2006年4月28日、政府は教育基本法「改正」法案を国会に提出した。同法案は、現行法を全面的に変え、教育の基本を他の法律や行政に委ねることを許
している。現行法は、日本国憲法が明記する一人ひとりの教育を受ける権利を基本としているのに対して、「改正」法案は、国家のための人材育成を目指すもの
となっている。
この法案には、国民の根強い反対があり、国会での審議も進まず、第164通常国会において、採決にいたらず、継続審議となった。しかし、今年秋の臨時国
会において、成立する可能性を残している。
同法案の問題点は、主として次のとおりである。
・現行法が前文冒頭に掲げている日本国憲法の理想の実現と教育基本法の関係を削除したのをはじめ、他の部分でも、同様の削除や改変が行われていること。
すなわち、「改正」法案は日本国憲法と教育基本法との関係を断ち切って、改憲への道をつけるものとしか受け取れないこと。
・現行法第2条が、教育の方針として「教育の目的はあらゆる機会に、あらゆる場所において実現されねばならない(以下略)」とあるのを削除し、かわりに
20を超える徳目を列記した教育の目標が法律で定められ、この目標を国民が達成するように教育が行われるとされていること。
とりわけ、目標の中に、愛国心を入れることなどにより、思想および良心の自由が教育の名において侵害される恐れがあること。
・現行法第10条が「教育は不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきである」としているもののうち「国民全体に対し直
接責任を負って」を削除し、かわりに「この法律および他の法律の定めるところにより」を入れていることから、教育の内容を法律により限定でき
るようになること。また、これにひき続く条文により教育行政が教育内容に介入できると受け取れ、さらに教育振興基本計画の施策により、時の政府による恣意
的な教育支配を招きかねないこと。
このように「改正」法案は、現行法がその基本とする一人ひとりの教育を受ける権利や個人の価値の尊重を否定し、国家の定めた徳目を身につけさせて、国家
に資する人材を育成させるためのものにしようとしている。
「改正」法案は、社会教育や図書館の存在意義と位置づけを大きく変えている。現行法第2条(教育の方針)の削除、第7条(社会教育)の改悪、第10条
(教育行政)の改悪により、また「改正」法案第3条(生涯学習)により、図書館の設置が教育の目的(現行法第1条)と切り離され、権力による支配や介入を
許し、愛国心などを教育の目標として「生涯にわたって」達成するための機関と位置づけられる。
それは、現行「図書館法」そのものの改変・改悪へとつながり、あらゆる市民に知的権利(知る自由)を保障するために資料・情報を提供し続ける「民主主義
の砦」としての図書館にとって、重大な危機といわざるを得ない。
図書館は、国民の知る自由を保障するものである。それゆえ民主主義社会に不可欠のものである。
私たち、図書館問題研究会第53回全国大会に参加した、図書館利用者・市民および図書館員は、教育基本法改悪法案に反対し、同法案の廃案を強く要求す
る。
そして、現行教育基本法の精神があらゆる教育の場において生かされ、結実することを心から希求するものである。
右決議する。
2006年7月11日
図書館問題研究会第53回全国大会