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江東区立図書館のカウンター業務委託に関しての見解と要望

図書館問題研究会常任委員会

 2002年4月から、江東区立図書館のいくつかの図書館において、カウンター業務の委託が始められた。

 図書館問題研究会は、学校図書館問題研究会、親子読書・地域文庫全国連絡会、YAサービス研究会と連名で、「江東区の図書館のカウンター窓口の在り方についての提案」を2001年12月25日に行い、その中で、委託については、区民を交えた1年間の検討期間を置くことや、司書職制度の導入について検討をすることを提案した。残念ながら、この提案はとりあげられなかった。また、この提案について区側から回答があり、それに対し、再質問を行い、さらなる回答を2002年2月19日に得た。

 しかし、この回答においても、根本的な問題の解決の方向性は見出すことはできなかった。結局、区側は図書館におけるカウンター業務委託を実施した。

 ここに、カウンター業務委託の問題点をまとめ、あわせて、江東区に対して、いくつかの要望を、あらためて、行うものである。

1 カウンター業務委託の問題点

(1)業務委託においては、委託会社から派遣された職員に対し、区の職員が直接指示することは、法律上できない。図書館側と委託先との契約に基づき、委託会社が自社の職員に対して指揮していくこととなる。このことは、現場のサービスを遂行していく上で、指揮命令系統が事実上二重となってしまい、迅速で円滑なサービスを実施することが困難になる。また、区立図書館としてのサービス方針の個々具体的な場面での運用の徹底が難しく、利用者を混乱させる可能性がある。さらに、資料相談・レファレンス・サービスは、貸出しカウンターにおけるサービスやフロアでのサービスと連携して行わないと、総合的に質の高いサービスを提供することができない。この連携が今回のような委託では図りにくい。

(2)貸出し作業の効率化は、専門職としての司書が専門的な経験や能力を、直接、利用者・住民に対して集中的に発揮できるように行われるべきものである。江東区は、このたびの貸出し作業の効率化にあたって、司書の専門職制度の導入も、司書有資格者の増強も行う方針がない。これでは、単なる人件費削減とサービス水準の切捨てになってしまい、本質的な経営革新・サービス革新になっていない。

 司書の資格の無い職員の対応について問題や課題はないかとの問合せでについて、区からの回答では、「職員一人ひとりの能力の問題はありますが、資格の無い職員でもやる気のある者は司書以上の働きをしています。」とある。司書資格は、図書館サービスを行うにあたっての最低条件である。司書資格は一定水準以上の安定したサービスを提供するために必要なものである。 現状では、職員一人ひとりの能力に問題があることを認めていながら、その問題の本質的解決を図らずに、委託を選択するのは、検討が安易である。

 また、やる気があり、司書以上の働きをする無資格の職員については、区として司書資格を取得させるべきである。しかし、回答では、「講習費用などの削減については、民間企業で生き残るためにあらゆる施策をしているのと同様に、江東区も厳しい財政状況のなかでそのように選択せざるを得なかったのです。」とし、司書講習派遣については縮小していく方針を明らかにしている。なおさら、司書職制度を導入し、はじめから資格を持っている人材を採用し、専門職を中心とした効率的なサービス体制に革新すべきである。

(3)業務委託という行政サービス上大きな問題について、直接、利用者に対して十分な情報提供と論議の場が提供されなかった。顧客志向の行政経営革新、住民自治の重視が求められる地方分権の推進の観点から、基本的に大きな問題である。

(4)行政評価との結果を反映したものになっていない。

  行政評価を反映した『江東区長期基本計画(素案)』では、図書館に関しては、施策3「生涯学習・スポーツの充実」において、施策実現に関する指標としての区民一人あたりの年間図書館資料貸出数(点)を9.0、10.0に上げることを目標とし、施策実現の課題解決に向けての主要事業として、図書館の改修とDAISYによる録音図書のデジタル化事業をあげている。

 これらのことに対して、図書館のカウンター窓口の委託を手法として採用することの妥当性及びメリットを質問したところ、「行政評価において、民間企業の専門家に知恵を頂いています。また、各部課で住民や利用者の意見を反映しています。カウンター窓口の委託を採用することで職員も削減されますがのこつた職員は、余裕をもって今までできなかった新しい図書館サービスにむけて努力できることと思います。」との回答があった。

 しかし、これでは、基本計画との関係が明確でない。図書館改修は直接サービスではなく、条件整備である。録音図書のデジタル化事業は、確かに大きな課題であるが、この事業は委託の範囲に入っていないので、これが区の図書館職員が取り組む新しいサービスということになるが、これは、資料の整備に関わることであり、直接サービスではない。むしろ、こちらの方を専門業者に委託するという方法もある。

 また、区民一人当たりの貸出数の増加を目標としているが、貸出しカウンターを委託するということは、委託によって貸出しを伸ばせるという判断をしたということなのか回答では明確ではない。回答では、委託によって、祝日開館や開館時間の延長が可能になるとしている。この分で区民一人当たりの貸出数を増やす、それが達成できなければ委託も見直すというという方針と考えることもできる。

 しかし、なぜ、区の職員では祝日開館や開館時間延長ができないのか、明確な説明がない。回答では、「平成12年7月より近隣の江戸川区で祝日等開館し、区民よりなぜ祝日開館出来ないか、また、議会でも再三同様の質問があり、検討しましたが、現在図書館で働く職員は、交代勤務・土日勤務などをローテーションで行っており非常に不規則な勤務をしており現状ではこれ以上開館日数を増やすことは、困難と判断したわけです。」とある。祝日開館や開館時間延長のニーズを調査し、現状の職員体制を専門職を中心にした効率的なものに見直すといった方向の検討が行われていない。

2 要望

 図書館問題研究会としては、カウンター業務委託は基本的に問題があるため、委託の取りやめを求めたい。少なくとも、次のことについては、早急に取り組まれたい。

(1)区立図書館正規職員について、司書の専門職制度の導入を検討することと、当面の措置として、司書有資格者の採用・配置、資質と適性のある希望者について講習派遣・通信教育等により資格取得をさせること。

(2)図書館協議会を設置し、業務委託状況をモニターできるようにし、報告書の提出を求めること。また、一般職員にも委託状況をモニターし報告書を提出させること。受託会社にも、報告書を提出させること。これら、3者の報告書について、図書館の専門家と公募の委員を交えた評価委員会をつくり、その総合的な評価結果により、委託の継続・取りやめを判断すること。

 とくに、図書館協議会については、区からの回答でも、「協議会には、地域の有識者や青少年関係者・学校関係者・利用者など幅広い方々に参加していただきたいと考えています。それらの人選などなかなか難しい問題も沢山ありますが、他の自治体での状況等調べて設置できるよう努力してまいります。」とあるので、早期の実現を求めるものである。

(2002年5月12日 図書館問題研究会常任委員会決定)