<半導体の研究をしていた経験から>

 私は6年前まで、半導体装置メーカーにおいてプラズマの発生装置の開発・研究に関わっておりました。パソコンの中身のCPUやメモリーを製造するための装置です。

 プラズマはよく例として蛍光灯があげられます。蛍光灯は50ヘルツか60ヘルツの交流で放電します。100キロヘルツ以下の放電は直流的に解釈されます。それ以上は高周波として扱われます。

 私どもでは、半球状の石英ガラスに銅パイプをらせん状に32巻きし400キロヘルツの高周波を接続して、ガラス中のガスにプラズマを発生させます。ガラスの中には、酸素ガス・窒素ガス・アルゴンガス・フッ素ガス・塩素ガス・水素ガス等を注入してあります。ガス(プラズマ)の発光はとてもきれいで、さまざま色を体験できます。この中にウェーハをいれて有機物や無機物を各プラズマと反応させてウェーハ上に電気回路(素子)を作り上げていきます。
 この装置は、ガスが電気的に扱いが難しく、流した高周波エネルギーをすべてプラズマに注入できればよいのですが、ほとんどはラジオと同じで、電波として放出されます。またプラズマ自身も紫外線を放射しますので被爆しないよう、通常金属の板で覆います。しかし、この電波が厄介で、この金属板をとめているねじが少しでも締まっていないとねじと金属板との間で放電します。
 さらにすごいのは13.56メガヘルツの高周波を使用したときで、高周波ほど電波になりたがる性質をもつので、いわゆる、チューニング(業界ではマッチングといいますが)の変化が激しく、とにかくいろんな金属線をたどっていくので、時には、隣の装置のケーブルにこの電波がのってしまい、その装置の制御用パソコンが動作不能に陥りました。

 この業界の開発・研究部隊は、基本的にはどの会社よりも最先端の装置を作らないと、経営が厳しくなります。これは何を意味するかというと、人の安全よりも利潤を追い求める、すなわち最先端装置の開発が重要であるのです。
 そうすると実際どうなるか、先ほどの装置では、金属シールドがあると研究できなくなるのが実情です。つねにシールドがない状態で、100キロヘルツ〜13.56メガヘルツの電波(2000ワット上限)に曝され、紫外線にも被爆します。
 開発室はクーリングルームといい、閉鎖的な空間ですので電波が出て行く出口がないので、電波はなかなか減衰しません。精神的にも肉体的にもかなり疲労します。目も悪くなる人も多いです。

 さらにいろんなプラズマ源の開発に伴い、100メガヘルツ〜2.45ギガヘルツも扱いました。このレベルでは伝送はケーブルで不可能になってきます。たいがいは導波管というもので伝送します。このレベルになると電力密度が高く、チューニングがうまくいかないと、放電(雷が落ちる)が起きたりして、電波のエネルギーが熱エネルギーに変わり、通常解けないテフロンという材料が溶けたりします。とてもすごいエネルギーだと感じました。とくに2.45ギガヘルツのマイクロ波(電力上限1500ワット)は装置設計や金属加工に少しでもミスがあるとマイクロ波が漏れます。このときはマイクロ波パワーメーターで漏れを探します。漏れがあると応急措置として銅テープを貼って漏れを防止します。
 おもしろい話を一つ。昔、東工大と共同研究していたときに、先生がマイクロ波のもれは蛍光灯を近づければわかるのでは、と冗談を言っていましたが・・・。これ実際に点灯しますよ。これはマイクロ波の性質ですが、無電極放電といいます。マイクロ波の前に蛍光灯を持つだけで点灯するのです。このような現象が携帯電話でできないかなと思っています(電力が小さいから難しいかもしれませんが)。
 ちなみに、家庭用の周波数では、蛍光灯を点灯するだけの力がないので、グロー放電管を使って高電圧を発生し、点火放電します。

 逸脱しますが、安全に関係するということで、ご容赦下さい。友人が昔(高々7〜8年前)某会社の中央研究所で電子ビームを扱っていたらしいのですが、まったくシールドが無い状態で実験していたらしいのです。
 この装置では、電子が加速してものすごいスピードになり、目的の物質に衝突したときに、X線が放射されます。これを制動輻射といいます。ですから、ここの研究者はX線に被爆しながら、実験していたのです。彼がX線の測定をしたので、まわりの人々がようやく納得して、シールドがつきました。とてもこわい会社だと思います。
 特にこの会社の研究者は、出身大学は有名どころばかりなのに、自己保身には疎いのか、このような状況をなんとも思わず実験していたのです。とても信じられない気持ちです。
 しかし、企業や大学はこのような環境にあるところが多いのではと、友人関係の情報からも考えております。皆さんが使っている便利な電化製品・工業製品は、開発者・製造者が相当に危険な状況で作っていることを、肝に銘じてほしいと思います。ある意味で競争原理は怖いです。人間の安全は二の次となりますので。

 以上は、おそらく加熱効果の話になると思います。特に、人間は水分を多く含んでいるので、マイクロ波と少し相性がよいので、長時間被爆は絶対に避けるほうがよいですね。水の誘電率の周波数分散特性をみると、どの周波数一番共鳴しやすいかわかります。おそらく70〜80ギガヘルツではないかと思います。いい加減だったらごめんなさい。

 電磁波シールドについては、表皮効果というものが重要になります。たとえばシールドの材料として、ある誘電率・透磁率の金属を選択した場合、電磁波の周波数によってシールドへのしみこみ方違います。
 たとえば、シールドが銅の場合、10ギガヘルツのマイクロ波はシールドの銅にどれくらいまでしみこむか。計算では6.7マイクロメートルしかしみこまないのです。これを表皮厚さといいます。ここで断っておきますが、しみこむ深さは、最初の電磁波の強度の約1/3になるまでの深さですので、ゼロになる数値ではありません。ちなみに理論的にゼロになる深さは無限大です。
 ここでいいたいのは、シールドについて重要な数値を覚えてほしいのです。それは電磁波の周波数とシールドの誘電率と透磁率です。ぜひ調べてみてください。表皮厚さの式も書けるといいのですが。問い合わせください。ですから、高周波に対しては、基本的には、シールド対策はある程度期待できます。

 ところが、極低周波になると事情がちがってきます。磁場が無視できなくなるのです。いわゆる非加熱効果です。シナプス間隙での現象がおもしろいことを物語ります。イオンを受容する側の細胞であるイオンチャネルの力学的運動は最大周波数500ヘルツなのです。50〜60ヘルツ(家庭用電力)の交流磁場が起因して誘導信号を作るのです。絶縁破壊という信号伝達手段もありますが、丁度よい強度の信号だと、神経系や免疫系が誤動作する可能性があるのではと、勝手に思っております。


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