[注:個人名関連は「*」であらわす]


<質問書>

電波防護指針の安全性に関する質問書

郵政省電気通信高電波部
電波環境課課長殿

 郵政省は、省令により1999年10月l日より従来の電波防護指針答申を強制規格として制度化しました。これによって電波関係事業音の間に、「この電波防護指針植の範囲内での電波連用ならば人体に対して安全が保障された」との解釈が生まれています。この電波防護指針は、世界保健機関(WHO)、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)等の見解や諸外国の実情を参考にして策定されたものと伝えられておりますが、各国の防護指針値との比較においても緩い基準値となっている感は否めません。特に携帯電話タワーについて非熱効果(作用)に配慮して0.1マイクロ・ワット/cm2という規制を開始したザルツブルク市(オーストリア)に比すれば、1000マイクロ・ワット/cm2という郵政省の基準ば1万倍もの緩さに相当するものです。もとより我国の電波防護指針は人体における熱効果のみを基準に策定されたものであり、長期的電磁波被曝による非熱効果の人体影響を想定したものではなく、従っ て、健康面での安全が担保されるには科学的根拠がないものと考えざるを得ません。

 ラジオ波・マイクロ波等の高周波電磁場領域に於ては、非熱効果によると思われるガンや記憶減退等の人体悪影響が一連の研究により報告されているところですが、現実の健康リスクのレベルは未知であります。1996年5月にWHOは0〜300GHzの電磁波被曝によるこれらの人体影響に関し、そのリスクアセスメントに資するため5ヵ年計画でいわゆる国際EMFプロジェクトを開始し、現在その作業の続行中ということです。(WHO Fact Sheet No.181, No.182)−このプロジェクトの協力団体である米国立環境衛生科学研究所(NIEHS)からは昨年6月に「RAPIDプロジェクト」最終報告書が発表され、その中で小児白血病とELF電磁場との関連で、「被曝低減のための方策など間接的な規制」を提唱しています。
 一方ICNIRPは1998年4月に「被曝制限のためのガイドライン(300GHzまで)」を発表しています。『目的と範囲』の項によれば、同ガイドラインは以前のものに代わるものと位置づけられ、しかもそれは「定期的に改訂され、又時間的に変化する電界、磁界および電磁界の健康への有害な影響の確認が進展するにつれて更新される予定である。」(多気、相本訳、以下同じ)といわています。
 又、『高周波電磁界の直接的影響』の項では
「がんリスク−がんリスクとマイクロ波長雷の研究はほとんど存在せず、又全般的に定量的な暴露評を欠いている。(略)(携帯電話ユーザー)現時点に於てガンの発生率または死亡率への影響について調査するのは時期尚早である。」(略)全体的にみて、発表されている少数の疫学的研究の結果のもたらすがんリスクに関する情報は限られたものに過ぎない。」
「細胞および動物研究一(Repacholi他1997年報告(略)この研究は非熱メカニズムが働いた可能性を示唆しており、さらなる研究を必要としている。」
以上のように述べられています。
 ICNIRPのガイドラインが「慎重なる回避」Prudent Avoidenceの考えを取り入れていないことには限界が認められますが、先の国際EMFプロジェクト(WHO)の目的主旨と98年ガイドライン(ICNIRP〉の論旨によれば、非電離放射線の非熱効果に関しては、最近研究が始まったばかりであり、ましてや、電波タワー周辺における健康障害に付いてはデータ(Hocking論文、Dolk論文等)が少なく、今後の研究調査を奨励するというものです。我国に於て昨年科学技術庁が中心となり「生活環境中電磁界による小児の健康リスク評価に関する研究」(低周波)を開始したのも、この世界的な要請に沿ったものと解せられます。従って現行の電波防護指針値が、将来長期にわたり人体影響の安全を保障するものであるとする根拠はどこにも見当たりません。
 日本では、いわゆる「白井論文jなるものが電波事業者によって電磁波安全論の根拠として宣伝されていますが、この実験はわずか6週間だけ肝臓ガンに限って調べたものであり、当論文や98年郵政省のラット実験の結果は、何年もの長期にわたり、電波鉄塔からの変調高周波に曝され続ける住民やとりわけ子供達、長期間端末を使用する大衆のリスク評価の参考にならないことは論を待ちません。

