2009年5月3日
総務省総合通信基盤局電波部電波環境課御中
提出者:電磁波間題市民研究会
生体電磁環境に関する今後取り組むべき研究課題の提案(パブリックコメント)
研究課題名称:曝露試験を行った電磁波過敏症研究の検証と新たな研究デザインの構築等に係る研究
<要旨>
多くの人はその影響を自覚することができない微弱な電磁波に反応してさまざまな症状を呈する、電磁波過敏症(EHS)に苦しんでいる方々がいる。EHSと電磁波被曝の関係を探る従来の研究の中には、EHSを訴えている発症群と、そうでない対照群に対して、電磁波曝露試験を二重盲検法によって行い、電磁波「感知」能力や、生理的データの変化等について、両グループに有意差があるかを調べるという研究デザインのもとに行っている研究が多く見られる。こうした実験の結果、「電波を正確に感知しているかに関しては、両群で有意差はなかった」などとして、EHSの症状が「電波により生じているという証拠は見出せなかった」と結論づけている報告も多く見られる。総務省「生体電磁環境研究推進委員会」報告書中の「携帯電話基地局からの電波による症状に関する研究」もその一つである。
しかし、EHSにおける被曝と症状の関係について「従来の曝露試験によっては正確な結果を得られない可能性が大きい」または「曝露試験結果を評価するうえで必要な留意点を踏まえていない」と発症者から疑問の声も上がっている。なぜなら、EHSの発症者は総じて電磁波被曝により症状が出るものの、本人の体調等によってその出方には大きな違いがあるからである。また、電磁波に反応すると思い込んでいるだけの方々を発症群に含めているおそれもある。曝露試験の実施にあたって以上の点を配慮したのか、また、曝露試験結果の評価にあたって以上の点に留意したのかについて、従来の研究において必ずしも明確ではなく、検証が必要である。検証結果を踏まえて今後の研究のあり方について検討し、必要であれば新たな研究デザインの構築へ向けた検討を行うことも求められる。
以上の検討を行う研究の実施を提案する。
この研究を適切に行うためには、電磁界専門の工学者や、実験・研究を主に行っている医師だけではなく、EHS発症者の臨床経験が豊富な医師や、臨床を踏まえた研究を行っている研究者など、発症者の実態に精通している方々の知見が必要であり、そうした医師・研究者が参画した研究態勢の構築も併せて提案する。日本におけるそうした医師・研究者の代表は、北里研究所病院臨床環境医学センターの石川哲医師(北里大学名誉教授)、宮田幹夫医師(同)、坂部貢医師(北里大学薬学部教授)らである。
<電磁波問題市民研究会による解説>
総務省は、3月から4月にかけて「平成22年度以降の「生体電磁環境に関する今後取り組むべき研究課題」(医学・工学分野に関する研究課題)」の提案についてパブリックコメント(パブコメ)を募集した。このパブコメは、同省の「生体電磁環境に関する検討会」( 座長:大久保千代次・明治薬科大学大学院客員教授)での「検討にあたっての基礎資料として活用する」ことが目的とされている。同検討会は「電波による人体への影響に関する国内外の研究成果を評価・分析し、我が国が取り組むべき研究課題を抽出することにより、研究を促進するとともに、電波防護指針の評価・検証を行うことにより、国民が安心して安全に電波を利用できる社会を構築する」ことを目的に2008年6月から設置されている。
電磁波の非熱影響等を否定した前委員会
過去において、総務省は1997年から「生体電磁環境研究推進委員会」を開催し、2007年に「現時点では電波防護指針値を超えない強さの電波により、非熱効果を含めて健康に悪影響を及ぼすという確固たる証拠は認められない」等とする報告書を公表した(注1)。
この報告書を根拠の一つとして、総務省は「電磁波が危険であるという証拠はない」旨を主張し、携帯電話業者などが住民と紛争になった場合にも、この報告書を安全性を主張する“錦の御旗”にしている。
しかし、同委員会は委員の構成が中立公平ではなく、報告書の内容も科学的に問題があるとして、市民団体などから批判されている(注2)。
現在の検討会は同委員会を引き継ぐものと位置づけられるが、委員の構成等を見る限り、以前の委員会との共通が多く、所詮は「電磁波は安全である」という国の見解にお墨付きを与えるためのものであると現時点では言わざるを得ない。
したがって、市民がパブコメを提案しても、結局は無視されるかもしれない。
また、研究は「研究費の出所(スポンサー)はどこか」などによっても、結果が左右される(注3)。
だれがその研究を行うのかも、重要な問題なのである。同検討会委員には、電気通信事業者から研究費を得たことが明らかになっている者もおり、もし市民の提案が採用されたとしても、彼らが担当すれば、その結果に影響する恐れがある。
これらのことを考えれば、パブコメの応募は無駄に終わるかもしれない。
市民の批判を意識した「ポーズ」か
しかし、前の委員会では研究課題の提案を募集することはなかったのに、今回は募集したことは、前述の市民による疑問や批判などを総務省も無視できなくなり、市民の意見も取り入れているというポーズだけは取らざるを得ないからだとも考えられる。
市民による提案が結果として無視されたり、ゆがめられた場合は、その事実が残るわけだから、その意味ではパブコメに応募することにも意義があると言うことができる。
必要な研究課題は多々あるが、当会は、今回は電磁波過敏症の研究について提案した。
<注1>総務省のウェブサイト
<注2>市民による批判の例として、三潴裁判控訴審の最終準備書面106〜111頁 また、市民による疑問の例として、市民団体共同提出の質問状第1回および第2回
<注3>携帯電話使用による健康影響調査の資金源と結果・スイスの研究者らによる実験研究の体系的なレビュー
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