべき、教育基本法の「改正」が眼前に迫っています。同答申は、昨年11月14日の中間報告で明らかになっていた
ように、「日本の伝統・文化の尊重」を謳い、「愛国心の育成」「復古的な道徳教育の強化」や「国家への奉仕・献身」の重要性を強調し、もう一方で、能力主
義・競争主義・強者の論理による教育再編を促す内容となっています。
私たちが、この中教審答申に反対するのは、以下の理由によります。
(1) 「改正」の理由・根拠が、非合理的かつ薄弱であること。
(2) 審議の手続きが、あまりにも異常かつ不適正であること。
(3) 時代錯誤の文化ナショナリズムと強者の論理により、教育をゆがめようとしていること。
(4) 子どもの心と家庭に、国家が過剰な介入をしようとしていること。
答申には、21世紀の時代を展望し、教育と社会の未来を構想するにふさわしい理念や理論の、ひとかけらも見られません。それどころか、データに基づく実
証的な裏付けもなく「少年の凶悪犯罪の増加」と煽り、「いじめ、校内暴力などの『5年間で半減』を目指す」といった無責任で場当たり的な政策目標も掲げて
います。「新しい時代」の意味付けに、グローバリズムやグローバルスタンダードの言葉が無定見に使われていますが、グローバルスタンダードの最たるもので
ある「子どもの権利条約」やその他国際準則との調整は、一切行われていません。
地方分権と住民参加が、時代の大きなキーワードとなっています。図書館は、すでにそれを先取りして「図書館法10条」により、その設置については住民の
総意を代表する議会での条例制定を要件としています。図書館法の上位法である教育基本法が、今もし答申に沿って「改正」されるなら、図書館の拠って立つ
「権利としての教育(学習)の理念」は、根底から覆されてしまうに違いありません。教育基本法の「改正」の後には、基本的人権の保障を明記した日本国憲法
の「改正」が控えているからです。
「図書館の自由に関する宣言」に続き、「図書館員の倫理綱領」を採択した私たちは、このような最悪の答申を基にした教育基本法の「改正」を、絶対に認め
ることはできません。満腔の怒りをもって、その撤回を求めます。
2003.7.8
図書館問題研究会第50回全国大会
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