 多気昌生氏(都立大)は電子情報通信学会のワークショップ(97年)に於て「非熱作用の影響は、仮に有ったとしても、小さな影響である」と論じていますが、これは公式のリスク評価によらない個人的見解であり、一方で「しかし、これは高周波電磁界の安全が証明されているという意味ではない、ということも忘れてはならない。(中略)防護指針を満たすことが絶対に安全を保障するものだという誤った認識が事業者側にあり、(以下略)」と述べていますが、電波防護関連委員の発言として注目すべきものです。
 以上の観点より、電波防護を主管する貴職に対し、以下5点にわたり質問します。責任ある回答をお願いします。

質問

  1. 現行の電波防護指針の範囲内での電波利用なら人体に対して安全と保障できるか?
  2. 「安全」と保障できるならば、その根拠を明示されたい。
  3. 現行の電波防護指針での電波利用により、利用者あるいは近在住民に健康障害が生じた場合、その責任は誰が取るのか?
  4. 郵政省発行のリーフレット『電波防護のための基準が制度化されました』には「これまで40年以上の研究により、云々」と書かれているが、非無作用に付いでどのような研究の蓄積を認めているか?できれば年代順に一覧表でお答え願いたい。
  5. ICNIRP98年ガイドライン『防護対策』の項に「次のことを防止する規則を設け、実施することも重要である。」として、「誘導電磁界、接触電流または火花放電によって生じた火花による引火性物質の発火による火災及び爆発」を挙げている。郵政省内専門部会に於てこの点を検討したことは有るか? 又、将来このガイドラインの勧告に沿って、ガソリンスタンド等と電磁波発生源との関係に於て、何らかの規制を設ける可能性は有るのか?

 現在、日本各地に於て携帯電話鉄塔やPHSアンテナが建設され、他に最適の立地条件の場所が有るにも拘らず教育施設、住宅地、病院等に隣接して野放図に建設が強行され、住民との間に摩擦が生じ大きな社会不安となっています。我国に於て、わずか十数年前、「薬害エイズ」という国民的犠牲が厚生省を舞台に惹き起こされた事実は記憶に新しいところです。郵政省に於かれましては、同じ歴史を繰り返さないよう慎重なる対応を望んで止みません。御回答は下記ヘ、遅くとも2月いっぱい迄に文書にてお送りください。

  2000年2月6日

電波鉄塔を考える住民の会
事務局代表  ****(印)
住所  〒********
****************


<回答書>

平成12年2月21日

電波鉄塔を考える住民の会 殿

郵政省電気通信局
電波部電波環境課

電波防護指針の安全性に関する質問書(回答)

 我が国の電波防護指針は、平成2年及ぴ平成9年に、電気通信技術審議会において、この分野の研究を行っている医学系や工学系の研究者をはじめとする専門家の方々にご審諸していただき、世界保健機構(WHO)と連携して活動している国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)などの国際的動向を踏まえ策定していただいたものです。
 この電波防護指針についでば、lCNIRPがら、これまでの研究結果を調査した結果、電波防護指針を下回る強さの電波によりがんを含め健康に好ましくない影響が発生する証拠はない旨の声明が出されているように、電波防護指針を満たせば健康に悪影響が発生する証拠はないというのが、国際的にもこの分野の専門家の共通認識となっています。
 郵政省としては、このような認識を踏まえるとともに、平成9年に電気通信技術審議会から電波防護指針を強制規格化することが望ましいとの提言を受け、この電波防護指針を無綿局が守るべき強制規格として制度化し、昨年10月から施行したところです。

(また、電波による引火物質への発火についてですが、ガソリンスタンドにおいて携帯電話が原因で発火したとの事実はこれまで承知していません。)

 ご質問に関しまご回答は以上のとおりでありますので、ご理解のほどよろしくお願いします。


<要望書>

郵政省電気遠信局電波部
電波環境課殿

要望書

 貴課より当会に対しまして2月29日付で、「回答」が送付されました.しかしながら、当会の質問書〈2月6日付〉の内容に沿ったものとは認めがたく、肝心の電波防護指針の安全性とその根拠、責任の所在に付き、明確な回答となっておりません。
 再度、当会の質問書をよく読み直していただき、質問の項目に沿った御回答を切に要望いたします。
 尚、貴課より頂いた文章中には、ICNRPの新しいガイドライン(1998年)があるにも拘らず、1996年の古い声明の内容が引用されておりますが、その理由をお教えください。
 更に、スイス政府は本年2月1日より、日本の防護指針値のおよそ100倍の厳しさの新防護基準を施行しました,「現在知られている有害性のみならず、将来証明されるであろう有害性の要因から公衆を守る」という理念によったものと伝えられています。このことに対する貴課の見解もあわせて御回答頂きたく存じます。

2000年3月14日

電波鉄塔を考える住民の会
事務局代表 ****

〒********
住所 *********
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