スカイパーフェクトのアンテナ設置差し止め訴訟
高木一昌
訴訟原告弁護団弁護士
スカイパーフェクトJSAT株式会社を被告として、アンテナ設置差止めを求めた裁判(東京スカパー訴訟)が、いよいよ証人尋問の手続に入り、大詰めを迎えております。提訴が平成19年1月でしたので、早いもので5年弱が経過しております。
電磁波による健康被害は、近年になってようやく耳目を集めるようになってきた新しい問題であり、まだまだ社会の認知が足りないと思われます。東京スカパー訴訟は、電磁波による健康被害の危険性を世に訴えることも提訴の目的の一つですから、専門家証人に法廷で発言して貰う証人尋問手続は非常に重要です。幸い、日本における電磁波問題の第一人者ともいえる、荻野晃也博士に原告側証人となることをお引き受け頂いたので、十分な体制で第1回の証人尋問に臨むことができました。
2011年12月に反対尋問
ちなみに、東京スカパー訴訟の証人尋問のスケジュールは次のようになっております。
(第1回)2011年10月3日(月)午後1時30分〜
原告側証人・荻野晃也博士:主尋問(120分)
被告側証人・三浦正悦氏:主尋問(45分)
(第2回)2011年12月19日(月)午後1時30分〜
原告側証人・荻野晃也博士:反対尋問(60分)
被告側証人・三浦正悦氏:反対尋問(45分)
被告側証人・河崎憲一郎氏:主尋問(30分)
(第3回)2012年2月20日
被告側証人・河崎憲一郎氏:反対尋問(30分)
原告本人:主尋問(60分)&反対尋問(20分)
被告側証人・菅井正実氏:主尋問(10分)&反対尋問(20分)
このスケジュールを見ればおわかりのように、荻野先生に原告の主張に沿った証言をして頂く時間(主尋問)は120分しかありません。この限られた時間の中で、原告の主張のポイントをわかりやすく証言して頂くために、荻野先生には、京都在住にもかかわらず何度も上京して頂き、打ち合わせを重ねました。主尋問のシナリオ(質問と答え)も打ち合わせの度に、第1稿、第2稿…と改訂を重ね、最終的には第10稿となりました。
最新の研究成果を取り上げる
荻野先生の主尋問で心掛けたのは、“最新の”研究・報告について荻野先生にコメントして貰い、「研究が進むにつれて、電磁波の危険性が徐々に明らかになってきている」ことを裁判官に印象づけるようにする、ということでした。冒頭で述べたとおり、東京スカパー訴訟は、提訴から5年弱も経過しておりますが、この5年弱の間には、原告にとって有利な研究・報告も相当出されておりますので、証人尋問の実施までに年月が掛かったことは決してマイナスではなく、むしろ“最新の”研究・報告を尋問で取り上げることができた、という意味ではプラスであると思っております。
フランスの判例を指摘
フランスでは、2008年9月に、裁判所が「健康障害が生じる危険性については、国際機関やフランス政府当局がこの問題について予防原則の適用を推奨していることについては争いがない」とか「被告は本件について危険が存在しないことを立証していない上、予防原則を遵守する姿勢もなんら見せていない」等の理由を挙げて、通信会社に対して送受信施設の撤去を命じておりますし、2009年3月にも同趣旨の判決が出ています(日本の裁判所が同じ姿勢で判断してくれるならば、東京スカパー訴訟も原告側が勝訴するでしょう)。最近では、IARCが高周波電磁波による発ガンリスクについて2Bに指定したことなども注目されますが、主尋問で荻野先生にこれらについて言及して貰えたことは原告にとって幸いでした。
原発裁判の歴史に学ぶべき
また、荻野先生は、過去に「伊方一号炉原発訴訟」において原告補佐代理人を務め、活断層の上に原発を作ることの危険性を訴えていたという経歴があるのですが、当時は、今では当たり前となっている「活断層地震説」が裁判所に採用されませんでした。最近の新聞記事において、「伊方一号炉原発訴訟」の訴訟終結から17年経った今、当時の原告の主張(すなわち荻野先生の主張)が正しかったとする検証記事が載ったのですが、この記事についても主尋問で荻野先生に言及して貰いました。
荻野先生は、東日本大震災が起きる前から、原発の地震や津波に対する脆弱性を訴えていたのですが、その訴えが実らず、福島の原発事故が起こってしまったことについて、以前に「自分の主張が正しかったことが証明された、という思いは全くない。ただ起こってしまった現実が悲しい。」と発言されていたのですが、主尋問でこの点について証言されている時の荻野先生の声は涙ぐんでいました(荻野先生は「お恥ずかしい」とおっしゃっていましたが、私は「素晴らしい」ことだと思います)。
荻野先生は、せめて電磁波問題については被害が現実化する前に是非ともくい止めたい、という想いで専門家証人となることを引き受けてくださいました。荻野先生の想いが裁判官にも伝わることを願ってやみません。
これから荻野先生の反対尋問や原告本人尋問、被告側証人の尋問と山場が続きますので、東京スカパー訴訟の応援を是非とも宜しくお願いします。
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